117
NPCシガンさんの言葉に甘えて私は聞きたいことを聞く事にした。
「私が呼ばれた理由が気になりますね。」
私は一応シガンさんの義妹という立場ではあるが、シガンさんともその妻である雪花さんとも血が繋がっていない。
血の繋がりがなくとも能力持ちだからという理由で私が呼ばれるのならば、月乃だって呼ばれるはずだが、呼ばれていないということは、家族として私が呼ばれているのだろう。
血の繋がりを重視していそうな古い家に私まで身内として呼ばれるのは、どこか違和感があった。
「詳しくは分からへんけど、考えられるんは二つやな。」
シガンさんは顎に手を置いて考えながら言葉を練る。
「一個は、純粋に分家、まぁこの場合は実家やな。実家がお前を家族と認めとることや。」
「どうして御実家が私を。」
特にあった事もなければ今まで関わりもなかったのに、どうしていきなり身内扱いしようとするのか。
いい事なのか悪い事なのかは判断しかねるが、‘認める’という言葉には大層な何かが感じられた。
その理由は、なぜか言いにくそうに黙ってしまったシガンさんの代わりにニヨニヨしているヒガンさんが教えてくれた。
「実家はシガンと雪花の結婚に大賛成やったからな。結果的に俺らを逃す事になっても、シガンと雪花の結婚を認めとった。」
なるほど、雪花さんとの結婚の話だからシガンさんが急に黙ったのか。
シガンさんは雪花さんとの事、特に恋愛関係の話になるとすぐに黙る。
「シガンさんと雪花さんの結婚が祝福されたのは良かったですけど、それと私に何が関係あるので?」
雪花さんと私の血が繋がっていたのならばまだしも、私と雪花さんに血の繋がりはない。
「……雪花が、初めての妹やってお前を可愛がっとったからやろ。」
「そんときはもう実家出とったけどな。それ以前に、雪花が山瀬の家を気に入とったのもデカいやろ。家族の家族は家族。」
私は意外か?と聞いてくるシガンさんに頷く。
そんな考えができるのならば、もっと平和的な家だろうに。
少なくとも、わざわざ逃げ出す必要はないように思えてくる。
「まぁ、それはそれ、これはこれってとこやろ。」
「そういうもんや思っとき。それに、二個目の理由の方がでかいと思うでおれは。」
「二個目はなんなんです?」
「色や。前も言った通り、お前の色、紫は実家にも本家にも少ない。」
貴重な色を持つ人間を囲っておきたい、と。
確かにこちらの方が納得できる。
納得はできるが………。
「色が異なる人間を集めてどうするんですか。」
「色々あるんやけど……。」
「紫は特殊やねん。」
言葉を濁すシガンさんに変わり、ヒガンさんが説明を引き継ぐ。
「紫はちょっと特別やねん。紫の色を持っとるやつの能力は特殊やってな。少なくとも、あの家ではそう信じられとる。」
「要は特別な能力を手元に置きたい、と。」
だとしたら当てが外れ過ぎているのではないか?
私の能力はそんなに凄そうなものではない。
「まぁでも、つつじも一緒に招待されとる理由はなんとなしに分かったやろ。」
「まぁ………。」
おそらく分家は雪花さんとシガンさんの義妹として、本家は貴重(仮)な人材として、私を巻き込もうとしている。
何かあったら優しいシガンさんに対する切り札になると思っている面もあるだろう。
「実家に関しての話はこんなもんやな。呼ばれとるんは秋やからまだ時間がある。また日が近くなったら言うわ。」
「……分かりました。」
「あと、月乃さん達には内緒な。」
「そうですね。言ったらついてきそうですし。」
今回の件に月乃を関わらせるつもりは無いらしい。
妥当な判断だろう。
「あ、せや、実家に行ったらすぐ帰るつもりやけど、もしかしたら時間かかるかもしれへんから、事前に色々済ましとき。」
「学校大丈夫ですかね。」
「一週間くらいは休む覚悟しとき。」
一応秋休みという名目で四連休ほど休みがあった気がするが、どうなるかはその時にならないとわからない。
一応宿題類は早めに終わらせておくか。
あとは………。
「んで、もう一個は緊急やねんけど。」
「なんで緊急の方を後回しにしたんですか。」
脳内で今後の予定を立てていたのに、全て無駄になりそうだ。
「明後日、史津野さん達が帰ってくる。」
一瞬誰がくるんだと思ったが、帰ってくるという言葉でしずのさんが私の母親、山瀬史津野に結びついた。
「聞いてませんけど!?」
「俺から言っとけって言われたんや。」
「先言ってくださいよ!急すぎるでしょう。え、父もですか。」
「二人とも一緒に帰国するらしいな。一週間くらいはこっちおるらしいで。」
あさって、明後日だと!?
今すぐにでも帰って部屋を片付けて、家全体を掃除して……。
「月乃達どうするんですか。」
そういえば母さん達がいない間に居候が沢山できているが、どうするのだろう。
そこら辺のことはシガンさんに丸投げしていたので両親が認知しているのかどうかすら分からない。
「月乃ちゃん達は帰るまでウチにおってもらうで。」
「言っていなかったんですか?」
「いや、言ってはあるんやけど親戚の子がつつじと同じ学校やからって説明してんねん。」
「あー、夏休みにも帰らないのは不自然ですね。」
「せやからその子は一旦帰ったことにして、ウチに別の親戚の子が遊びにきとる事にする。」
月乃が今我が家にいる理由は割とデリケートな話になってくるし、あかねとメリーさんまでいる。
両親とは隔離しておいた方が安全だろう。
シガンさんの親戚の数がとんでもない事になりそうだが、まぁ良いか。
「で、明後日ってどういう事ですか。」
「俺に言われても困るんやけど。」
シガンさんの様子を見るに、どうやらシガンさんにメッセージが送られたのもつい先程らしい。
元々色々とそういうところがある人達だが、二人揃って帰国するというあたりに何か作為を感じる。
普段の二人なら、急に帰ることはあっても各々自分に都合のいい日付にするはずだが、その二人が一緒に帰国となると、何か予定でもあるのではないかという気がする。
「何か話があるとか聞いてませんか。」
「いや、特に何も。ただ帰るとしか言われとらん。」
ただの気まぐれ帰国ならいいが……。
何となく、それはないと私の勘が告げていた。
「じゃあ、こっから先は月乃ちゃんもおった方がええんとちゃう?」
「確か月乃は今日部活終わりに買い物に行くと言っていたのでしばらく帰ってこないと思いますよ。」
「じゃあ作業は明日やな。今日の夕飯はうちで食ってき。そん時話すのに丁度ええから。」
「分かりました。」
帰ったら即掃除だな。
「ああ、せや、つつじ。」
「はい?」
帰ろうと立ち上がりかけたところで、シガンさんに名前を呼ばれた。
シガンさんを見ると、真剣そうな顔で私を見ていた。
「実家の件は、別に断ってくれても構わへんで。」
「行くに決まっているでしょう。」
招待されているし、別に行かない理由もない。
シガンさんがいう分には危険も少ないと信じている。
私がついて行く前提で話していた時とは打って変わり、どこか不安そうな顔をするシガンさんの顔は初めて見る類の顔だった。
「そうか。」
「シガン〜、そんな顔するとつつじが怖がってまうで?」
「元々怖い顔しているでしょう。」
だてにヤ○ザ顔ではない。
三者懇談の時なんて小戸路先生が演技を崩しかけていたレベルで顔がインテリヤ○ザ。
「人の顔に向かって失礼な奴やな。」
「鏡見て言ってくださいよ。」
「せやぞ〜。お前スーツきとるとインテリヤ○ザにしか見えへん。」
「着てなくても滲み出る何かがありますよね。」
「つつじお前言うようになったな。」
「月乃のタメ口に比べれば全然でしょう。じゃあ、私は一旦帰りますので、夕食の時にまた来ます。」
「ん。じゃあまたあとでな。」
私は今度こそ立ち上がってシガンさんの家を後にした。