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紫アザレアが察するには  作者: こたつ
赤い出会い
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【月乃視点】

「ちょっと!!」


走っていく女の子の背に向けて大声で叫ぶが、女の子__山瀬つつじは振り返りもしない。


「なんなの……。」


あかねと出会って以来、訳のわからないことばかり起きる。

昨日だってそうだ。


昨日の夜、机の上に、見覚えのない紙が置いてあった。

その紙はクリーム色で、美しい草花の模様が描かれた、高級そうな紙だった。

その紙には、綺麗な字で、“妖狐のことが知りたければ、山瀬つつじ殿に聞かれたし”と書いてあった。

“妖狐”。

間違いなく、あかねのことだろう。

誰があの紙を置いたのか、なぜ誰にも気づかれることなく置くことができたのか。


「あかね…」


彼は今、どこにいるのだろう。

自分が名前をあげた妖狐のことを思い出す。

ふんわりとした、月と太陽を混ぜたような色をした髪で、派手な色の着物を着崩して、どこか気だるげなあの人のことを。

あの、赤くて美しい、ルビーのような色の瞳を。

彼と、もう一度会いたい。

その思いは、ずっと消えなかった。

突然彼が見えなくなり、気づけば見知った街に帰ってきた時からずっと。

だから、今日、つつじを問い詰めたのだが……。

一体、何がしたかったのだろう。

話は全く取り合ってくれないし、ソーラン節は鳴り響くしでもう何がなんだか。

挙げ句の果てにスマホを持って行かれた。

あれ、バイトをして買ったばかりなのに。


「なぁ、そこの子。」

「え?」


低い男性の声に、ふと顔を持ち上げる。


一瞬あかねかと思ったが、明らかに声が違う。

なんでもあかねに結びつけてしまうくらい焦っているのかもしれない。


「なぁ、あんさん、聞いとるか?」


声をかけてきたのは、170センチくらいの身長の男性で、きっちりとスーツを着こなし、髪は綺麗に整えてある。

そしてその顔は非常に整っている。

道を歩くだけで女の人が振り向きそうだ。

だが、女の人は振り向いた瞬間に目を逸らすだろうな。

なんせその美貌には感情が見えない。

おまけにスーツが似合いすぎている。

一言で言うならヤのつく職の人に見える。


___返り血がとても似合いそう。


「…なぁ。」


お兄さんは怪訝そうな顔をしてわたしを見つめている。

そういえば話しかけられてたんだった!

わたしは慌てて返事をする。


「すいません!ちょっと考え事してて……。

 それで、何かごようですか?」

「あぁ、ちょいと場所を聞きたくてな、えぇと、一年一組の靴箱ってどこにあるかわかるか?」


なぜ下駄箱の場所なんて聞くのだろうか?


「一年一組はわたしのクラスですけど、誰かお探しですか?」


質問に質問で返すのは良くないが、このお兄さんが不審者の可能性もある。

一応、目的を聞いておこう。


「山瀬つつじっちゅう人を探しとんねん。」


つつじ?

つつじの名前にぴくりと反応したわたしに気づかず、お兄さんは続ける。


「集合場所にいつまで経ってもこおへんし、LINEも未読スルー。せやから探しにきてん。どこおるか、わかる?」


流暢な関西弁でお兄さんは話す。

さっきまで話していたが、わたしもつつじに逃げられた身だ。

彼女が今どこにいるのかはわからない。

……なんか、大事なことを忘れてるような……

あっ!


「スマホ!!」


持って行かれたのを忘れていた。


「おん?スマホ?」

「あ、えっと、つつじ…さんに、スマホを持って行かれまして…。」


こんなこと言われても困るよな。

自分の娘がクラスメイトのスマホもって走り去りました、なんて…。


にしても、このお兄さん、随分と若く見える。

つつじの父親にしては若くないか?

年齢は間違いなく二十代だろう。

となると、つつじのお兄さんかな?


「つつじが、スマホを…?」


お兄さんは目を細めている。

さっきまでの無表情が一瞬なりを潜めたが、すぐに真顔に戻った。


「それはすまんかったな。あいつのことや、なんも言わんと言ってもうたんやろ?となると、どこおるかわからへんよなぁ。____あいつ、余計な手間かけさせやがって。」


最後の方に何か小声で言っていたが、よく聞こえなかった。

お兄さんはため息をつきながら何かを考えているようだったが、突然肩をびくりと震わせたかと思うと、何かを小声でボソボソと喋っているようだった。

考える時に声が出るタイプなのかもしれない。


「じゃあ、もしつつじを見つけたら、声かけてくれると嬉しいわ。えぇと…」

「月乃です。」

「月乃さんな。俺は…シガンちゅうもんや。よろしゅうな。学校の周り探しとるさかい、つつじを見つけたら声かけてぇな。」


そう言って関西弁のお兄さんは校門の方へと歩いて行った。

……確か、つつじは山の方へ行ったはずだ。

普通なら校門を出て、山を突き抜けているトンネルに入る。

そのトンネルは、山道からも行けたはず。

彼女がどこへ向かっているかはわからないが、わざわざ遠回りをして山を越えるとは思えない。

校門の方からトンネルに急いで向かえば先回りできるだろうか。

山道からより校門からの方がトンネルまでは近い。


まだ私はつつじからあかねのことを聞いていない。

それに、スマホも返してもらわなければ。

ここでどうしようか迷っている場合ではない。


私は校門に向かって走り出した。


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