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紫アザレアが察するには  作者: こたつ
多色の観覧
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落ちたかな。

やらかしたかもしれない。

いや、やらかした。

 後でシガンさんとあかねとメリーさんになんて言われることか。

面倒臭い。

いや、元はと言えば忠告を聞かずにコックリさんをした月乃が悪いのだが。

挙げ句の果てに碌にルールを調べておらず自滅した月乃が。

 一応窓の下を見てみるが、暗くて下まで見えない。

月乃の安否はわからない。

だが、今はそれどころじゃない。


ギシ、ギシミシッ。


少しずつ、軋みが近づいていた。

そっと流し目で教室の扉をみるが、そこにコックリさんの姿はない。

 多分、今ゆっくりと近づいているのがコックリさんだろう。

すっかり古びた小学校のようになった教室から見える窓の外は真っ暗で、星一つ見えない。

 あるのはただどこまでも暗い空と軋む木の音と恐怖に揺れる私の心臓と喉。

壊れたような音がする喉を押さえて目を瞑る。


 何してるんだ。

早く逃げるなり隠れるなりしなければ。

でも逃げてどうする?

ここは普段の教室じゃない。

どこへ逃げる?

逃げたところで鬼ごっこが始めるだけだ。

そっちの方が余程怖い。


ギシっバコっ!。


一際大きな音が鳴る。

どうすれば良い?

 私はまだルールを破っていない。

でも、月乃がルールを破った事で連帯責任として私もルールを破った判定になっているのかもしれない。


ボゴっドガンッ!!


明らかに何かを破壊するような音が響く。

 コックリさんが暴れているのだろうか。

いや、暴れるにしたって私に害がないところで暴れるか?

 そもそもなんで暴れてるんだ?

あれ?と思い始めると後方から聞こえる音が破壊音から何かの悲鳴に変わった。

 これはひょっとして……。

 私は恐る恐る耳から手を離す。

すると聞き慣れた恐ろしい声が。


「お前何やっとんねん!?コックリさんとかアホか!?」


珍しく焦ったような顔をしているであろうシガンさんの声だ。

 私はそっと後ろを振り返ると、全身から真っ黒な何かを吹き出すコックリさんと、その真っ黒な何かを返り血のように浴びたヤク………シガンさんがコックリさんに追い打ちをかけていた。

 さっきまでの喉の痛みと恐怖はどこへやら、なんかもう笑えてくる。

よくみると教室の端にはフェレスとウズさんがニコニコと立っている。

フェレスはウズさんの頭に乗って……


「ウズさん!?」

「あ、つつじちゃん。大丈夫かい?あんまりシガンの近くにいると危ないからね。危ないからじっとしているんだよ。」


思わず叫んだ私のことなどお構いなしにのんびりと話すウズさんはいつもと変わらない笑みを浮かべている。

 思わずウズさんの頭に乗っているフェレスを見ると、ぴょこぴょこと器用にこっちまで来た。


「え?なんでウズさんいるの?」

「まぁ落ち着きなって。とりあえず帰ろうか。」

「待って落ち着けない。ねぇ待って、引っ張らないで、そっちコックリさんが待って待って待ってシガンさん!?何事ですか!?」


 訳がわからないままフェレスに制服を引っ張られて怖い顔をしたシガンさんの前まで連れて行かれたと思ったらシガンさんに俵担ぎにされてシガンさんはその状態でコックリさんに一発入れた後に全力ダッシュ。

 その間にフェレスはウズさんの頭に戻り右とか左とか言いながらウズさんを誘導してこちらも全力ダッシュ。

さては一人でも白杖とかあれば余裕で一人で学校これたな!?

 待って、後ろから来てる。

真っ黒で最終形態みたいになったコックリさんが来てる。

だが、しこたまシガンさんに殴られたからかその足は遅い。

 そしてウズさんは見えてないはずなのにめちゃくちゃ早い。

 脳内がパニックなまま気づけば古びた靴箱まで来ており、シガンさんが外と学校の間の何もない空間をを全力で殴る。

パリーン、とガラスが割れるような音がした後、シガンさんとウズさんはそのまま学校から出る。

 校舎から出るとそこは見知った高校の校庭。

 多分さっき殴って結界的な何かを壊したんだと思う。

だから今こうして戻ってきた、と。

いや待てそんな分析をしている暇はない。

 決してシガンさんに俵担ぎされた時点で月乃の報告をすることを放棄してはいない。

そして別に月乃のことを忘れていたわけでもない。

 一度下駄箱まで戻ってからようやく下ろされた私は月乃のことを報告しようと口を開く。


「シガンさん、つき」

「お前何やってん!?ちょっと目ぇ離した隙にコックリさんてアホか!?」

「いやわた」

「しかもお前あんな状態で俺が来んかったらどうする気やってん!?」


 すごい剣幕で説教を炸裂させるシガンさんは見たことないくらい怖い顔をして怒り続けているため口が挟めない。

早く月乃のことを話さないといけないのに。


「シガンさ」

「大体お前は!」

「シガン、落ち着いて。無事だったんだからそこまで怒らなくても良いだろう?」

「やけど!」

「シガン、つつじがなんか言おうとしてるから一回聞いてあげてよ。」

「……なんや。」


シガンさんはウズさんとフェレスに宥められ、渋々と言った感じではあったが私の話を聞いてくれそうだ。

 だがその顔は怖いままだし不機嫌そうで大変怖いが。


「月乃が、いなくなりました。」

「なんで月乃さんが出てくるんや。」

「一緒に巻き込まれたんですよ。で、私が目を離した隙にいなくなりまして。…………最悪の場合も考えた方がいいかと。」


私は事務的に月乃の安否がわからないことを伝える。

 あの時手を離した時点でもう月乃の安否は怪しい。

 だが、希望がないかと言えばそうでもない。

だって、私は月乃が窓から飛び降りる瞬間を見たわけでもなければ、窓の外で彼女を見たわけではない。

そして何より、私は悲鳴を聞いていない。

 もし月乃が窓から落ちたのなら、悲鳴を上げると思う。

だって、窓から落ちる前に助けを求めるなりとにかく危険を感じて叫ぶなりするだろう、多分。

 少なくとも目を離したうちに無音で飛び降りることは難しいと思う。

あの時かなり大きな音があたりを支配していたからあまり自信はないが。

それでも、探す価値はあるだろう。


「お前、それをはよ言え!!探すで!」


シガンさんはすぐに怖い顔を慌てた顔に変えて言う。

それを聞いていたウズさんもテキパキと指示を出し始めた。


「じゃあ僕とつつじちゃんは怪異の発生源辺りから探そうか。シガンとフェレス君は一人で探せるでしょ?学校の敷地内を探してね。」

「………もしかしたら、窓の下にいるかもしれません。」

「わかった。じゃあ僕は屋外探すから屋内はシガンよろしく。」

「終わったら屋内探しにこいよ?」

「じゃあ決まりだね。解散!」


ウズさんがそう言うと二人はすぐに外と中に散っていった。

 そして私は残ったウズさんと三階の自分のクラスまで戻ることになった。

が、なんせ私がウズさんと会うのはこれで三、四回目。

ウズさんにどう接していいのかあまりよくわからない。

その上目が見えない人をどうやって誘導すればいいのかもわからない。

 

「僕たちも行こうか。」

「はい。えーっと、どうすればいいですか?」


とりあえずどうするべきかウズさん本人に聞いてみる。

見たところウズさんは白杖も杖も持っていない。

 普段どうやって移動しているのかはわからないが、一人で高校まで行けないと言っていたので何かしらの介助は必要だろう。

 たださっき声の指示だけで思いっきり走っていたので本当に介助が必要かどうかはわからないが。


「つつじちゃんは気がきくね。それじゃあ、これを持って僕よりちょっと前に出て歩いてくれるかな?」


そう言ってウズさんがポケットから出したのは短いタスキのような布で、布の両端を結んで丸くしてある。

 それを握ってウズさんの半歩ほど前に出てみる。

ウズさんは私が持っている布を持っていて、私が布を引っ張ればウズさんも引っ張られる。

 これなら何もないよりは歩きやすいかもしれない。


「布の高さ大丈夫ですか?」

「うん、大丈夫だよ。」

「じゃあ歩き始めますね。」


そう言ってからゆっくりと歩き出す。

 それに伴いウズさんもゆっくりと歩き始める。

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