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紫の刹那でひとひらを察するには  作者: こたつ
赤紫の夏季休暇
137/151

番外編 月乃

「じゃあ、そろそろ帰りましょうか。」


 お土産も買い終わり、しばらく話し込んでいたところで、つつじが言った。

外ではすでに日が傾き始めていた。


「うん、僕たちはバスで来たから、行きと同じように帰るよ。つつじちゃん達は?」

「私達は電車ですね。そろそろいい時間なんです。」


どうやら電車の時間も考えた上でこの時間に声をかけたらしい。

そういえば、行きも帰りも道は全部つつじ任せだったな。


「おれはバスっすね。」

「じゃあ一緒に行こうぜ!」


 ハラキさんがしょうまくんの背中を叩いて一緒に帰るよう誘っている。

 しょうまくんはとはここでバイバイか。

名残惜しさを誤魔化すように、わたしはしょうまくんに話しかけた。


「そういえば、しょうまくんは一人だったよね?この水族館にはよく来るの?」

「いや、友達と来る予定だったんだけど、ドタキャンされた。」


 カラリと笑うしょうまくんに、思わずわたしは目を逸らしたくなった。

ドタキャンされたのに怒る様子を見せずに笑っているしょうまくんは、やっぱりかっこよかったから。


「じゃあ、またね!」

「つつじちゃん、つきのちゃん、バイバイ!」

「また学校でー。」


 外に出て各自帰りに乗る乗り物の場所へと向かう。

わたしたちは電車に乗るために駅に行った。


「いやー、楽しかったね!」

「よかったねー。」

「つつじ!月乃様に失礼ですわ!」


 みんながいなくなった瞬間に真顔に戻ったつつじが退屈そうにした返事にメリーちゃんが怒ったけど、つつじはどこ吹く風だ。


「つつじは楽しくなかった?」

「赤井崎さんと粟森さんには会いたくなかった。」


 心の底から面倒臭い、と言うような感情を雰囲気の中に滲み出させるつつじにとって、今日はあまり楽しくなかったのかもしれない。

元々水族館は好きじゃないって言ってたし、どちらかといえば苦痛だったのかも。


「でも、リイフちゃん、つつじが言うほど悪い子じゃないよ。」

「人には相性ってものがあるんだよ。」


 無表情ながらもげっそりしたような気配がするつつじは、電車に乗るとすぐに空いている席に座った。

 そんなに疲れたのかな。

そこからしばらくは行きと同じように会話をしながら最寄りの駅まで時間を潰した。


「そういえば、みんなはキーホルダーどこにつける?」

「わたくしは月乃様にもらったキツネと同じところにつけていますわ!」


 メリーちゃんは誇らしげにスカートを見せてくれた。

そこにはおそろいのキツネと今日買ったばかりのイルカがぶら下がっていて、メリーちゃんが動くたびにスカートと一緒に揺れている。


「かわいい!」

「どうやってつけてるの……?」

「あかねは?どこにつけるの?」

「帯につける。」


 今日はお出かけのために洋服を着ているけど、あかねは普段は和服を着ているから、その帯につけるのだろう。

普段から帯にキツネつけててくれるもんね、あかね。


「つつじは?」

「あー……考えとく。」

「一緒に学校のかばんにつけようよ!」


 せっかくリイフちゃんやしょうまくんとおそろいなのだ。

学校につけていけばみんなでおそろいができる。

 しかし、つつじの返事はそっけなかった。


「嫌だ。」

「なんで!?」

「つつじ!せっかくの月乃様とのおそろいですわ!つけなさい!」


 メリーちゃんが怒っているが、電車の中だから流石に落ち着くように宥めて、わたしは何を思っているのかわからないつつじを見る。


「リイフちゃんとおそろいなのが嫌なの……?」


 つつじはリイフちゃんが嫌いだろうし、しょうまくんのことだってどう思っているのかわからない。

もしかしたら、それが嫌なのかもしれない。


「そういやお前、狐の根付けも付けてねぇよな。」


 ふと思い出したようにあかねが言うのを聞いて、わたしは数ヶ月前につつじにあげた紫のキツネを思い出す。

確かに、あれ以降見ていない。


「も、もしかしておそろい、嫌だった!?」


 もしかすると、おそろいとかが嫌だけど言い出せなかったのかもしれないと思い、慌てて確認すると、つつじはあー、と小さく息を吐き出すような声を出した。


「いや、つけるとこなくて。」

「つつじカバン何もついてないよね!?」


 さらに追求しようとしたところで電車が駅に到着してしまった。

つつじが無言で降りるのを追いかけ、さっさと改札を通り、外へ出てしまう。


「ねぇつつじ、嫌なら嫌って言ってくれれば……!」

「何が嫌なの?」

「うをぇっ!?」


 突然つつじの頭の上に現れたフェレスに、つつじは変な声を出してビクッとした。

こう言う時はわかりやすく表情が変わるつつじはおもしろい。

 フェレスは多分、迎えにきてくれたのだろう。


「フェレス!つつじが月乃様とのおそろいを嫌がるのですわ!」


 ふん!と鼻を鳴らしてプリプリと怒るメリーちゃんに迫力はなかったけど、それでも十分怒っているのがわかった。


「おそろいって、あのきつねのこと?つつじ、あれ割と大事にしてない?」

「「え?」」

「だって、月乃ちゃんが僕にもくれたやつでしょ?あれ、つつじの本棚に置いてあるもん。」

「それ、大事にしてるって言うのか?」


 あかねが何ともいえない顔を浮かべたけど、フェレスは気にせずに付け加えた。


「つつじって要らないものとか興味ないものは机の上とか、窓辺とかに適当におくんだ。でも、本棚だけはいつでも綺麗で、本とか大事そうなものがちゃんと並べて飾ってあるんだよ。」


 それを聞いて思わず先を歩くつつじの隣まで言ってその顔を見る。

相変わらずの無表情だけど、ちょっとだけ、おでこにシワができていた。


「つつじ、大事にしてくれてたんだ!」

「まったく、それならそうといえばいいですわ!」

「現金な奴らだぜ。」


 あかねが鼻で笑ってわたしとメリーちゃんをなんかムカつく顔で見てくるけど、こっちはそれどころじゃなかったんだから!


「フェレス、余計なこと言わないでよ。」

「えー、でも事実でしょ?」

「照れんなって!友達いなかったからおそろいとかしたことねぇんだろ?」

「つつじ、素直になればいいですわ。おそろいが初めてで嬉しかったと。」


 二人のニヤニヤした笑みに、つつじはわざとらしくため息をつきながら無視した。

最近、あかねとメリーちゃんはつつじをいじることが好きだ。

あんまりいいことじゃないんだけど……。


「最近、つつじとあかね達が仲良くて嬉しい!」

「仲が、いい……?」

「わたくしたちとつつじが……?」


 さっきまでいい笑顔でつつじをイジっていた二人が、信じられない、と愕然とする。

それを見てわたしが笑う。


「なんか、二人ともつつじへの険が取れたよね。」

「……確かに、ちょっと前よりは対応が優しくなったね。」


 つつじが思い出すように顎に手を当てて、ポツリと言うと、あかねとメリーちゃんは必死に否定し出して、わたしはまた笑ってしまった。

夕暮れの住宅街の道に笑い声が響く。

 わたしは、こんな風に友達や家族と笑い合うのが夢だった。

あかねに会うまでは叶わないと思っていたけど、いまではすっかり日常だ。


「どうしたんだ?月乃。」

「んーん。何でもない。」

「月乃様!シガン達があっちから歩いてきますわ!」

「シガン達も迎えにきたんじゃない?」


 ワイワイと歩きながらフェレスに遅れて迎えに来たらしいシガンさんとヒガンさんに買ったばかりのキーホルダーを自慢して、ハラキさんやしょうまくんと会ったことなんかも話しながら賑やかに帰り道を歩いた。

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