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紫アザレアが察するには  作者: こたつ
赤紫の親睦
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番外編2 つつじ編 前編

【つつじ視点】

「おはよう、フェレス。」


メリーさんに追いかけられた次の日。

私は三度目の二度寝から目を覚ましたところだった。

少しの間ぼーっとしていると、頭が回り出した。

あぁ、今日は

買い物だったな。

面倒だ。


「おはよう、つつじ。今日はなんの夢?」


フェレスが、いつものように聞いてくる。

何故だかわからないがフェレスはいつも的確に私が夢を見た日を当ててくる。

私はまだ回り切ってはいない頭を回して記憶を呼び起こそうとする。

私は記憶を呼び起こすと同時に人形__白熊の白くまたんを手にベッドから降りて、目を擦る。


「今日は____。____」


私はフェレスに説明しながら今日の買い物についてに脳のリソースを割いていた。

昨日の夜、月乃がお風呂に入ってからのことだ。


「そういや、明日何買うん?」


シガンさんがそう聞いてきたことが会話の始まりだった。


「月乃の服、部屋に置ける机、日用品、食べ物、ってところですかね。

というわけでお金ください。」

「直球やな…」

「シガンさんが出すって言ったんですからね、お金。」

「まぁそうやけど…。とりあえず、机は買わんでいい。引っ越しのとき買うたはいいけど使っとらんのがある。

あとは…食費と、服と、雑貨と、____まぁ、小遣いか。」

「お小遣い?」


何故急に?

くれるのだろうか。


「月乃さん、確かスマホの通信量やら今までの食費やら生活費なんかを自分でバイトして賄っとったらしいからな。

自分の欲しいものなんて買う余裕なかったやろうし、小遣いくらい渡しても、バチは当たらんやろ。」

「うちの高校、バイトできませんし、中学生の時もバイトできませんけど。年齢的に。」


月乃が何か危ないことに手を出していないか疑うべきだろうか。

というか、この人はいつのまにそんなことを聞き出していたのか。


「今時年齢詐称しても見て見ぬ振りしたり、案外わからんかったりするからなぁ。

 それでバイトができたとしても、楽なもんではなかったやろうな。

 だから、もうそんな生活さしたくないやんか。」

「お人よしですねぇ。」


半ば呆れ気味に言う。

本当に懐が深いことだ。

血が繋がっていないとはいえ、こんな人が私の義兄だとは思えない。

シガンさんは珍しく柔らかい表情をしたまま私と目を合わせた。


「やから、つつじも協力してな。」


小戸路先生なみの胡散臭い爽やかな笑顔でシガンさんが言った。

私は同じくらい爽やかかつ胡散臭い顔を意識して言った。


「いやです。」


という会話を昨晩したのだった。

その後軽く揉めたのはまあ言うまでもない。

で、確か、朝のうちにポストにお金を入れた財布を入れておくから回収して使え、とのことだった。

そこまで思い出したところで思考を一旦止める。


「で、それはいつくるかわかってるの?」


私は脳内で予定を確認しながらフェレスと会話をする、と言う高度な技を使い終え、普通に会話をする。

今は私がフェレスに夢の内容を教えてもらっているところだった。

部屋を出ると夢の内容を忘れてしまうなんて、本当に不便だ。


「いや、そこまでは覚えてない、って。でも、つつじ自身が巻き込まれるわけじゃないから大丈夫、って言ってた。」

「ん。じゃあとりあえず気にしなくてもいいかな。___それよりも、」

「つつじ〜、さっきシガンが机運び込んどったでぇ!」

「なんのようですか?」


ソファでヒガンさんが悠々とくつろいでいた。

寝っ転がってテレビを見ている。

何しにきたんだ。

テレビくらいならシガンさんの家にもあるだろう。


「用がなきゃきちゃあかんのか?」

「突然来られても困ります。」


用がないなら帰って欲しい。


「いきなりっちゅうても、おれは七時にピンポン押したで?

ほしたら、月乃ちゃんが入れてくれてん。」


月乃が入れたのか。

妙な納得と共に私は時計に目をやる。

ただいま十一時。

ヒガンさんは七時から四時間待っていたことになる。

飽き性な人だと思っていたけど、案外そんなことはないのか?


「と言うことは、何か用があった、と。」

「おん。月乃ちゃんのことなんやけど、」


また月乃か。

昨日から我が家は月乃の話題で持ちきりだ。

それにしても、フェレスやあかね、シガンさんが月乃を気にかけるのはわかるが、この人が気にかけているのはかなり意外だ。

もっと他人に興味がない人だと思っていた。

現に昨日もいつのまにかいなくなっていた。


「絶対に追い出すな。」

「___はい?」


元々何を言い出すのか予想できなかったが、それにしても意外な言葉に驚きが隠せない。

ヒガンさんは、普段の軽い笑みを唇の端をギリギリまで持ち上げた不敵な笑みに変えた。

やばい気がする。


「やからぁ、月乃ちゃんを逃すな言うてんねん。」


がしりと肩を掴まれた。


「あんなおもろいの、そうそうないで。」


肩にヒガンさんの指と爪が食い込む。

痛い。


「フェ、レス。」


言い終わるよりも前に、フェレスが動いてくれたようで、私の肩からヒガンさんの手は離れてくれた。

フェレスはヒガンさんごと後ろに突き飛ばしたらしい。

相変わらず動きが早い。

突き飛ばされたヒガンさんは光が当たらない、カーテンの影になっている床に尻餅をついていた。

フェレスは私とヒガンさんの間にいる。


「なんやぁ、ひどいなぁ。せっかくのおもちゃをキープしときたいだけやのに。」


ヒガンさんはいつもの軽い笑みに戻っていた。

立ち上がりながら適当に選んだであろう服についた埃を払いながら立ち上がった。

ヒガンさんの顔を斜めに光が通った。


「理由は知らないけど、人間に怪我をさせるようなことはぼくがさせない、」


二人はしばらく睨み合っていた。

私が何か言ったほうがいいのではないかと悩み始めた頃、


「まぁええや!つつじならおれの言いたいことわかったと思うし。じゃぁな!」


言うだけいってふよふよと姿を消した。

本当に、子供のような人だ。

子供ゆえの残酷さというか、無邪気な悪意というか……。


察するに、ヒガンさんはおもちゃを捨てられたくないのだろう。

ヒガンさんは月乃のことを『おもちゃ』とよんだ。

月乃という『おもちゃ』が気に入ったのだろう。

だから、そのおもちゃを一番勝手に捨ててしまいそうな私に“捨てるな”と釘を刺しに来た、というところだろう。


本当に、子供のような人だ。


「フェレス、私顔洗ってくるね。」


ヒガンさんが去った後もその場を動く様子がないフェレスにそう伝えてから私は洗面所に向かう。

顔を洗って、歯を磨いてついでに着替えまでし終えてリビングまで戻った。

フェレスはソファにちょこんと座って(?)いた。

なんせ手だからなぁ。

一体どういう体勢なのかわからないのだ。

私はフェレスを見ながらふと思う。

フェレス、意外とでかいな、と。

私の手と比べても二回り以上フェレスの方が大きい。

そのくせに指は私と変わらない細さをしている。

華奢な生手首だなぁ。

そんな朝ならではの無駄な観察をしていると、それに気づいたフェレスがこちらを向いた。

(最近の発見だが、フェレスの『前』は手の甲の方だ。)


「何?」


若干機嫌の悪そうな声でフェレスがいった。

そんなにヒガンさんの訪問が嫌だったのだろうか。

私は気にせずフェレスに聞こうと思っていたことを聞くことにした。


「月乃って、アレルギーあったかどうか知ってる?」

「知らない。」

「だよね〜。」


これから昼食を作りたいのだが、月乃にアレルギーがあった場合を考えると下手に作り出せない。

さてどうしたものか。


「う〜ん…。」


とりあえず、お米と、昨日のシチューの具材なら月乃は食べていたし、大丈夫だろう。

そうと決まれば、人参と玉葱をみじん切りにして炒めてご飯と混ぜればなんちゃって炒飯ができるだろう。

私は台所に移動しながらメニューを決めた。

だが…。


「___めんどくさいな…。」


よし、炒めるのはやめよう。

私は冷凍庫から冷凍されたお米を取り出してレンジに入れる。

お米を温めている間に人参の皮を剥いてみじん切りにして、レンチンするだけで中身を蒸せる容器に水と共に入れる。


チンっ


お米を取り出してから電子レンジに容器ごと入れる。


ぴっ


解凍されてホクホクのお米を二皿に分けて盛り付け、スプーンでほぐす。

ついでに玉ねぎの皮を剥いて二つに切り分けておく。


チンっ


人参を取り出して玉ねぎを入れてピッ。

取り出した人参の水を切ってお米の上にドーン。

ごま油でご飯と人参を和えて、醤油、味醂、料理酒、白だしを混ぜたものを用意しておく。


ちんっ


ホクホクの玉葱(二分の一)をそのまま二皿に盛り付け、調味料を適当に混ぜたものをかけ、再び混ぜる。

最後にラップをしていつでも食べられるようにしておく。


「よし。」


とりあえずこれでいいだろう。


「相変わらず手抜きだねぇ。」


いつの間にか台所の上にいたフェレスが余計なことを言う。


「いいでしょ、別に。

 レストランじゃないんだし。」


私は使った調理器具を洗いながらいう。


「それはそうだけど、自分は食べる気ないんでしょ?」


正解だ。

私は目の前に置かれた二皿の料理を見る。

これは月乃とあかねのぶんだ。

私はお腹が空いていないし気分じゃないのでいらない。

シガンさんにチクられたら面倒だが、多分大丈夫だろう。

フェレスは人間の生態に疎いのだ。

だから、体調を崩しでもしない限り、何か言われることはない。


「さて、と。」


忘れないうちに財布を回収してこよう。

おそらくうちのポストに入れていると思うので靴は履かずに外に出ようと玄関を開ける。


「キャッ!」


ビクッ


扉を開けた瞬間、悲鳴が聞こえ、反射的に肩が上がってしまった。

悲鳴の主は、月乃のようだった。

帰ってきたところに鉢合わせたらしい。

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