表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
紫アザレアが察するには  作者: こたつ
赤い出会い
24/133

24

「そういえば、つつじとシガンさんたちって、どういう関係なの?」


月乃にそう問われたのは、諸々の説明が終わり、お腹が空いたということで昨日の残りのシチューをフェレスとヒガンさん以外で食べている時だった。

月乃がなぜまだうちにいるのかというと、シガンさんの『帰れるか?』という問いに『……はい、…」と意味ありげに返し、あかねがこそこそと私とシガンさんに月乃の家庭事情を耳打ちしてきたため、とりあえずみんなでご飯を食べよう、ということになったからである。

私はさっきの質問にシガンさんを指差しながら答えた。


義兄あにです。」

「やっぱり?」


月乃は納得、という顔をしている。

だが、説明はまだ終わっていない。


「義理の。」

「えっ」


シガンさんたちとの関係は少々複雑なのだ。


義姉あねの夫がシガンさん。」

「えっ!?既婚者なの?というかつつじ、お姉さんいたんだ。」


月乃はまた質問を重ねてきた。しかし、まだ説明は終わっていない。

私は再び一言付け足す。


「義理だけど。」

「えっ?」


そう、だからややこしいのだ。

私の姉や兄にあたる人はいるが、どちらも義理の兄姉だ。

というのも、義姉は私が生まれる前、今から二十年ほど前だろうか。

それくらいの時に私の両親が引き取った子供が義姉だ。

その義姉は親戚の子供で、私が五歳かそこらの時に亡くなったそうだ。

享年は確か二十代前半。

シガンさんはその義姉の結婚相手。

今でも義姉のことを思っているらしく、いまだに我が家とも交流がある。

元々義姉の幼馴染で私の両親が義姉を引き取った後も交流があったらしく、それもあって我が家では頼りにされている人だ。

今は私の一人暮らしの実質的な保護者でもある。

と言ってもこの人たちは5〜6駅ほど離れた場所に住んでいるが。

私はこのあたりのことをかいつまんで月乃に話した。

そこでふと聞きたいことがあったのを思い出した。


「そういえば、シガンさんはどんなご用で今日いらしたんですか?」


そういえばなんできたのかを聞いていなかった。

わざわざこっちまで来てまで話したいことがあったのだろうか。


「ん?あぁ、引越しのことを伝えにきてん。」

「引越し?」


引越しをするのだろうか?

だったらわざわざここまでこなくてもメール済みそうなものを。


「明日…というか今日から、ここの隣に引っ越したから、その報告や。」


は?


「…マジで言ってます?」

「大マジや。」

「いや……え?急すぎません?相談とかなかったんですか?」

「俺らがどこ住もうと別にええやろ。」


いや、それは確かにそうなのだが。

相談する義理は別にない。

だがこちらにも心と諸々の隠蔽工作の準備とかがあるのだ。


「だいたい、お前ろくな生活しとらんやろ?」

「ちゃんとした生活してますよ。」


朝は土日以外は六時半よりは前に起きているし、朝食もとり、夜は十一時前に寝るというとんでもなく健康的な生活をしている。


「ちゃんとした生活しとったら一人暮らしにも関わらず余ったシチューが四人前もあるわけないやろが!

 どうせ一週間くらいなら毎日シチューでいいか、とか考えとったんやろ?」

「そんなことはないです。」


とりあえず即答で否定しておく。

まぁ実際にシガンさんの予想通りではあるが…


「じゃあなんやこのシチューの量。」

「いいじゃないですか。今こうしてみんなで夕飯を食べれてるんですから。」

「開き直んなや。」


何もいえない。

ごもっともすぎる。

部が悪いしさっさと話題を変えよう…。


「そういえば、月乃は今日帰れるの?」


ギロっとあかねから睨まれ、シガンさんとフェレスはなんともいえない顔をした。

皆一様に月乃を気にして話題に出さなかったが、もう全員食べ終わりつつある。

そろそろ聞いておかないといけない。

誰も聞かないのであれば、さっさと聞いた方がいいと思ったのだが、タイミングを間違えたかもしれない。


「うん、__大丈夫。」


絶対に大丈夫ではない顔で月乃は答えた。

顔から表情が消え、乾いた笑みを無理やり浮かべたような顔だった。

うん絶対に今じゃなかった。

というか私が聞くべきではなかったな。

動かないはずのメリーさんからすら睨まれている気がする。


「じゃあここに住めば?」


とてつもなく気まずい空気の中、とんでもないことを言い出したのは、フェレスだった。


「はぁ!?」


思わず私は大きな声を出す。

突然何を言い出すんだ、この手首は。

私は自分のテリトリーに親しくもない人間が入ってくることがとても嫌なタイプの人間だ。

同居なんてしようものならストレスが溜まりまくること間違いなしだ。

そもそも、勝手にそんなことを決められても困る。

それにどうせ大人にバレてすぐに怒られるに決まっている。

いや、うちの親には隠せるな……。まずバレない気がする。なんせ家にいない。

いや、でも月乃の親が許すはずが…


「一週間帰らなくても放置だったんなら、別に何日いなくても同じでしょ。」


許されそうだ。


「なら、つつじと一緒にここ位住めば万事解決じゃない?」

「いや、この家そんなに広くないし。そもそも食費とかの生活費はどうするの?」

「俺が出そうか?」

「……シガンさんもそっち側なんですか?」


やばい。

もう言い訳が思いつかない。


「わ、私の心の安寧は?」

「知らん。」

「部屋。」

「空いとる部屋一個あったやろ?」

「お金」

「さっき言った通り俺が出す。」

「怪異二つの面倒ごと。」

「俺も手伝う。」


シガンさんは一言で私の言葉をぶった斬っていく。

口を挟むまでもない簡潔かつ明解な答えを的確に返してくる。

だめだ。

もう本格的に逃げ道がない。

終わった。


「お前、そんないやなんか。」


シガンさんは心底呆れたような顔をして私をみている。

誰だって突然クラスメイト、しかもほぼ初対面と同居なんて嫌だと思う。

少なくとも私は嫌だ。

シガンさんは頭を掻きながらため息をついた。


「しゃーないなぁ。」


おっ?

これはワンチャン諦めてくれるか?

私は期待で胸を膨らませた。


「月乃さんとの同居が嫌なら、お前を親御さんとこに送検する。」


一瞬にして萎んだ。

胸が。

今のはシガンさんが折れるところだったと思うのだが。

予想外の言葉に一瞬何もいえなかった。


「脅しじゃないですか。」

「脅しとるんや。」


こうまでキッパリと脅されたらもう何もいうことはない。

いや、言えることがないというべきか。

私は今の生活がとても気に入っている。

確かに家事やらなんやらは大変だし面倒だが、それ以外の時間に何をしていても基本自由だし、夕飯のメニューに苦手なものは出てこない。

さらに口うるさい両親がいないというこの環境は最高以外のなんでもない。

それが壊されるなんてごめんだ。

だが、同居にも納得がいかない。

でも脅されている以上従うしかない。

私は従う、という結論を出さざるを得ない。


「卑怯だ……。」


諦めの意も込めて最後に一言言わせてもらった。

流石に諦めるか。

面倒くさいが逆らうわけにもいかない。


「お前の食生活のためでもあるんやぞ?月乃さんが居れば多少はマシなもん作るやろ。」


おそらく夕飯とお弁当が作り置きから冷凍食品に変わるだけだ。

そう思ったが言わないでおく。

今度こそ本気で送検されかねない。


「いいんですか?」


月乃が恐る恐るといった感じで私とシガンさんを見つめている。


「かまへんで。」


私はなにもよくない。

そんな“一仕事終えました”みたいな真顔で答えられても、私からしては納得がいかない。

あんたは私を脅しただけだろう。

大したことはしていないはずだ。

半強制的に同居が決定した私にはもうなんのやる気も出ないため何も言いはしないが。

ただ、このやり取りで同居が確定した。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ