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紫アザレアが察するには  作者: こたつ
赤紫の日常
37/133

32

「つつじ〜?大丈夫?」

「大丈夫じゃない…。短期的なストレスで死ねるなら今日の学校で十回以上死んだと思うもん…。」

「何があったんですの…?」


現在学校が終わり、帰ってソファで溶けているワタクシつつじ。

今、本当になんのやる気も出ない。

ムース襲来から一週間が経過し、月乃は無事意識を取り戻し(もとより寝ていただけらしいが)、あかねも怪我がほぼ治り(次の日から割と元気そうだった。)、ムースもあれ以降見ていない。

ちなみに月乃は私の手を離したあと、あかねを助けようとしていたらしいが、逆にあかねに庇ってもらうという失態を犯したらしく、そのままムースに捕まって意識がなかったとのことだった。

その後夜に時々泣き声のようなものが聞こえた気がするが、まぁ気のせいということにしておこう。

あの件に関してはまるーくおさまった、ということにしている。

ということで、雪花さんの話こそ闇に葬り去られたみたいになっているし、ムースとシガンさん達の関係も教えてくれなかったが、これといって懸念や心配はないと思われる今日この頃。

一つ、私の精神を蝕む重大な問題があった。

それが、


「赤井崎さんが、ずっと、ずっと、ず〜〜っと、話しかけてくる……。」


あのマシンガントーク赤井崎が、ここ最近ひたすらに話しかけ続けてくるのだ。

しかも、恐ろしいことに、悪気が全くない。

休み時間、授業の隙間時間、昼休み、放課後。

ひたすらに喋り続けている。

 いや、流石に放課後は全力で予定があると言って逃げたが。

絶対に図書室や書庫にいるとバレないよう、細心の注意を払ったのはいうまでもない。

 原因は、間違いなく席替えだろう。

くじで決めたから仕方がないとはいえ、まさかよりにもよって隣が赤井崎だったのは私の運がなかった。

赤井崎は私の隣の席になると、水を得た魚のようにしゃべり続けた。

私が本を読んでいても、本なんて見えていないかのようにしゃべり続ける。

プリントを広げてみても、ここわかんなーい、とか言いながらしゃべり続ける。

お弁当を食べる時も、他の生徒もいるにも関わらず、私に対してだけ、しゃべり続ける。

無視してみても、わざとらしく頬を膨らませ、『無視しないでよ〜。』だ。

キレそうだった。

 何が悪質かといえば、赤井崎に悪気がないこと。

さらにタチが悪いことに、赤井崎はなぜか喋る時、とんでもないほど芝居がかっていること。

ただ動きや喋る内容が大袈裟なだけでなく、演技してます感がすごい。

 作り笑いしてるのが丸わかりだし、次って移動教室だよね?みたいなことを聞くためだけにわざわざなが〜い前置きをしてきたりする。

そして本人は私がそれらに気づいていないと思っている。

 唯一そんな赤井崎から逃げる手段があるとすれば、トイレだ。

流石にトイレにまでは赤井崎はついてこない。

ここ一週間でどれだけトイレという空間に救われただろうか。

そして何度トイレ飯をしようかと考えただろうか。

 そういうわけで、私のメンタル状況は最悪と言えた。

なんせ学校にいる間中休む間もなく話しかけられ続け、ようやく解放されたと思ったら授業、授業が終われば再び話しかけ続けられるの繰り返し。

なんの拷問だ。

おかげ朝から頭痛が痛い…。


「そんなに嫌なら嫌って言えばいいじゃん。」

「フェレスさ、もし目の前で会話してる人が隙をついて本読み出したらどう思う?」

「この人僕と話したくないんだな、って思う。」

「思わない人間も、いるんだよ、世の中には。」

「りいふちゃんは気づいてるけどあえて無視してるのかもよ?」


いつの間にか月乃も会話に加わっていた。

さっき手を洗いに行っていたのでもう少しかかるかと思ったのだけど、意外と早かった。


「りいふ、って、誰だっけ?」

「つつじが赤井崎さんって呼んでる子の下の名前…って、つつじ、覚えてないの!?」

「覚えてないねぇ。」


人の顔と名前ほど覚えにくいものはない。

よりによってあのクラス内で私が一番苦手とする相手の名前など、もってのほかだ。


「ところで、なぜシガンさんが?」


なぜかさっきからシガンさんが我が家に居座っているのだが、いったいなぜ…?


「月乃ちゃんからつつじが死にそうだからきてください、って言われてん。」

「そんな死にそうですか?私。」


ペタペタと自分のほっぺたを触ってみるが、特に収穫はなかった。


「とにかく、つつじはイヤイヤりいふちゃんの話を聞いてるからよくないんだよ!まずは興味を持ってみなきゃ。」

「あの人の話のレパートリーは昼休みまでに尽きるよ。」


そりゃああんだけ話し続ければ話すことはなくなるだろうが。

それにしたって一日に四回以上『つつじちゃんの好きな教科はなあに?』と聞かれ続けた時はこいつの記憶力はニワトリ以下かクソが、と思ったが。


「じ、自分から話振ってみるとか!」

「全部無視されるか、『なんでそんなこと聞くの?』みたいな顔されたよ。」

「会話を続ける努力を…。」

「会話なんて想定して喋ってないよ、あの人。」

「…り、りいふちゃん、勉強頑張ってるから、疲れてるんだよ、きっと。」

「あれは勉強を頑張ってるとは言わない。追い詰められてるっていうの。あと自分が疲れてるからってマシンガントークし続けていいわけじゃない。」

「なんや?追い詰められとるって。」


怪訝そうな顔でシガンさんが口を挟む。

まぁ、受験前でもテスト前でもないこの時期に勉強で追い詰められる、とは一体、というシガンさんのために答えると、


「あの人、高校受験失敗したらしいんですよ。だから、大学は失敗したくないみたいで、放課後もギリギリまで自習室にこもって、わからないところは周りの生徒に長々と聞く、文理選択とか勉強の仕方、教科、勉強する環境、参考書とかの話を延々し続ける厄介な人になってますね。私が席を外すと絶対に英単語帳開いてますし、副教科授業中に数学とかの勉強してます。」

「めちゃくちゃ頑張り屋さんなの!」


赤井崎へのフォローのつもりなのか、月乃がドヤ顔で赤井崎の勉強熱心さについて語り出した。

私はそれを一言で黙らせる。


「そのくせ主要教科でも社会とかは寝てるけどね。」

「……。」


毎日夜中まで勉強をしているとドヤっていた赤井崎を思い出す。

勉強はいいが、夜中まで勉強し続けたら次の日の学校に響くとなぜわからない。

現に赤井崎はよく学校で、しかも授業中に寝ている。

何がしたいんだあの人は。


「なんや、真面目な子なんやろうけど、空回りしてまっとるんやな。」


渋い顔をしてシガンさんが会ったこともないはずの赤井崎を想像している。

相変わらず優しい。

だがまずその優しさをクラスメイトのマシンガントークに悩まされている義妹に向けて欲しい。

なんか頭だけでなく胃も痛くなってきた気がする。


「過ぎたるは猶及ばざるが如しってやつですよ、あれは。」


私はズキズキと痛む頭を軽く抑えながら毒ずく。

本格的に頭が痛くなってきた。

もうここにマシンガントークをしてくる人はいないのに。


「あぁ〜。」


もう明日学校行きたくない。

目の前のローテーブルに突っ伏してうめく。


「あぁー。」

「つつじの目が完全に死んでる……!」

「つつじ〜。」


月乃とフェレス、メリーさんが突っ伏した私の頬を突く。

鬱陶しい。


「大袈裟すぎねぇ?」


呆れた、と言わんばかりにあかねがふっ、と鼻で笑った感じがした。

多分あかねも苦手な部類の人間だぞ、赤井崎は。


「それはそうと、つつじのほっぺた熱くない?」

「うん、いつもよりあったかいね。」

「ほんとですわ!」


そんなことを言い出したのは、月乃、フェレス、メリーさん。

最近マイブームだったのかフェレスがよく私の頬をつついていたことから始まったこの頬つつき。

ここのところよく触っていた三人がいうなら本当に体温が高いのかもしれない。


「つつじ、ちょっと熱測ってみ。」


シガンさんも同じように思ったのか、単に三人のいうことを真に受けたのか、体温計を差し出してくれる。

あんまり好きじゃないんだけどなぁ、体温計。

自分の脇に体温計を挟んで、しばらく待つ。


ピピピ ピピピ ピピピ


表示された数字は三十八度九部。

____あっ、これ見せたらしばらく学校休みになるな。

私は瞬時に悟った。

そして瞬時に考えた。

さっきは学校に行きたくない、と言ったが、学校に行けず、授業が受けられないのは困る。

授業がないと勉強に支障が出る可能性が高い。

というか休んだ分の宿題の埋め合わせとかがめんどくさい。

色々な計算の結果、ちょっと低めに申告しておこうという結論に至った。


「平熱です。」


そのまま体温計の電源を自然に切ろうと思ったら、ガチっと手首を掴まれた。

そして体温計を奪い取られる。

手の主はシガンさん。


「……つつじ。」

「…はい……。」

「お前の平熱は三十八度なんか!?」

「び、微熱の間違いでした。」

「お前の平熱が三十七度代やないかぎり微熱ではないやろ。」

「三十七度代かもしれないじゃないですか!」

「嘘つけ。」


なぜバレた、という顔で私はシガンさんのお叱りを受ける。

おかしい…。

両親はあれで騙せたのに。

私の不服そうな顔に気付いたのか、シガンさんが呆れ気味にいう。


「不思議そうな顔しとるけどお前な、そんだけ体調悪そうな顔しとったらわかるで、流石に。」


というわけで私は早々に寝かされた。

解せぬ。

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