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「最近はここらも人が少ないね。」
やる気が出ない中支度をすませて学校に向かっている真っ最中。
誰ともすれ違うことなく学校へ向かっていた。
細くもなく、大きくもない道。
住宅街が立ち並ぶ区画から少し離れた、田んぼと畑しかない場所。
学校へ行くには山を越える必要がある。
といってもやまをぶち抜いているトンネルがあるため登校のためにわざわざ山を登る必要はない。
そのトンネルは田園地帯の小道を真っ直ぐに抜けた先に待ち構えている。
「もともと人が多かったの?」
フェレスはぴょこぴょこと私の前を器用に歩いている。
手首しかないくせに器用なもんだ。
「別にそういうわけではないんだけど…。昔はもう少しおばあちゃんとか、小学生とかとすれ違ったり、挨拶したりしてたんだよ。なのに、最近はめっきり減ったんだよねぇ。」
ここらへんは子供の数もお年寄りの数も多い。
特にお年寄りなんてこの時間は井戸端会議に精が出る時間帯だ。
田んぼと畑しかないとはいえ、ここら辺は山の麓にある小学校の通学路だ。
それに、ご年配の方たちは畑仕事なんかもしているはずだ。
すれ違うどころか声すらしないが。
最近はずっとこんな感じで静かなんだよねぇ。
若干不気味なくらいで、特に害もないからいいのだけれども。
「つつじってそんなこと気にするタイプだったんだね。」
「何、その言い方は。」
多少の嫌味が含まれている気がしてならない。
「別にぃ。それより、小学生、いるよ。」
「え?」
咄嗟に周りを見てみると、確かに子供がいた。
フェレスが言う通り、小学校低学年ほどに見える子供が電信柱の下から確かに私を見つめている。
さっき通った時には間違いなくいなかった。
声どころか足音すらしなかった。
つまり、私が通った後に子供があの場所に移動したとは考えにくい。
足音がしたらさすがに気づく。
ただでさえ人がいないと話していたのだから。
それに、あの子供は小学生ではないだろう。
ランドセルも何も持っていない。
何より、フェレスのこともしっかりと見ている。
人間でフェレスが見えるのは脳力持ちだけ。
あの子供は怪異の可能性が高い。
子供は何をするでもなくこちらを見つめている。
気味が悪いなぁ。
ただ見つめられているだけで、何も害はない。
ただただ気味が悪い。
「フェレス、あれ、何?」
子供から目を離さずに聞く。
どこか重苦しい空気が漂っている。
「子供の怪異だね。なんの怪異かはわからないけど、この通学路はもう使わない方がいいよ。」
フェレスがいうのであれば、もうこの道は使わない方が良いのだろう。
いつ子供が豹変して襲ってくるかわからない。
子供から目を離さないようにしてゆっくりと後ずさる。
子供が動く気配はない。
田園地帯を抜けて山をぶち抜くトンネルまできた。
子供が動く気配はない。
ゆっくりと前を向いてトンネルの中に入る。
子供の姿は視界から外れた。
「多分もう大丈夫だよ。今日の帰りから二、三日はあの田んぼと畑のところは通らないでね。」
「わかった。………あの怪異、危ないやつ?」
「多分、夕方とか朝方になると襲ってくるよ。あの怪異は多分、噂が元になってるタイプだから。」
噂か。
私は歩きながら記憶を引っ張り出す。
確か、怪異には一つ、とんでもないのが居たそうだ。
名前は、『空想を現実にする怪異』。
この怪異は、様々な怪異を作り出す、いわば怪異製造マシーンのようなものだ。
噂や口伝、怪談を怪異として出現させる。
つまり、さっきの子供はどこかの誰かが噂した怪談、といったところか。
とんでもなく不気味なだけで、害がなかったのは運が良かったのだろう。
にしても、
「朝から災難だなぁ。」