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紫アザレアが察するには  作者: こたつ
赤い出会い
15/131

15

その後は彼岸花の人がずっと机から離れないでいてくれたおかげで落書きをすることもなく無事に放課後となった。

そして校舎裏に向かっている。

周りには誰もいない。

秘密の話にはもってこいだ。

校舎裏の日陰には、すでに人影があった。

その人影の髪には、神々しいまでの美しさをもつ彼岸花が咲いていた。


ピコン


歩き始めたところでスマホが鳴った。

マナーモードは切ってあるので、LINEの通知だろう。

見ようか迷ったところで、名前を呼ばれた。


「山瀬、つつじさん」


声の主に目を向けた、瞬間。


【太陽が頭上にあり、眩しい光を放つなか、建物の影にいる自分。

 少女____もとい、彼岸花の人、月乃がこちらを睨んでいる。

彼女が口を開いた】


映像が頭の中を駆けた。

数秒後、全く同じ動きを、頭の中ではなく、現実で彼女がトレースするように動いた。

その間私は瞬きすらできずに動けない。


「あなた、あかねのこと知ってるでしょ?」


その嫌悪と苛立ちに満ちた声を聞いて初めて、自分の思考と体の動きが返ってきた。


「あかね?」


キョトンとした声と表情で問う。

十中八九妖狐のことだろうが、一応確認だ。


「妖狐。知ってるでしょ?」


やっぱり、妖狐のことだ。

にしても、あかね、ねぇ。


「知らない。」

「嘘でしょ。」


これは、誤魔化せる気がしない。

妖狐と言われてなんの反応も見せずに、知らないと即答したのはまずかった。

それでは怪異、そういうものが存在することを当たり前だと言っているようなものだ。

これ以上嘘をついても仕方ないかもしれない。


「知ってる。」

「あかねはっ?!あかね今、どこにいるの!?」


思いの外食いつきが良く、前のめりだ。

妖狐と似て感情的になりやすいタイプのようだ。


「さぁ?山にでもいるんじゃない?」


あいにく私は妖狐についてほとんど知らない。

にしても____なぜ私が妖狐について知っていると思ったのだろう。

彼女は私にピンポイントで聞いてきた。

私が能力持ちだと知っていたはずがないのに。

私の疑問をよそに、彼女は口をひらく。


「じゃあ、会わせて。

 山でいいから、一緒にきて。

 私に話をさせて。」


彼女は悲痛そうな顔をしている。

嘘でも作り物でもない、素の顔。


「妖狐は、なんのために君から離れたかわかる?」


彼女をもう一度妖狐に会わせてしまったら、妖狐のかけた術とやらは無効になる。

もしそんなことをしようものなら、今度こそ私の命はない。

それに、この人は恵まれている。

怪異に遭遇したのに、人の世界で生きていけるのだから。

彼女にとってそれがどれだけ辛いことでも、恵まれている事には変わりない。

それを自ら手放そうとしている彼女は、私には傲慢に見える。

そして、これは完全な私怨だが、私はこの人が嫌いだ。

わざわざ嫌いな人の望みを叶えたくはない。


「わかんないよ。わかんないから会って話を聞きたいんだから。」


今度は泣きそうな顔をしている。

よくこんなにコロコロと表情が変わるものだ。


「じゃあ教えてあげる。なんで君を遠ざけたのか。」


あたりは不気味なほどに静かだ。


あぁどっこいしょぉ!どっこいしょ!!ソーランソーラン!!


突然のソーラン節に彼女の表情筋が固まった。

さっきまでの表情変化が嘘のようだ。


私は手早くスマートフォンをとりだして操作する。

非通知を確認してきる。

この間3・5秒。


「「………・」」


いやきまずっ!!だって電話きちゃったんだもん!しょうがないじゃん!!通知音がよりにもよってソーラン節だったのは私が悪いよ!?でもこのタイミングでなるとは思わないじゃん!?


誰にするでもない言い訳を心の中で叫ぶことでどうにか気持ちを落ち着かせる。

落ち着きはしなかった。


「し、失礼しました…。で、続きだけど、」


さりげなく話を戻す。

彼女はなんとも言えない顔をしている。


「本来、あれらと関わったら死ぬまで付いてくる。“見える”ようになるから。で、高確率で見える人は死ぬ。怪異によって。」


彼女は妖狐から怪異だのなんだののレクチャーは受けているはずなのでここまでいえば勘が悪くてもわかるはずだ。

しかし、一応言い切っておこう。


「だから、妖狐は君を“見えなく”することで“死”から遠ざけたんだよ。」


ここまでいえば彼女も諦めるだろうか。

妖狐がどんな思いでそうしたのかは、きっと私以上にわかるはずだ。

むしろ私には少し理解し難い。


「……」


彼女は何を考えているのか全くわからない。

わからないが“あかね”のことであるのは確かだろう。


「……っ!」


彼女は苦しげな表情をしたかと思うと、


バンっ!!


校舎の壁を思いっきり殴った。


____は?


ゴスっと鈍い音もしたから相当痛かったと思う。


「それでいい。」


何かを決心したような若干低い声。


「私が死んでもいいから、あかねに会わせて。」


まじか。


「いやだよ」


諦めないと思っていなかったから、この先の言葉を考えていなかった。


「合わせて!」

「嫌」

「会ーわーせーてー!!」


あーあー、駄々っ子みたいになっちゃって。

これじゃあらちが開かないな。


てれてれてん てれれれれん


そう思った矢先、都合よく初期設定の通知音があたりに響き渡った。











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