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紫アザレアが察するには  作者: こたつ
多色の観覧
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54

【シガン視点】

〜解散後〜


 あいつは何を考えとるんや?

俺は校舎を足早に周りながらつつじへの不満で胸を一杯にする。

そもそも、何でコックリさんなんてやったんや。

能力持ちがやったら一発アウトやってわかるやろ。

その上月乃さんが生死不明。

 あいつ割とケロッとしとったぞ?

確かに最初はうずくまっとったけど。

 そんでも俺らに気づいたらいつも通りのツツジやったし。

やのに蓋を開けてみれば月乃さんが行方不明で生死も不明。

 月乃さんは先帰ったんとちゃうんか。

何で一緒に巻き込まれてんねん。

 しかもつつじはいつも通りケロッとしとるし。

もっと焦れや。

もっと不安そうな顔をしろや。

 あいつは時々人の心がないんちゃうかと疑うけど、ホンマに心ないんとちゃうか?

思っとるけど顔にでぇへんだけならええ。

やけど、もし本当に何も思わへんなら。

思えへんのなら。

 お前をそうしたのは何や。

お前は昔、もっと楽しそうに笑っとったやろ。

もっと楽しそうに生きてたやろ。

怖いことがあったら怯えて、何か不測の事態があったらすぐに慌てて。

そんな能面みたいな顔、しとらへんかったやろ。

 いつのまにか月乃さんを探すことも忘れて、俺はいつかの過去を見つめた。


俺とつつじが初めて会うたのは、まだあいつが母親の腹ん中におるときやった。

そんとき俺と雪花は十九で、俺は雪花の幼馴染でそんときもおんなじ大学に通っとたから、まだ生まれとらんつつじに会えた。

 まぁ、会えたというより雪花に引っ張って合わせられたの方が正しいんやけど。

その後も俺と雪花が結婚したこともあって、山瀬家とはそれなりに関わりがあった。

特に雪花はつつじを可愛がっとったから、雪花が死ぬまで、つつじが五つになるくらいまでは、月に一回、多い時は週に一回くらいのペースで雪花はつつじの面倒を見とった。

俺も時々雪花についていっとったから、つつじが本当に幼い頃のことはそれなりに知っとる。


 やけど、雪花が死んでからは、そうやってつつじの面倒を見ることもなくなっていった。

それでもまだ俺が山瀬家と繋がりがあるのは、他に理由がないと言ったら嘘になるけど、やはり雪花が気にしていたつつじと、つつじの両親も大きな理由やった。

若いうちに娘を亡くした二人と、幼いつつじのことが雪花の心残りやった。

 幸いにもつつじの両親は俺が時々顔を出しても、俺を邪険にはせんかった。

 やけど、俺がつつじに会うことはほとんどなくなっとった。

俺が顔を出しても、つつじは学校やったり遊びにいっとたり、部屋に篭っとたりで会う回数が極端に少なくなっとったから。

時々会うても挨拶をする程度。

 そんなふうに、緩やかに疎遠になって終わりやと思っとった。

そっと見守れればよかったんや。

雪花の代わりに、兄になろうとは思わへんかったけど、困っとったら助けるくらいのことをしようと。

 それやのに、まさかつつじが能力持ちになるなんて、思ってもみんかった。

久しぶりに会うたと思えば、つつじはヒガンが見えるようなっとった。

 やから、つつじが両親と海外にいかなあかんくなっとるのを聞いて、海外にいかず、ここに留まりたいとつつじが言うのを聞いて、つつじがここに居れるようにつつじの両親を説得した。

 守れるように。

雪花が守りたかった人が、死なへんように。

 つつじは自分とフェレスの力で難なく怪異を跳ね除けてっとったけど。

おかげで色々と説明すんのを忘れてしまったわ。

 むしろ、俺が心配やったのはつつじの中身の方やった。

つつじは見た感じ人から構われたり心配されるのがいやそうやから、言えへんけど。

あいつはいつも無表情で暗い何かを纏う。

 その暗さがつつじをつつじにしとる。

どうやったらもう少し明るく、具体的に言えば昔みたいによく笑うようになるのかわからんかった。

 現に、月乃さんがどこにいるかもわからず、生きているかもわからへんのに、あいつは平然としとった。

まるで感情そのものがなくなってもうたみたいや。

 露骨に心配すれば嫌がるやろうから、こうして距離を置いて見とるわけやけど。

ほとんど会った記憶もないおっさんが急に世話焼き出したんやし、元々人に頼らずともやってける人やから心配せんでもええのかも知れへんけど。

 そんでも、やっぱりあいつの無表情はどうしても嫌な感じがしてまう。

何でかはわからへんけど。

 あいつが月乃さんみたいな性格しとったらこんなに考えんでよかったんやけどなぁ。

そこで俺はようやく月乃さんを探していた事を思い出しながら二階への階段を登った。

 月乃さんにはほんまに優しいという印象しか俺にはあらへん。

やって、親から虐待されて、学校でもいじめられて、この世の全部を憎んだってええくらい酷い環境におったんに、あの子は誰にでも、それこそ怪異にも優しい。

無愛想なつつじにも真正面から接してくれとるし、あかねとメリーからも好かれとる。

 俺らとは“違う”。

真っ当な優しさ。

 それがあの子にはある。

やから、ここにはおらへんヒガンにはそれが新鮮で面白く映るんやろう。

 俺もヒガンも雪花もつつじも皆、真っ当な優しさなんて持っとらん。

 そんな子が今どこにおるかもわからへんどころか生きとるかもわからへんなんて世の中不公平なもんや。

 

「あれ、お兄さん、授業参観に来た人?こんな時間に何してるの?」


 二階についてすぐ、その声は聞こえた。

低くよく通る声の主は、この学校の制服に身を包んだ大人びた少年だった。

 突然話しかけられた俺は咄嗟に声が出ぇへんくて、思い切り固まってもうた。

 にしてもこいつ、突然出てきよったな。


「お兄さん?」

「あ、ああ、そうや、授業参観に来たんや。」


 もはや遠い過去のように思える授業参観を思い出しながらようやく出た声を発する。

 そう言えば、今はこんな事態で忘れていたが、元はウズの妹を探していたのだ。

つつじが本気で嫌そうにしているウズの妹を。


「何してるの?」

「………………人を探しとる。」

「ふ〜ん。さっき通った時、そこ教室に女の子がいたよ。」

「その子、真っ黒な長い髪の一年生やったか?」

「うん、そんなだった。探してるのはその子?」

「せや。教えてくれておおきにな。」


 俺は礼もそこそこに少年が示した教室に入る。

つつじの教室よりも机と椅子の数が格段に多く電気が消えて真っ暗な教室の真ん中の机に、人影が見えた。

 電気をつけてからギッチギチに机と椅子が敷き詰められている教室を進むと、机にいる人影の顔が確認できるようになる。

 穏やかな顔をして椅子で眠っているのは、間違いなく月乃さんやった。

穏やかに呼吸をしている月乃さんの体に怪我は見えへん。

 ほっと安堵の息を漏らしながらもう一度少年に礼を言おうと振り返ると、そこに少年はおらへんかった。

 廊下まで見に出て行ってみるが、やはり人影はあらへん。

 もう帰ったんか?

さっきも突然出てきたし、変な奴やな。

若干不審に思いはしたが、気にせずに月乃さんを見つけた旨をメールに記してつつじに送る。

集合場所は……靴箱でええやろ。

 連絡を済ませてから月乃さんをおぶって靴箱へと足を向けた。

 

少年はどうして通りかかっただけであの真っ暗な教室の中で眠っていた月乃さんの特徴がわかったのか、俺が疑問に思う事はあらへんかった。

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