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「あの山、そんなのいたんだ。」
「『そんなのいたんだ』じゃないよ。こっちは必死だったんだから。」
私は自宅に帰って、どこぞから帰ってきたフェレスに文句を言っていた。
訳あってこの家には今現在私とフェレスしか住んでいないので他の人間には見えないフェレス相手にも堂々と話ができる。
今は帰り道の謎の怪異について報告しているところである。
正確にいうと報告という名の文句を伝えている。
置いていかれただけでも文句が絶えずあるのに、怪異まで出たとなればその文句の数は当然増える。
そもそも、置いて行くこと自体がおかしいのだ。
ただでさえ子供の怪異が近くにいてそれなりに危なかったというのに、山に置いて行くとはどういう了見だ。
「あの山には怪異がいる感じはしなかったけどなぁ。」
フェレスは悪びれた様子が微塵もない。
「多分、妖怪か妖だね。」
「妖怪て…」
怪異とかいうわけのわからないものに追加で妖怪と妖が存在するのか?
日本人なら妖怪も妖も聞いたことくらいはあるだろう。
ただ、妖怪と妖の違いはなんなのか。
近頃小説やら漫画やらで妖というのはよく聞くが、結局あれはなんなのか。
「妖は、一つの怪異と人間を足して二で割ったみたいな存在で、日本には昔からその血筋がそのまんま受け継がれてるんだよ。人間にその血が入ってることも稀にある。妖怪は、その妖の中でも怪異の方の血が多く入った個体のことをいう。」
「なんかざっくりしすぎじゃない?」
なんだよ足して二で割ったみたいな存在って。
「妖界ではまた違った解釈があるらしいけど、僕はこんな感じで認識してる。」
「ようかいって何?」
「妖界隈?」
どこで界隈なんて言う今風な言葉覚えて来たんだ。
私ですら使った事ない単語だぞ。
「ていうか、いかにもな感じで言ってるけど、要はよくわかってないだけでしょ。」
「うるさいよ。」
一応この手に私の命はかかっているのだが、大丈夫だろうか。
「そもそもさぁ、怪異が人間と一体化して新しい種族生み出すなんてわかると思う?無理だよ、そんなん。予想できる訳ない。」
完全に開き直っていやがる。
しかも、私を置いて行ったことではなく、怪異が妖を生み出したことに対して開き直っている。
そもそも開き直ったとてそれ止められる類のものなのか?
聞く限りは進化の過程で何かあったような気がするのだが。
というか、フェレスの口ぶり的に妖が生まれたのは随分と前だろう。
人間ではないとは思っていたが、一体いつから生きているのか。
確か、怪異が解き放たれた時にはもうフェレスはいたらしいが、それがいつの話なのかはわからない。
怪異を解き放ったのはフェレスだと本人(?)から聞いていたが、それがいつなのかは聞いていない。
フェレスはきっと、私が思っている以上に怪異と深い関わりがあるのだろうけれど、怪異達とは一線を画する何かがある。
それが何かはわからない。
そう言う事を聞けるような関係かと問われればそれも怪しい。
こうして一緒にいるが、それはフェレスが私を守ると言う一方的な関係に過ぎず、見捨てられれば私が死ぬだけ。
だからその辺りの話はあえて聞いてはいないが、いつか聞かないといけないのだろうか。
そもそも、そんな事を聞けるような仲になるのか。
だって、今日とか普通に置いてったからな、こいつ。
何を考えているか分からないが、フェレスは何をしようとしているのか。
考えても分からない事を考えるのにも疲れ、私は一旦考えるのをやめた。




