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「ねぇ、山瀬さん。あなた、月乃と仲がいいの?」
今日も今日とて厚化粧の彼女がとんでもない目力で私を突き刺してくる。
間近で見るとその目力はやはり何かに有効活用できそうだと思う。
目力で人が死ぬなら間違いなく即死だろうなぁ。
死因は圧死かな。
目の『圧』で圧縮されて死にそうだ。
化粧の目力が強くなった気がする
朝の微塵も働いていない頭で面倒臭そうなことを考えないといけないと言う現実から逃げるのももうそろそろ限界が来たらしい。
「いや、ほとんど喋ったこともないよ。」
とりあえず顔の全面に笑みを塗り重ねる。
なぜこんな面倒ごとになっているかといえば、彼岸花の人のせいだ。
朝登校したら、私の机に置き手紙があった。
放課後校舎裏にくるようにと言う若干の身の危険を感じる内容だった。
しかし、校舎裏だ。
夢と同じ場所。
間違いなく何かしら事が起こる。
これだけでもまぁめんどくさい。
さらに面倒なのは、彼岸花の人がわざわざ置き手紙を用いたことだ。
おそらく手紙を置いているところを化粧と愉快な仲間達の誰かに見られたのだろう。
結果、彼女らは私と彼岸花の人との間になんらかの友好関係があると判断した。
そのため私は今がんつけられている。
おそらくは昨日の彼岸花の人の発言の腹いせに、月乃と関わりがある私を月乃から引き剥がし、完全に孤立させたいのだろう。
「じゃあ、あの手紙、何?」
若干声が低くなってきている。
苛立ってきている証拠だ。
「さあ?全く心当たりがないんだよ。なんなんだろう?」
私は本当にわからない、と言う顔と口調、声の高さを意識する。
できているかはわからないが。
「じゃあさ、月乃の机に落書きしてきてよ。」
『できるでしょう?』とでも言いたげな顔で化粧が私を見ている。
『別に仲がいいわけじゃないんだし、できるでしょう?』
『できないなら、裏切り者だよね』
といったところだろうか。
断ったら確実に面倒臭いやつだ。
別に、落書きくらいできる。
少なくとも私の良心は咎めない。
良心よりも先に面倒ごとは嫌だと言う自己防衛が働く。
そうでなくとも、私は中立でいたい。
もし彼岸花の人が自殺しても無関係です、そんなことが起こっていたなんて知りませんでした、と言えるように。
ブーブーブー
はかったようなタイミングでマナーモードのスマホが鳴った。
マナーモードにしておいてよかったと心から思う。
流石に教室でソーラン節はまずい。
羞恥で死ねたら身体中から内臓が出て死ぬ。
間違いなく。
「ごめん、ちょっと出てくるね。」
私は返事を待たず、スマホを持ったまま廊下に出る。
非通知の電話だったので問答無用できる。
このままホームルームが始まるまでどこかで時間を潰せば、落書きをする必要は無くなるだろう。
私は念の為教室から離れ、廊下を彷徨く事にする。
もし電話をしていないのがバレても面倒臭い。
にしても、暇だなぁ。
せめて本でも隠し持ってくるんだったか。
「あれ、つつじさん、こんなところでどうしたの?」
ゲッ。
声の方に首を向けると胡散臭い笑顔が右斜め前のろうかから顔を覗かせていた。
「おはようございます。」
「はいおはようございます。」
とりあえずいい笑顔を作って挨拶をする。
ここは特別教室と空き教室が並ぶ廊下だ。
理由もなくここにいるのは確実に不自然__!
言い訳を考えるのは面倒だからこれで誤魔化されてくれ。
「で、どうしたの?」
チッ。ダメか。
言い訳、言い訳、なんか、なんかないか。
後ろ暗いことがないとも言い切れないので正直に話す気には慣れないし。
とても回転が遅いとろけ切った脳を全力で働かせる。
____そうだ。
「小戸路先生を探していたんですよ。」
「僕を?どうしたの?」
「今日の放課後は予定が入ってしまって、行けそうにないんです。」
そう、今日の放課後は彼岸花の人に呼び出されている。
つまり、今日の図書室の手伝いには行けない。
その報告のために先生を探していたといえばちょうどいい。
どうせ後で報告が必要だったから尚更だ。
「ん、わかった。それじゃあ今日は俺が本探さないとなぁ。」
「頑張ってください。」
それだけ言って先生と別れた。
そういえば、あの先生何してたんだろうか。
明らかに空き教室の方から出てきていたが、空き教室には特に何もおいていないはず。
相変わらずよくわからない先生だ。