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紫アザレアが察するには  作者: こたつ
赤紫の親睦
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番外編5 月乃編 後編

わたしは一人でポツンとベンチに座っていた。

つつじにここで座っているように言われたからだ。

そのつつじは目の前のショッピングモールの中に消えていった。

___やはり、迷惑だっただろうか。

わたしはつつじに話したことを思い出しながら思う。

つつじに、聞きたかったのだ。

“何を”聞きたかったのかと言われると、困る。

それでもわたしは聞きたかった。

何かの答えを見つけたかった。

結果は、つつじを困らせただけだけど。


「月乃。」


声の方を向くと、何かを持ったつつじがわたしの前に立っていた。

……てっきり、置いて行かれたのだと思っていた。


「ん。」


つつじは手に持っていた物を一つ、差し出してきた。

わたしが無言で受け取ると、隣に腰を下ろした。

渡されたのは、串に刺さったみたらし団子。

つつじも同じものを持っている。

おやつ休憩…?

わたしはぼんやりとした視界に映る団子を見つめていることしかできなかった。


「泣いてみたら?」


ふと口を開いたつつじの顔を見る。

その顔は無表情で、何も読み取れない。


「泣くことは、昔からやり場のない感情のぶつけ先だから。それに、泣くと悲しみを半分持っていってくれる神様もいるらしいし。」


慰めて、くれているのだろうか。

なんの感情も浮かんでいないつつじの顔からは、つつじがどういうつもりで話しているのかわからない。

何を考えているのかが、恐ろしいほどに読み取れない。

しかし、団子を買ってきてくれて、こうして今も話をしてくれているのだから、優しさからくるものに違いないだろう。

そう思うと、少し軽くなった気がする。

ずっと痛かった胸の辺りが、少しだけ、痛くなくなった気がする。

つつじの顔を再度見ると、つつじがじっとわたしの顔を見つめている。

それに気づき、慌てて言葉を探す。


「こんなところじゃ泣けないよ。」


少し、拗ねたような言い方になってしまった。

心の中で苦笑していると、つつじが真顔のまま言った。


「じゃあ、買い物済ませてから泣いたら?あかねとメリー…さんなら、隣にいてくれるよ。」


隣。

そういえば、今日は朝からずっとあかねとメリーちゃんが隣にいてくれた。

ずっと慰めてくれていた気がする。

なのに、わたしはそれらを全部無視していた。

隣にいてくれていたのに。

わたしはまた同じことをしていたらしい。

隣にいてくれる人のことをまた軽んじていた。

帰ったら謝らないとなぁ。

そして思いっきり泣かせてもらおう。

悲しかったと、わかっていなかった、と。

そしてその後、ちゃんと考えよう。

お母さんと、お父さんのことを。

ちゃんと、切り捨てられるように。

スー、ハー。

深呼吸をして、手元の団子に齧り付いた。

団子は程よいしょっぱさと甘みでとても美味しかった。



「ただいまぁ!!」


わたしは元気よくつつじ宅の玄関を開けた。

買い物を終えて帰ってきたところだ。

買い物は順調に終わり、わたし専用の食器とか服とかを買ってきた。

さらに、わたしのためにお小遣いまで用意してくれていた。

シガンさんにお礼を言わなくては。

わたしはそのお小遣いで美容品やアクセサリー、お菓子を買った。

あとであかねに自慢しよう。

そんなことを考えていると、バタバタと足音が近づいてきた。

するとすぐにキッチンの扉が開き、あかねとメリーちゃんが顔を出した。


「月乃様!大丈夫でしたか!?そこの不届きに何か言われませんでしたか!?」


メリーちゃんはつつじをこれでもかと睨んでいる。

つつじは無視して靴を脱ぎ、中に入っていって行った。

わたしもそれに続こうと靴を脱ごうとすると、


「月乃…その…」


あかねが何か言いたげな、心配そうな目でわたしを見ていた。

こんなに、心配をかけていることに、私は気づいていなかったのか。

自分のことながら情けない。


「大丈夫だよ。」


わたしはあかねに向けて笑顔を意識しながらいう。

でも、まだあかねは少し寂しそうな顔をしている。

あかねがこの顔をするときは、頼ってほしいときだ。

『大切な人には頼ってほしい。』

あかねはいつかそう言っていた。

わたしは、あかねの大切な人に、なれているのだろうか。

もしそうだったら嬉しいな。

そうおみながら、再度あかねに言う。


「あかね、わたしね、今日、泣いてみようと思うの。だから、付き合ってくれない?」


多分今わたしは泣きそうな顔なんてしていないと思うけど。

それもあってか、あかねは一瞬驚いた顔をしたあと、笑って答えてくれた。


「もちろんだ。」


よかった。

わたしがほっとしていると、


「あかね!ずるいですわよ!!わたくしも月乃様のお役に立ちたいですわ!!」

「お前には百億年はぇーよ。」


あかねは勝ち誇った顔でメリーちゃんを見返している。

メリーちゃんは顔を真っ赤にして怒っている。

どこか小学生を彷彿とさせる二人を宥め、リビングに移動する。

そこではつつじとシガンさんが話し込んでいた。

シガンさんがわたしに気づくと、少しだけ表情を緩めて話しかけてくれた。


「なんかええもんは買えた?」

「はい!お小遣い、ありがとうございました!」


シガンさんのおかげ今まで欲しいと思っていたがどうしても買えなかったものを買えた。

大満足だ。


「シガンさん、フェレスは?」


つつじが当たりを見回しながらシガンさんに聞いた。

そういえば、帰った時から見当たらない。

キョロキョロと部屋の中を見回してみるが、やはりいない。


「いるよ。」

「うわっ?!でた!」

「出たとはなんだい、出たとは。」


突然現れたフェレス…さんはいつの間にかつつじの目の前のテーブルにいた。

さっき見回したときは絶対にいなかった。


「どこいっとったん?」

「サトリのところ。」


さとり?

なんのことだろう。


「いつはさんのところか。」


つつじは普通に返しているので、なんの話かわかっているのだろう。

シガンさんは、なんの話かこそわかっていなさそうだが、多少は心当たりがあるらしい。

わたしだけ置いてけぼり!?


「サトリっちゅうと、妖の種族の一つやな。」


妖、のはなしらしい。


「フェレスさんは、その人のところに何をしに行ってたんですか?」


私は気になったので聞いてみる。


「フェレスでいいよ、月乃ちゃん。あと、つつじ、笑わない。」


その言葉につつじを見るが、全く笑ってはいない。


「今笑ったか?」

「まゆ一つ、動いてませんでしたわ。」

「でも今笑わない、って」


ヒソヒソとあかねたちと相談(?)するが、やはり笑ってはいなかったようだ。


「で、僕がサトリのところに行ってた理由は、特にないよ!」


は?という言葉を全員が一斉に飲み込んだ。

内心はみんな『は?』だと思う。



「今日散歩してたらたまたま会ったから、ちょっと世間話してきたの。」


なるほど。

それなら理由がないと言うのも頷ける。


「そうならそうと普通に言えや。」


シガンさんが眉を顰めながらいう。

その表情はやはりや○ざ。

それ以外に形容のしようがない。


「つつじ、今度月乃ちゃんと行ってみたら?色々面白いかもよ?」

「いつはさんに迷惑だからやめた方がいいよ。」


サトリの妖は『いつは』と言うらしい。

個人的に妖のことは気になる。

つつじはいやそうだが、今度頼み込んで合わせてもらおう。

心にそう決めた。


「月乃様!」


メリーちゃんがわたしの服の裾を引っ張っていた。

ちなみに今日の服はつつじから借りたTシャツに短パン。

つつじもほとんど同じ格好をしている。

つつじのお母さんの話を聞いた時から薄々思ってはいたが、つつじはおしゃれには無関心そうだ。


「月乃様っ!聞いていますか?」

「ごめんごめん。ちょっと考え事してて。なあに?」


わたしは謝りながらメリーちゃんと視線を合わせる。

メリーちゃんは小学校中学年くらいの見た目で、くりくりした大きな瞳と可愛らしい顔立ちをしていて、すっごく可愛い。

赤いドレスを着ていて、金色の髪と綺麗な青い瞳によく映えている。

そして何よりも可愛い。

舌足らずなお嬢様言葉とかもう可愛い。

わたしを慕って後ろをちょこちょことついてくるのも可愛い。

昨日の人形と同じ存在とは思えない!

わたしがデレデレとしているのを見て、つつじが若干、いやとても引いているが、そんなことはどうでもいい。

めちゃくちゃ可愛い。


「わたくし、月乃様のために食事を作りましたの!」

「おい、勝手に一人で作ったことにするな。俺も作った!」


あかねが訂正を入れた。

その顔はとても誇らしげだ。

すごく頑張ったんだろうなぁ。


「今、持ってきますわ!」


メリーちゃんとあかねが料理を取りにキッチンに行った。

一体何を作ったのだろうか。

ワクワクしながら待っていると、メリーちゃんとあかねが戻ってきた。

その手には皿。

皿の中には、鯖。

鯖の塩焼き。

他にも、鯖を炊き込んだご飯、セロリのサラダ、豆腐の味噌汁。

わたしの好物が存分に使われている。


「うわぁ!!美味しそう!私の好きなもの覚えててくれたんだ!」


わたしは思わず大きな声をあげる。

思っていたよりも本格的な料理に驚いたのもあるが、わたしの好きなものを作ってくれたのがとても嬉しい。


その日の夕飯は今までの人生の中で一番和やかで賑やかだった。

しかし、わたし達は気づいていなかった。

つつじが死にそうな顔でお箸を動かしていたのを___。

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