22
「まさか、こうなるとは思わなかった。」
「フェ、レス。」
いつの間にか隣に来ていたフェレスが、私が考えていた事と全く同じことを言う。
本当に、予想外だった。
あんな綺麗事でメリーさんが納得するとは思わなかった。
「つつじ、ゆっくり、ゆっくり呼吸して。」
「?なん___ヒュッ。」
声になりきらなかった。
慌てて声をつむぎ直そうと声を出す。
「ヒュっ、ひゅう、カハッ、ア、ヒュっ!」
いつの間にか、過呼吸になっていたようだ。
それに気づいた瞬間、息ができなくなった。
酸素が入ってこない。
「つつじ、ちょっとごめんね。」
そういうと私の首に体を持っていき、しめた。
私の首を。
____私死ぬ?
「つつじ、これからゆっくり手を離すから、ゆっくり、深呼吸して。
大丈夫、大丈夫だから。」
言い終わるとすぐに、私の首に巻きついた手から、少しずつ力が抜けていく。
フェレスに言われた通り、ゆっくりと深呼吸を繰り返す。
フェレスが離れる頃には、すっかり呼吸ができるようになっていた。
「大丈夫?」
「うん。ありがと。」
冷静になってみると、フェレスが首をしめた理由に予想がついた。
確か、過呼吸になると、体内の酸素量が多くなるらしい。
だから首を絞めることで強制的に酸素の量を減らし、ついでに深呼吸もさせることで私を落ち着かせたのだろう。
顔を上げて前をみると、月乃はメリーさんを抱き上げていた。
メリーさんはもう涙を流すこともなく、おとなしく月乃に抱かれている。
そして、その隣には、泣きそうな顔をした妖狐がポツンと立っていた。
月乃はまだ気づいてはいない。
「よかったね、また会えて。」
精一杯の皮肉を込めて妖狐に向けていう。
ついでに月乃に妖狐の存在に気づかせる。
月乃は弾かれたように辺りを見回し、その目は妖狐を捉えた。
「あかねっ!!」
月乃はメリーさんを持ったまま、妖狐__あかねに抱きついた。
「月乃。」
今まで聞いたことがないくらい優しい声であかねも受け入れる。
感動の再会というやつだ。
そのままあかねと月乃は何かを楽しそうに話し出した。
私とフェレスのことは空気扱いで。
若干どころか、とても居た堪れない。
感動の再会はわかる。
お互い会いたがってたもんな。
100歩譲ってそれはいいい。
だが、ここは感動の再会とはかけ離れた薄暗いトンネルだ。
そして早く帰りたい。
手が痛いから。
ガラスは意外と痛いのだ。
早急に血を洗い流したい。
「月乃、あのな、」
「ちょっとまった!」
二人の終わる気配のない会話をフェレスが遮った。
ナイスフェス。
「ここで長話もなんだし、とりあえずうちに行こうか。」
うんうん____ん?うち?
「え?うちって私ん家?」
「他にどこがあるの?」
「うちに二人がくるの?」
「だって他に場所ないでしょ」
「いやカフェとか…」
「その血まみれの手と首で入れる訳ないでしょ。」
さっと自分の手を見下ろしてみる。
ずいぶん深く切ったらしく、まだ血が出ている。
それなりにグロテスクだ。
「それに、僕とあかねは見えないし。」
……。
何も言えない。
反論が思いつかなかった。