18
【つつじ視点】
ようやくトンネルが見えてきた。
私は急いでトンネルに入る。
これで、フェレスと合流できるといいのだが…。
ここに来るまでにメリーさんからの電話はちょうど十回。
最後の電話では、メリーさんは今、山道にそのまま続く道と、トンネルに行くための道の分かれ道にいるそうだ。
……振り返ったら、いるのではないか。
そんな恐怖がぴたりと私に取り憑いている。
メリーさんとの距離が近づくにつれ、だんだんと電話の頻度が高くなってきている。
できるだけ全力で走っているが、どうしたってペースは落ちてしまう。
ペースが落ちれば、メリーさんとの距離は近づく。
どっこいしょおどっこいしょ!!
四回目あたりからは、私のスマホに電話が来るようになっていた。
スマホに触れた瞬間、頭の中に映像が溢れてくる。
【暗いトンネルの中でスマホを取り出して耳に当てる。】
一瞬のタイムラグの後、全く同じ光景が自分の視界に流れる。
同じ動きを、私の意思とは関係なく繰り返す。
「もしもし。」
ようやく自分で動けるようになると、掠れる声を無理やり絞り出す。
「わタし、めリ–サん。いマ、アなタの、」
「後ろにいるの。」
最後の一言が、はっきりと耳に響いた。
金縛りにあったように、動けない。
その場に縫い付けられ、上から冷水を浴びせられたように、体温がスッと下がっていく。
動けない。
だが、頭だけは動いていてくれた。
振り向くべきか?
答えは否。
振り向いたら、間違いなくいる。
動けない。
何故か?
恐怖による動揺?
それともメリーさんのせい?
わからない。
そんなことは今、どうでもいい。
それよりも、逃げなければ。
このトンネルは、まだ外が明るいとは思えないほど、暗い。
おまけにこのトンネルを使う生徒はほとんどいない。
大半の生徒は、山を越えなくてもいい場所に住んでいる。
人なんて通らない。
こんな時間に、こんな不気味なトンネルなんて通ろうと思わない。
つまり、誰かの助けなんて期待できない。
もし仮に誰かがいても、死体が増えるだけ。
とにかく逃げなければ。
この状態で逃げられるのか?
わからない。
暗い。
怖い。
トンネルの先は見えず、ただ色濃い黒があるだけ。
暗い。
「ねェ、こッチをミて¿」
ヒュッ
だめだ。後ろを見てはいけない。
ヒューヒュー
見たら終わり。
走れ。
動け。
「ネぇ、ナンで、」
ようやく、片足が動いた。
「にげるの¿ 」
動いた足を前に出して、次の足を動かす。
ヒュウヒュウ
意識しないと、足一つ、動かせない。
「ネェ、なンデ?」
視界の端に、何か光るものが映った。
カハッ、ヒュッ、ヒュー
あれは…
私はもつれる足を動かし、そこまで走る。
「ねぇ」
あと、一歩。
「き イ て よ ¡?」
ついた。
私は光るもの___大振りで鋭い、ガラスの破片を、“自分の首”に当てる。
ヒュウッ、ヒュッ、ヒュー
メリーさんは、私の後ろにいるのだろう。
今から鬼ごっこを始めても、逃げきれない。
かといって、メリーさんに惨殺されるのも、怖い。
死ぬのも怖い。
でも、どうせ死ぬなら。
どうせ死ぬなら、恐怖を味わう前に死ぬ。
今メリーさんの姿を見たら。
今よりももっと怖い。
そして、私は確実に死ぬ。
痛いだろう。
苦しいだろう。
怖いだろう。
普通に死ぬよりも、ずっと。
それは、いやだ。
怖い。
私は、自分の首筋に当てたガラスを、引い___。