23
家の前に着く頃には、もう真っ暗だった。
四月とはいえ日が落ちると一気に気温が落ちる。
要はクソ寒い。
私は腕をさすってなんとか暖をとろうとする。
私は現在うっすいワイシャツしか着ていない。
しかも半袖。
なぜならブレザーを月乃に貸し出し(強制)させられたから。
どこぞの妖狐が無言で私の制服のブレザーを持って行ったのだった。
さらに手が血まみれなためワイシャツをたくしあげなくてはならないという苦行もある。
「あ、あかね?
もうつつじにブレザー返しても大丈夫だよ?」
月乃はブレザーを脱ごうとしてくれる、が。
「いいんだよ、きとけ。」
「待って何もよくない。」
「あ?」
「……。」
こんな調子であかねがそれを阻止する。
私が口を挟んでも睨まれるという理不尽極まりない状況だった。
「フェレス、寒い。」
「そういえばつつじスマホかえしたの?」
「さっき返したよ。」
「へぇー」
「なんか冷たくない?」
これまたこんな調子でフェレスも冷たい。
なぜだ。
もう本気で泣こうか力ずくでブレザーを奪おうか考えているうちに家についた。
「ついたね。つつじ、開けて。」
「はいはい。」
私はスカートのポケットを漁りつつ玄関の扉を引く___ガチャっ。
あれ?
玄関はあっさりとあいた。
まだ鍵さしてないのに。
不思議に思っていると、奥から人影が現れた。
「つつじ、お前こんな時間までどこ行っとってん!?」
中では関西弁の男性が仁王立ちしていた。
その顔は完全に不機嫌だ。
「「あ。」」
私と月乃の声が重なった。
「ん?月乃さんもいっしょなんか。」
「ねぇ、僕もう中入りたいんだけど。」
「つつじお前なんか厄介そうなの二つもつれとるやないか。おまけにその手と首はなんや。
何があったかきっちり説明してもらうで?」
とんでもない圧を感じる。
真顔なのに。
「とりあえず、中はいり。」
そういうとシガンさんは私たちを中に招き入れた。
「で、つつじ。」
玄関からリビングまでのわずかな移動時間さえもきっちり説教してくれるらしい。
「俺は、今日行くって連絡しとったよな?」
リビングに着いたので全員重い思いの場所に腰を下ろす。
私とフェレスはゆか、月乃とあかねはソファ、シガンさんは救急セットを取りに行った。といってもすぐそこだが。
「やのに、あんさんは集合場所にも家にもおらへんし、ようやっと帰ってきたら手ぇ血まみれやし、何やっとるんや!!」
「す、すいません。色々ありまして……。」
昔からこの人はどうも苦手だ。特に、大声を出されると関西弁なのもあって威圧感がすごいとことか。
ついでにこの人はやのつく職業に見える。
実際はそんなことはないが。
___ない、はずだ。
「まぁ、そんなもんにしときぃやシガン。」
突然頭上から軽い声がかけられる。
頭の上を見上げると、足が目に入った。
「ヒガン。」
若干苦い顔でシガンさんが足の持ち主の名を呼ぶ。
私の頭上でふよふよと浮いているのは、シガンさんの双子の弟、ヒガンさん。
「せっかく月乃ちゃんつれてっ来てくれてんんから、そんな怒らんでもええやろ。」
「えっ?」
月乃は一瞬自分の名前が出たことに驚いたような顔をしたが、すぐに真顔になった。
そりゃあ手首と人形が喋って動いて人がふよふよ浮いているのだ。
もう驚くことなんてそうそうないと思う。
「ハァァぁあ。しゃーない。説教はこんなもんにしといたる。
つつじ、手出せ。」
「……指、詰められます…?私。」
これはあれか、けじめというやつか。
小指を一思いにやるやつか。
私は自分の小指をそっと手のひらで覆う。
「何を訳分からんこといっとるんや。治療や治療。
さっさと手と首だしい。」
よかった私の勘違いのようだ。
私は無言でシガンさんに手を差し出した。
「で、何があってん?」
シガンさんは私の手についた血をぬぐいながらきく。
月乃とあかねはあまり状況が飲み込めていなさそうだった。
一応、説明しておくか。
「この人たち、シガンさんとヒガンさんは、私の義兄にあたる人たちで、能力持ち。今日はたまたまうちに来る予定だったんだけど…。」
「こいつがすっぽかしてん。」
シガンさんは治療の手を止めて私の頭を軽く小突いた。
私は小突かれた頭を治療されていない手でさすりながら短く続ける。
「というわけだよ。」
「よく分からないけど、怪異の話をしても大丈夫なのね?」
「大丈夫。」
「じゃぁ、わたしが話そうか?」
「せやな。つつじは信用ならんし、頼むわ。」
「わかりました。」
そう言って月乃は今回の件について説明してくれた。
しれっとシガンさんに信用されていないことが発覚したが、置いておこう。
月乃が説明している間に私の手と首は包帯が巻かれていた。
絆創膏で良いと言ったら“あ゛?”と帰ってきたのでもうこれはしかたがない。
ぼーっとシガンさんの手元を見ているうちに月乃の話は終わったようだった。
「なるほど。それは大変やったな。
んで、その人形はそのメリーさん、か。」
「はい。今はすごくおとなしいし、危険はないと思います。」
月乃の力強い声と視線で月乃がめりーさんを手放す気がないことはシガンさんに伝わったらしい。
それ以上人形の処遇については聞かなかった。
……いつまた動き出すか分からない人形なんて持っているだけでも怖いと思うのだが、相変わらずそういうところに関しては月乃は一切怖がるそぶりを見せない。
本当に、肝が据わっている。
「今の話やと、月乃さんの能力は攻撃系じゃないんか?」
「能力__?」
月乃はポカーンとした間抜けそうな顔を晒した。
どうやらあかねは怪異やらなんやらの説明はしたが、能力持ちのことに関しては特に説明していなかったらしい。
シガンさんはその返答を聞いて軽く目を見開いているほどだ。
この人がここまであからさまに表情に出すのは珍しい。
写真を撮りたいレベルだ。
「なんや、今回のが初怪異か。」
「いや、そういうわけでは……」
まぁ、説明はややこしいだろうなぁ。
なんせ月乃は一度怪異とは全く無関係な立場に戻っている。
説明はややこしいどころではない。
こちらからすれば一般常識が覆されるようなものだ。
「そこは俺が説明しよう。」
家についてからずっと黙りこくっていた暴君ことあかねが説明を買ってでた。
黙って再び村説明を聞くこととなった。
なんか、ずっとなんかしらの説明をされている気がする。