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紫アザレアが察するには  作者: こたつ
裏色の夏祭り
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「月乃達は?何が当たったの?」


 シガンさんと帰る時間について話しているヒガンさんを横目に、私は月乃達の方に意識を向ける。

月乃はまだ何も知らないはずだし、何か違和感を抱いていないか探っておきたい。


「わたしハズレちゃったんだよね……。」

「外れとかあるの?」


 千本引きで外れはあまり聞かないが、その毛玉の屋台にはあったのだろうか。


「外れというか、ただただ運が悪いだけじゃねぇか?」

「そうですわね。」


 怪異二人によると、どうやら月乃の引いた糸の先には複雑な形の景品でもついていたようで、引いている間に景品が糸から外れてしまったらしい。

しかも外れたのは景品を保管してある異空間的な場所だったせいで景品を回収することができず、かと言ってもう一度千本引きをするわけにもいかず、と言う状況になり‘外れ’と言う事になったそうだ。


「シガンとかとんでも無いものを異空間から引いてたんだけどな……。」


 フェレスが心の底から納得できていなさそうな声で訝しがっている。

 ……確かに、シガンさんのを見た後だと余計に不可解なのは分かるが。

あの大きすぎる石が糸一本で繋がっていたのも、それを普通に片手で持ち上げていた シガンさんもおかしい。

 いや、結論シガンさんがおかしいだけかもしれない。

 なんとも言い難い結論に辿り着いてしまったところでヒガンさん達の話し合いが終わったらしく、二人が千本引きの話をしていた私達の方を向いた。


「ぼちぼち時間やで帰るで。」

「もうそんな時間っ!?」


 大袈裟に驚く月乃はお面越しにも目が見開かれているであろう事が予想できる。

そんな月乃を見てあかね達が笑い、ヒガンさんは楽しそうに傍観していた。

 先ほどまでの緊迫した雰囲気はどこにも無い。

あかねやメリーさんは実家の事を知っているはずだが、忘れているのか演技なのだかよく分からないが、はたして大丈夫なのだろうか。

いつも通りの平和な会話が今ばかりは落ち着いて聞いていられそうに無い。

 お面に隠れているおかげでシガンさんと月乃に落ち着きがないのはバレないだろうけど。


「後一時間くらいや。」


 シガンさんは言いながらあの文字盤がごちゃごちゃとしている二十五時間の懐中時計を見せてくれる。

確かに、時計の針は二十四時ピッタリを指していた。


「とは言うても、ここは時間感覚が狂いやすいねん。一瞬で時間が過ぎてもうたり、逆にとろとろといつまで経っても進まへん時もある。」

「やから早めに出口行こうと思ってん!」


 途中でシガンさんの言葉を奪ったヒガンさんは楽しそうに揺れる時計を目で追っている。

とても演技とは思えない。

 いや本当に演技じゃないのか?

もうよく分からなくなって来た。


「つつじの体調も悪そうやし、さっさと帰ろか。」

「別に体調悪くないです。」

「でもつつじ____。」


 何度か見たことのある会話を繰り返す事になった。


 結局雑談で体感十分程同じ場所に留まったあたりで懐中時計がけたたましく叫び始めたので私達がようやく動き始めたのは二十四時半くらいの事となった。


「ヒガン、出口はどこにあるんですの?」

「ちゃんと確認して来たで!ついて来ぃ!」

「ああ、いつもんとこ空いてへんのやったな。…………俺、メリーに出口の話したか?」

「あ?さっきしてなかったか?」

「ほうか……?」

「しとったで。」

「してたよ。」

「してましたよ。」

「みんな聞いたって言ってるから言ったんじゃない?」


 素知らぬ顔をしてメリーさんの失言を(何も知らない月乃も含めて)総出で隠したが、まだどこか納得いっていなさそうなシガンさんの手をヒガンさんが引きながら歩き出す。

歩いている最中、五分おきになると言う時計はまだ鳴っていないが急いだ方がいいという旨をヒガンさんが何度も繰り返しシガンさんに言い聞かせていた。

 シガンさんは自分の弟の言葉を特に疑ってはいないようで、さっきまでの疑いも忘れてくれたらしい。


「なぁ、ヒガン、いつもんとこから出るんやないん?」

「おん?いつもんとこ空いてへんのやもん。出られへんで。」

「お前がわざわざ確認行くとか珍しいな。」


 また地味に痛いところを突き始めたシガンさん。


「俺っちゅうか、つつじが出口気になるゆうとったから。」

「そうなん?」


 笑顔で話題を振って来たヒガンさん。

突然振られた気の使う返答が必要な話題を必死で処理しようと頭をフル回転させる私。

くるりと私の方を向く鬼のお面。


「ああ、はい。そういえばそうでしたね。」

「やっぱ体調悪かったんか?」

「別に体調悪くないです。」


 途中で帰るために出口に案内してもらったと思っているシガンさんの言葉を否定する。

別に本当に体調は悪くない。


「じゃあなんで出口なんて聞いてん。」

「いや、異界に来て出口を気にしない方がおかしくないですか。」


 仮にもここは異界。

二人の実家の件がなくとも最初から出口を知る機会があれば知っておきたいと思っていた。


「それもそうか。」

「なんやシガン、さっきから妙に神経質やな。」

「あー………。久しぶりに浴衣着て歩き回ったし、疲れとんのやろ。」

「自分のことなのに他人事だな。」


 あかねにため息を吐かれているが気にした様子もないシガンさんはヨーヨーをぽんぽんと手でつきながらけろりとしている。

本当にただ疲れているだけならいいが、実家の事がバレていないかとヒヤヒヤする。

 無意識にしても勘が良すぎないか?

最早バレているのではと疑いたくなって来た。

 シガンさんの様子を伺っていると、月乃が大きくあっ!と声を出す。

それに驚いた私は思い切り肩を上げてしまった。


「リンゴアメ忘れた!!」

「忘れたってお前………。」

「どこに忘れたん?」


 予定外かつ完全に想定外な月乃の忘れ物に、ヒガンさんが真顔で問い詰める。

真顔のヒガンさんを驚いたように見ている月乃とシガンさんに気づいたのかすぐにいつもの無邪気な笑顔に戻ったが。

それを見て安心したのか、すぐに返事ができていなかった月乃が手をばたつかせた。


「えっと、たぶん、千本引きの屋台かな?確か、糸を引くために一回置いた気がする。」

「大雑把だな。」

「あかね!さっきから月乃様に失礼ですわ!」

「るっせぇな。耳元で叫ぶなよ。」


 あかねに苦情を入れらてても特に気にした様子はないメリーさんはあかねの背中によじ登っていた。

どうやってあかねの背中をよじ登ったのか知らないが、何がしたいんだ。


「ほしたら一回戻るか。」


 声の方を向くと、静かに話の成り行きを見守っていたシガンさんがあかねとメリーさんの喧嘩を片手で仲裁しながら踵を返そうとしていた。

 これは止めるべきなのかさっさと飴を回収してくるべきなのか。

判断に迷いヒガンさんを見ると、私にだけ見える角度で全力の不満顔をしていた。

どうやらシガンさんを止めた方がいいらしい。


「シガンさん。」


 咄嗟にとりあえず呼び止めると、シガンさんはきちんと振り返ってくれた。

なんや、と言って微かに首を傾げているシガンさんを見つつヒガンさんの方も見ると、苦い顔で言い訳を考えているようだった。

 頼むなんか言ってくれヒガンさん。


「つつじ?どうしたんや?」


 シガンさんは呼び止めておいて話出さない私の様子を訝しんでいる。

そのせいか声がどこか優しく本気の心配をさせてしまっているのが分かる。

 分かるが、その心配に応えている余裕はない。

今の私は頭が真っ白。

とりあえず呼んでみたけど特に用は無いです、なんて口が裂けても言えないし、それではシガンさんが戻ってしまう。

 ヒガンさんもまだ名案は浮かんでこないらしく、今にも頭を抱え始めそうそうだった。

シガンさんは浴衣の裾と懐中時計を揺らしながら私の方へ歩いてくる。

そろそろ言い訳考えださなければ…!

でもこんな時に限って平時ならば溢れるほど出てくる嘘が思いつかない。

なんか、なんか無いか。

 もういっそのこと体調が急変したことにしようかな……。

そんな事を思いつつなぜこんなにもシガンさんの足止めをしているのかとどこか遠い気持ちになった。

最初から何を言うのか決めてから呼び止めれば良かった。

どうして何も考えず脊髄反射だけで声をかけたんだ、私。

ちょっと待てば多分ヒガンさんがどうにかしてくれただろうに……。

 当のシガンさんと言えばゆらゆらと懐中時計やら髪飾りやらを揺らしてこちらに歩いてくる。

………あっ。

言い訳、と言うかどうしても最初に出てこなかったんだと不思議になるほど単純で疑われなさそうな言葉が浮かんできた。

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