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【月乃視点】
ウズさんとハラキさんが来てからとても騒がしくなったシガンさんの家で、わたしはつつじの背中に隠れている。
つつじはなんだコイツ、みたいな視線を時々向けてくるが、そんな視線も気にならないくらいわたしはここにいるのが辛い。
なぜなら全員顔面偏差値がエグいし、それだけでなく___
「月乃さん?どうかしたか?」
「だ、ダダダダイジョウブデス!」
「ほうか…?」
「体調が悪いのか?」
「何かあったら、遠慮せずに言ってね。」
性格までもイケメン。
こんなのもう目が合わせられないし、視界に入れるだけで目が潰れそうになる。
元々シガンさんとヒガンさんも顔がいいとは思っていた。
思ってはいたが、怪異がどうとかつつじがどうとかのバタバタしてる時にしか会っていなかったのもあって顔を意識したのは今日が初めてだったのものだからシガンさんとも目が合わせられなくなっている。
「…月乃、先に家に帰る?」
気づけばつつじが小さな声でそう囁いていた。
ずっと隠れたままの私に気を使ってくれたのだろう。
今、つつじと私以外は授業参観の予定について話し合っている。
確かにわたしがいなくても問題はないだろう。
ないんだろうけど、綺麗な顔をもっと見ていたい、という身を滅ぼす欲に負けた。
「…大丈夫。ここにいる。」
「わかった。」
特に興味もなさそうにつつじはまた前を向いて話合いに混ざって言った。
…混ざると言ってもひたすらシガンさんに謝って弁解してるだけだけど。
よく普通に喋れるなぁ、つつじ。
ここにいる自分以外唯一の女の子であるつつじは、特に臆した様子もなくイケメンたちと話ている。
どうやったらそんな度胸がつくんだろう。
日常からシガンさんというイケメンを見てきたからだろうか。
じっとつつじの後頭部を見つめていると、くるりとまたつつじが振り向いた。
今度はつつじ以外の人の視線と一緒に。
「な、何?」
全員から見られるなんてことあるだろうか。
いやない。
だってわたしはただただつつじを見ていただけで、全員から注目されることなんてなかったはずだし!
知らないうちになんかした!?
驚きで誰とも目を合わせられぬままただ困惑するしかない。
「すごい人見知りなんだな!」
「俺ん時はこんなならんかったけどなぁ。」
「ふふふ。」
「意外ですねー。」
上からハラキさん、シガンさん、ウズさん、一人だけ棒読みのつつじ。
四人の顔が視界に全て収まると、なんの違和感もなくその光景が眩しくなる気がした。
そしてたった今気づいたのだが、男性組三人と同じ画角に収まっても全く違和感のないつつじ。
あの三人に並んでも違和感がない。
それはつまり、つつじの顔もいいということ。
それに気づいてつつじの顔を見つめてみる。
涼しそうな目元、綺麗な顔のパーツと白すぎる気すらしてくる白い肌。
ふわふわしているのに真っ直ぐな光に当たると紫に見える黒髪。
そのまま視線をつつじの体全体に移す。
上下ともぶかっとした服を着ているのになぜか細いとわかるくらい足腰と腕が細い。
何もかもが細くて優美な曲線を描いている。
一言で言うならばめっちゃ綺麗。
顔も体も綺麗。
なんで今まで気づかなかったんだろう、ってくらい綺麗。
もしつつじが体のラインがしっかりと出る服を着たらどうなるんだ、ってくらい綺麗。
もう綺麗という単語しか思い浮かばなくなってる。
そんな不躾な視線に気づいたつつじは冷たい視線を送り続けているが、私が気づくことはなかった。
「本当に大丈夫かい?」
声に釣られてわたしはウズさんの方を見る。
ウズさんの顔はわたしとは少しズレたところに向いている。
目が見えないと言っていたからそのためだろう。
ウズさんは肩より少しだけ短いくらいの髪を後ろの方で結んでいるようだ。
その綺麗な焦茶と黒の間の色の髪は何かケアをしているのかツヤツヤで真っ直ぐだ。
優しげな顔立ちをしていて、これまた全体的に細く白く、美しい。
優しさが滲んでいるような空気と雰囲気がとてもウズさんに合っている。
「いや、オレにはわかるよ。」
ハラキさんは軽く日焼けした肌に元気そうな大きい目が印象的な顔をしている。
髪は短く切っていて、こちらもまた綺麗な茶髪。
髪の根本から茶色いのでその色が染めたものではないとわかる。
小さいからだから溢れ出るような元気さが雰囲気に出ていて、ヤンチャな少年のようにも見えた。
それでも多分わたしよりは背が高いし、がっしりした体つきをしている。
ウズさんやつつじとは違う、元気さを全面に出したかっこよさがある。
「何がわかるっちゅうんや?」
シガンさんは相変わらずやのつく職の人に見えるが、それも顔の良さゆえなのだ。
それに光が当たると青いろに見える黒髪を短くして、いつもスーツを着ている。
その冷たい雰囲気がインテリや○ざに見える。
普通に顔がいい。
美しいと綺麗を足して二で割ったみたいな感じだ。
「わかるよ、月乃ちゃん。コイツら顔がいいのにその自覚がないだろ!」
「わかります!!」
大きな声で同意する。
返事がわかりますで合っていたかはわからないがわかる!
なんか思ったより周りの顔がいい!
今思えばあかねもメリーちゃんも顔がいい!
どうして今まで気づかなかったんだってくらい今思えば顔がいい。
「別に顔なんてどれも同じやろ。」
「大差ありませんよ、顔なんて。」
ヒガンさんとつつじは冷めた表情でわたしたちを見ているが、そんなことはないと声を大にして言いたい。
あんたたちは顔がいいんだよ!
「同じなわけないだろ!大体、ただでさえ兄貴とシガンにいちゃんでこっちは腹一杯なのに、なんだよそこの美少女は!?」
「シガンさんの義妹です。」
「だから顔がいいのか!」
「お前最初はつつじと普通にしゃべっとったやろ。」
「こんな動揺外に出せるか!というかいい加減三人とも顔の良さを自覚しろ!」
「と言われても、僕は見えないからねぇ。」「顔なんて大体一緒やろ。」「いい加減も何も初めて言われましたよ。」
平然と答える三人に対し顔の良さを自覚しろと説き続けるハラキさん。
見ているだけでハラキさんが気の毒で仕方がない。
だが、ハラキさんも十分顔がいいのを自覚してほしい。
「そういえば、シガンにはいもうとが二人もいたのかい?」
ハラキさんの声の合間を縫ってウズさんの声が聞こえてきた。
「ああ、月乃さんは……。」
「親戚です。」
言いかけたシガンさんよりも早く、つつじが答えた。
「この人の実家は県内なんですけど、うちの高校からは遠いんです。だから、通いやすい位置にある私の家でホームステイみたいな感じで一緒に住んでるんですよ。」
澱みなく説明し切ったつつじの言葉をすっかり信じたらしく、二人はへぇー、とかそうなんだね、とか言っている。
そしてつつじが嘘をついたことでようやく、シガンさんが説明に少し躊躇ったような気がした理由がわかった。
まさか、虐待されていた家の子をちょうど空いていた妹の家に住ませている、なんていえないだろう。
だからつつじは当たり障りのない感じに答えてくれた。
全くなんの意識もしていなかった自分が恥ずかしくなる。
「で、話を戻すんやけど、なんや授業参観って。」
「授業参観は授業参観だよ、シガン。」
「コイツら高校生やぞ。」
「そうだねぇ。」
ウズさんはシガンさんの言葉をゆらゆらと受け流し続け、シガンさんはそれにイラつきながらも言葉を重ねていく。
そのテンポ良い会話は時々つつじやハラキさんも加わって話の幅が広がっていく。
わたしはそれを黙って見ている。
なんだか家族ゆえのテンポの良さを見ている気がして、入りずらかった。