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【つつじ視点】


ーームースの水中マジックの数十分前ーー


「あんた、誰?」


私は目の前の月乃の形をした“何か”に問いかける。


「誰って、あたしだよ、月乃。知ってるでしょ?」

「月乃は自分のことを“わたし”って呼ぶよ。」


もちろん、根拠はそれだけではないのだが。

それだけで“何か”は納得したようだった。


「あはははっ!そんなことからもわかんの?」


“何か”がそういったその時、私の視界はとある光景でいっぱいになった。


【目の前の月乃がどろりと解けるように崩れ落ちる。その代わりに崩れ落ちた中からぐにゃぐにゃと人影が形取られていく。その光景は異様で、見ているだけでその場から逃げ出したくなるような危険な感じがする。】


一瞬の間にそれだけの映像が頭に流れ込む。

そして、全く同じように目の前の“何か”が姿を変えた。


「そういえば、雪花ゆきかは元気?」


月乃の姿から、緑のマジシャンのような燕尾服(多分)と緑色のシルクハットを着た女性の姿へと変貌を遂げた。

二つに結った金色の髪が揺れる。

その顔は凍りつくような満面の笑み。


「ゆきか…?」


雪花…。

人の名前だろうか?

どこかで聞いたことがあったような、ないような。

思い出せない。

それよりも今この状況をなんとかしなければ。


「あれ?しらない?まぁいいや♪そんなことより、自己紹介をしよう。ボクはムース。奇術師だ。君は?」

「……もう、知ってるんじゃない?」


月乃に化けていた時点で、私と月乃のことは知っているとしか言えない。

知らずにあそこまで精密な演技はできないだろう。

私だって予知夢がなかったらわからなかった。


「釣れないなぁ。せっかく分身を作ってまで外に出てきたっていうのに。」

「外?」

「こっちの話。キミも後でつれて行ってあげるよ。キミのお友達もそこにいるしね。」


月乃はやはり攫われていたと見るべきか。

私は“何か”、ムースから目を離さずに、考える。

ここから先はどうなるか知らない。

今回のことに関する予知夢はさっきの一回しか見ていない。

つまり、ここから先どうなるのかわからない。

おまけに月乃が人質に取られているような状態だとは思っていなかった。


「ねぇ、ボク暇なんだけど。遊ぼうよ。」


遊んでいる暇はない、と言いたいところだが、月乃がどこにいるのかも私の安全も確保できていない中でムースの機嫌を損ねたくはない。

遊んでみて、何か進展があるかもしれない。


「…何をするの?」

「おっ!乗ってくれる、ってことだよね、それは。いいねぇ。じゃ、マジックしよう、マジック。」

「マジック?」

「そう!ボクが今から見せるマジックのタネをキミが見抜けたらキミの勝ち。見抜けなかったらボクの勝ち。どう?面白そうでしょ?」

「私にとってかなり不利じゃない?」


私はマジックに詳しくはないし、マジックは初見で見抜けるようなものじゃない。

奇術師と名乗るムースの方が圧倒的に有利だろう。


「う〜ん。なら、キミはギブアップするまで何回でも回答していいよ。」

「私がずっとギブアップしなかったら?」

「ボクが飽きたらボクの負け。どう?」

「…わかった。」

「じゃ、何か賭けようか。ボクが勝ったら、キミにはボクの助手をしてもらう。キミが勝ったらお友達のところに連れて行ってあげる。」


そう言ってムースは不気味に笑う。

ムースが提案した『賭け』は、最初からそうするつもりだったとしか思えない。

つまり、罠の可能性がある。

私を助手にするのも、月乃のところに連れていくのも、どちらにしても私に利があるとは思えない。

月乃は閉じ込められているか身動きが取れない状況にあるだろうから私も身動きが取れなくなる気がするし、私が助手になるというのは嫌な予感しかしない。


「何がご不満かな?」


私が考え込んでいるのに気づいたらしく、ムースが声をかけてくる。

凍りつくような笑顔は健在だ。


「その賭け、私が勝ったら助っ人を呼ぶ権利を得る、に変えてくれない?」

「ふ〜ん?助っ人って、誰のことかな?言っとくけど、シガンとヒガン、あとあの手。あいつらは無理だよ。」

「あかねとメリーさんでいい。」

「わかった。じゃあ、キミが勝ったら、助っ人を呼ぶ権利、お友達のところに行ける権利、両方あげちゃおう。」

「いいの?」

「うん。いいよ。」


これで、月乃のところへ行ける権利は罠だと確定したと言っていいだろう。

もし罠ではないならわざわざ賭けの景品を二つにはしない。

二回勝負なんかにすればいいのだから。

勝つ自信しかない、というのなら別だが。

それでも、勝ったらあかねたちを召喚できるのは大きい。

あの二人は月乃のことなら役にたつ。


「じゃあ、ゲームを始めようか。」


そういうとムースはどこから取り出したのかトランプを手に持っている。

そのトランプをよく切って、扇形にして私に差し出す。


「好きなカードを引いて。」


私は一番端のカードを引く。

カードはジョーカー。

かなり低い確率を引いたのではないだろうか。


「じゃあ、それをボクがみていない間に好きなところに戻して?」


そういうとムースは首を後ろに回して目を瞑ったようだった。

ムースの手には重ねられたトランプのデッキ。

私は真ん中より少し下にジョーカーを戻す。


「できた?できたね。」


再びトランプに目を戻し、トランプをよく切る。

そして、ぐちゃぐちゃに混ぜる。

最後に私に向けてトランプを開く。

全て表のトランプの中に、一つだけ、裏のトランプがあった。

それを引いてみると、ジョーカー。


「あたってるよね?それじゃ、ボクはどうやってジョーカーを当てた?」


シンプルすぎて、タネも仕掛けもさっぱりわからない。

特にこれと言って目立った動きもなかった。

しかし、シンプルなマジックならシンプルな分実力がいるか、あまりにも簡単なトリックかの二択だ。

多分。

どっかでそんなことを聞いた覚えがあるし、少なくとも高度すぎるマジックではないだろう。

私が建てた仮説は二つ。

1、カードが全てジョーカー。しかし、最後にトランプを引く時、他のカードは普通のトランプだったためこれはほとんどないと思う。丸ごとトランプを入れ替えていれば別だが、トランプをすり替えるようなタイミングはなかったはず。

2、トランプを戻したときに戻した場所を確認した。おそらくムースは怪異。私がカードを戻しているのがどこからか見えていても不思議ではない。そしてトランプを切っている間に私が戻したカードを一番下、もしくは一番上に持ってきて、カードを表裏ぐちゃぐちゃにする。このときに一定の枚数__四から五枚くらいの枚数ごとに裏、表、裏、表、という具合に重ねていけば、表と裏のカードの束ができる。その一番上に、裏表を下のカードたちと逆にしておき、カードの裏が背中合わせになるところでカードを丸ごと二つに分け、重ねて扇形にひらけば、私が選んだカードだけが表裏逆で出てくる。


似たような仕掛けのマジックを、昔誰かにやられたから、仕掛けはあっていると思う。

というわけで、私の結論は仮説2だ。

同じように、ムースに説明し、回答する。


「う〜ん、惜しい!ボクは人間にもできるやり方でキミが入れたカードを見抜いたよ。」

「…カードを全部重ねたとき、横から見て少しズレてるカードが私が入れたカードだと判断した。」

「惜しい!キミは全くズレもなくカード入れてたんだから、そんなことできるわけない!」


確かに、きっちりとカードの端が重なるようにした。

となるとあとは…。


「カードを横から見たとき、傷や厚みで見分けた。」


適当な答えを並べてみる。

確実に間違っている。

カードを横から見た時の傷なんて目に見えるかどうか怪しいし、トランプの厚みを変えたら私が気づいてしまう。


「正解!よくわかったね。ボクはトランプの絵柄ごとにカードの厚みをちょ〜っとだけ変えたんだ。やっぱり厚みが違うとバレる?」


カードの厚みは、同じにしか見えない。

これで厚みに違いがあるのだろうか。

私の目には同じ厚さにしか見えない。

やはり、怪異は怪異だった、ということだろうか。

人間には到底不可能なことをやってのける。


「じゃあ、助っ人を呼んであげるね。でも、すぐには呼べないから、先にお友達のところに行っててね!すぐ、助っ人も送るから!」


そう言ってパチンっとムースが指を弾いたところで、私の周りの景色は一変した。

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