番外編 月乃
「わぁ!かわいい!」
最初に声を上げたのはリイフちゃんだった。
最初に紙袋を開けたリイフちゃんの方に自然とみんなの視線が集まる。
「つきのちゃんが選んでくれたんだ!嬉しい!」
「月乃のセンスにしては上々か。」
「あかね!?わたしのセンスよくないと思ってたの!?」
あかねがケラケラ笑いながら言った事に思わず大声を出すと、みんなから笑われた。
メリーちゃんだけはあかねに怒ってくれたのが救いだ。
「アジサイみたいでキレイですわ!」
リイフちゃんに選んだキーホルダーはベタという魚のもので、ベタはヒレがレースみたいに薄く広がってて、すっごくかわいい魚だ。
その魚がさまざまなレースやリボンで表現されたキーホルダーがリイフちゃんの手の中にある。
「ベタって言うんだよ。リイフちゃん、さっきピンクがいいって言ってたから、ビビットピンクと黄色がキレイだったそれにしたの!」
「うん、すっごくかわいい!」
リイフちゃんは笑顔で学校のカバンにつけると言ってくれた。
喜んでもらえてよかった!
「じゃあ次はつきのちゃんが開けてよ!」
「わかった!」
リイフちゃんに向いていた全員の視線がわたしに移る。
わたしはワクワクしながら紙袋を開いた。
わたしのはウズさんが選んでくれたキーホルダーだ。
「貝殻だ!」
紙袋から出てきたのは赤色の貝殻のキーホルダー。
一番大きな赤色の貝はフェルトやビーズでできていて、その周りには小さな本物の貝殻も連なっている。
色は全て赤やピンクに統一されていてまとまりがある。
「かわいい!」
「よかった。つつじちゃん、一緒に選んでくれてありがとうね。」
目を閉じてわたしからは少しだけズレた場所を見ているウズさんはほっとしたように息をつくと、柔らかく微笑む。
それから顔をつつじの方へと向けて、また同じように微笑んだ。
まるで天女のような笑みで、わたしはウズさんの顔の良さに呑まれるところだった。
あぶないあぶない。
「じゃあ、次はウズさんが開けてください!」
何となく袋を開ける順番ができているのでそれに従って、ウズさんに開けるようにお願いする。
ウズさんは優しい笑みを浮かべていいよ、と言った。
「僕のはつつじちゃんが選んでくれたのかな?」
「そうですね。」
「「……!」」
自然な笑顔でつつじが答えると、リイフちゃんとしょうまくんがつつじの方を見た。
前々から思ってたけど、つつじのこの顔が作り笑いなんて全く分かんないよね。
つつじがただニコニコした優しい子じゃないのは四月から分かってたけど、それにしたってあれが作り笑いっていうのは今でも信じられない。
「これは……亀かな?」
「はい。日本石亀の幼体で、銭亀とも呼ばれるみたいです。」
つつじはウズさんの持つカメのキーホルダーを見ながら説明をしてくれた。
カメは緑や黄緑のフェルトとビーズで作られていて、甲羅の形がカクカクしていて面白い。
普通のカメじゃなくて特殊なカメを選ぶあたりもつつじらしい。
もしかして、ウズさんと一緒にいたのはウズさんが欲しいものを見つけるためもあったのかな。
「じゃあ、次はつつじちゃんだね。」
「私はあかねからですね。」
そう言って袋を開けてつつじの手に乗ったキーホルダーは、紫色のクラゲだった。
フェルトやリボン、ビーズ、レースなど、たくさんの素材で作られたクラゲはとてもかわいい。
夜空を閉じ込めたみたいな紫色は、つつじの目の色そっくりだ。
「わぁぁ!つつじみたいな色だね。」
「そうか?確かにかわいいけど、つつじちゃんにはもっと淡い色とか白とか黒とかのが似合うと思うけど。」
ハラキさんが首を傾げるのを見て、わたしはつつじの瞳の色が紫に見えるのは能力持ちだけだと思い出した。
そっか、みんなには見えないのか。
もったいないな。
「いい色だろ!見つけた時に即断したからな。」
「そういえば、最初は海月っていう話だったのに今のところ海月なのわたしだけだね。」
あかね相手でも笑顔を崩さずに話すつつじの瞳は、やっぱり夜空みたいな澄んだ紫色で、クラゲの色にそっくりだった。
「じゃあ、次は俺だな。」
「あかねさんのはオレが選んだんだ。」
しょうまくんはあかねにさんをつけて呼ぶ。
確かに、あかねって普通に見たら二十代くらいの大人に見えるもんね。
それにしても、あかねのキーホルダーを選んだのはしょうまくんかぁ。
あかねいいなぁ。
「これ……タコか?」
「顔ついてるよ顔!」
困惑した顔をしているあかねと、あかねの持つキーホルダーを見て笑っているハラキさんの顔が対照的で面白い。
あかねが持っているのは、鮮やかな赤のタコ。
これもフェルトやビーズで作られていて、このキーホルダーの特徴は茶目っ気の強い顔がついてるとこかな。
「ふふっ…。あかねの顔見たいですわ!」
「誰が間抜け面だっ!」
ここぞとばかりにバカにするメリーちゃんにあかねが目を釣り上げた。
メリーちゃんはツボに入ったのかお腹を抱えたまま笑っている。
「次だ!次!」
「次はオレだね。先輩が選んでくれたんすよね?」
「おう!ぜってぇきにいるから!」
やけに自信があるようなハラキさんの声に従い、しょうまくんが袋を開ける。
中から出てきたのは、フェルトで作られているとは思えないクオリティーだった。
「これ、なんて魚ですか!?なんかめっちゃリアル!」
「シイラっていうらしいぜ!なんかカッコよかったから絶対気にいると思ったんだ!」
しょうまくんのキーホルダーは今までのキーホルダーとは違って、やけに本物のような作りをしていた。
大きめな魚は上から下に青と黄色のグラデーションで、やけに大きい頭からツノのようなものがはえている。
男の子はああいうのが好きなのかな。
「カッケェ!ありがとうございます!」
「気に入ってもらえてよかったぜ!次はおれだな!」
「わたくしが選びましたわ!」
メリーちゃんは胸を張ってドヤ顔をしていてすっごくかわいい。
「え〜と、何だ?これ。」
「魚ですわ!」
「なんかみんなのと違くね!?」
ハラキさんの袋から出てきたのは、ネジを巻くとビチビチと魚が跳ねるキーホルダー。
いや、確かにキーホルダーだけど。
他のみんなのフェルトのキーホルダーとは異なり、プラスチック製のおもちゃをチェーンで吊り下げたものだった。
「これが一番面白かったんですわ!」
無邪気に笑うメリーちゃんに水を刺すわけにはいかず、みんなが苦笑いを浮かべていた。
メリーちゃんはまだ幼稚園か小学校低学年くらいの見た目に見えるから微笑ましく見える。
あかねだけはさっきの仕返しと言わんばかりにイジってたし、つつじは密かにため息をついていたけど。
「最後はわたくしですわ!」
「リイフちゃんが選んだんだよね!」
私が聞くと、リイフちゃんは照れくさそうに笑った。
やっぱりリイフちゃんはいい子だ。
フリルがたくさんついたワンピースを揺らしながらメリーちゃんが待ちきれないというように袋を開ける。
「イルカですわ!」
「ピンクイルカだね。シナウスイロイルカかな。」
「何で知ってるの!?」
私だけでなくウズさん以外のみんなが驚いたようにつつじを見る。
相変わらずの博識さに驚かされていると、つつじはなんて事のないように言った。
「さっきイルカショーで言ってたけど。」
「マジか。全然覚えてない。」
「山瀬さんよく覚えてるね。」
「ではつつじとウズはイルカショー見たんですの?」
キョトン、と首を傾げたメリーちゃんは上目遣いでつつじを見上げている。
あんなふうに見上げられたら何でも言うことを聞いちゃいそうだなぁ、わたし。
「うん、ちょっとだけだけど。」
「よかったね、つつじちゃん!」
リイフちゃんの声に笑顔のまま曖昧に頷くつつじは軽く頷いた。
イルカショーは本当にすごかったし、つつじとウズさんが見えたならよかったな。




