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紫アザレアが察するには  作者: こたつ
赤い出会い
13/131

13

とりあえず、この妖狐に言いたいことを言ってみようかな。

妖狐の質問に正直に答えるくらいしか、私には思い浮かばなかった。

それに、ここまで我を失って怒っている人なんて見たことがない。

それなら、こちらも本音を話す方がいいだろう。

____火に油をそそぐ結果になったとしても。


「質問の答えになるかはわからないけど、言いたいことは二つかな。」


私は、妖狐の様子を見つつ慎重に答える。

私の本音は確実に妖狐を激昂させるから。


「一つ。いじめなんて探せばどこにでもあるだろうし、そもそもクラス内で何が起こってようと知ったこっちゃない。家の事情なんて尚のことそうだね。」


話しているうちに妖狐から発される空気は重く、鋭くなっていく。


「二つ目。助けてもらえるのは当たり前じゃない。誰かを『助ける』ことで快感を得る人もいるだろうけど、私はそうじゃない。なんでわざわざ助けないといけないの?そうしたところで、私にはなんのメリットもないのに。」


我ながら道徳もクソもない考え方だと思う。

だが、紛れもない本心だ。

私はこういう考えの人間だから。

自分のためにしか生きられない。

興味のないものなんてどうでもいい。


「なんではこっちの台詞だ!」


妖狐は再び叫び、言葉を続けた。


「なんで、お前は、そんなに強いのに、周りに手を貸さない?めりっとだかなんだかしらねぇが、お前なら、全部無視して助けられたんだろ!?あの月乃にとって絶望しかないような世界で、何も怖がることなんて、なかったんだろ!?」


怖い、ねぇ。

それに、『強い』。

確かに、ある意味では月乃を助けられたのだろう、私は。

先生にこっそり報告することも、普通に口で言って止めるのも、全く怖いとは思わなかったと思う。

だが、それは『強さ』とは言わない。

私は強くない。

“強い”からそういうことができるわけじゃない。


「私は強くない。」


むしろ、私は


「弱いよ。私は、いつだって。」


もし強かったら___私は____


「もういいっ!!」

「っ!」


どこから出したのかと言うくらい、大きな声。

びっくりした。


「こんなことなら俺がそばにいればよかった。いられればっ…」


妖狐は苛立たしげに、悔しそうに、ソファを蹴った。

ソファが壊れていないのが不思議なくらい、大きな音がでた。


「君は、月乃ちゃんに会いたいの?」


ずっと黙っていたフェレスが久しぶりに口を開いた。

その声には単純な疑問の色しか滲んでいない。


「会いたいよ!会いたいに決まってるだろ!!」


なるほど。

この妖狐は、彼岸花の人を能力持ちにしないために件の術をかけた。

しかし、自分自身も怪異だから、術をかけた後に会うわけにはいかなかったのだろう。

会ってしまったら、能力持ちになってしまうから。

一生命の危険と隣り合わせで生きていくことになるから。

だから、離れた。


もし、このまま、会わなかったら、きっと後悔するのだろう。この妖狐は。

それは、きっと人間の数十倍、もしかしたら数百倍長いかもしれない妖狐の生きる中で、どれくらい続くのだろうか。

後悔した時に、彼岸花の人は、生きているだろうか。

後悔してもしきれないくらい、悔やむだろうか。


いつの間にか、口を開いていた。

自然と、口から零れてきた。


「会いたいなら、会っておいた方がいい。」


妖狐がこちらを睨んでいるが、私は構わず続けた。


「人間の寿命は君達が思っているよりずっと短いよ。」


後悔する選択は、いつか自分の身を滅ぼす。


妖狐は何も言わずに、顔を薄くしかめた後、静かに消えた。

山にでも帰ったのだろうか。


「つつじ……」


フェレスが何かいいたげに私を見つめている。

目がないから本当に見つめているのかどうかはわからないが。


「僕、まだ話聞きたかったんだけど?」

「しょうがないじゃん。だいたい、フェレスが私だって言わなければよかったことでしょ?」

「むぅ〜〜。」


明らかに成人しているであろう低さの男性の声でむぅ〜〜は、だいぶきついぞ。

特に、手首からその声が出ているあたりがとてもシュールだ。


どっこいしょぉ!どっこいピッ


スマホの通知音が鳴り終わるよりも前にきる。

非通知だった。


「夕飯の準備するから、フェレスも手伝ってね。」

「僕食べないのに。」

「つべこべ言わない。」

「はぁーい」







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