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紫アザレアが察するには  作者: こたつ
裏色の夏祭り
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 千本引きを楽しんだ後は、三人で屋台を見てまわった。

その間に射的や表の夏祭りにはなかった型抜きや(くじ)、金魚掬いに酷似した何か、中に小さな景色があるヨーヨー掬いなどを楽しんだ。

 途中でヒガンさんも合流し、すぐにシガンさんを引っ張ってどこかへ行ってしまったりもした。

 というわけで、今は私とフェレスの二人だけで出店を見ている。


「はぇー、珍しい物がいっぱいあるね。」

「私にはそこら辺の価値は分かんないかな。」


 この辺りの屋台のほとんどは市場のようで、売り物である食べ物や品物が所狭しと並んでいる。

そのほとんどは見た事もない不思議道具ばかりだ。

 私は探し物がてらそれらを流し見してのんびりと歩く。


「フェレス、あの屋台見てもいい?」

「いいよ。というか、別に僕に聞かなくても好きな所行けばいいのに。」


 頭上のフェレスに声をかけ、沢山の組紐が並ぶ屋台の前に行く。

屋台の中には頭が花の形をした組紐になっている怪異が座っていた。

 私は気にせずに色とりどりの組紐を見る。


「つつじ、このひも、前にいつはに貰ったやつだよね?もう一個欲しいの?」


 フェレスの言う通り、私の左手首にはいつはさんから貰った梔子色の組紐が綺麗な結び目を作っている。


「自分用じゃないよ。いつはさんに色々とお世話になってるから、お礼に何か渡そうかと。」


 思ったのだが、いつはさんが欲しがりそうな物が思いつかなかったので自分が貰ったものを送り返そう、という発想に至ったわけだ。


「なるほどね。確かにいつはが欲しそうなもの思いつかないな。」

「ね、丁度いいでしょ。」

「………贈り物か。」


 しわがれた声の方を見ると、先ほどまで座っていた組紐の怪異が立ち上がって私とフェレスの前にいた。

さっきは座っていたので分からなかったが、随分と背が高い。

和服に身を包んだ怪異は、静かに私の返事を待っていた。


「はい。これをくれた人にお礼を、と。」


 そう言って左手も組紐を見せると、怪異は静かに私の手元を覗き込む。

しばらく黙って組紐を見つめた後、無言でいくつかの組紐を並べて見せてくれた。


「……お前さんの色でその紐の礼をしたいのならここら辺が妥当だよ。」


 酷くしわがれた声で言いながら怪異はまた籐椅子(とういす)に座った。

言いたいことは言えたのか、そこからは何も言うつもりはなさそうだ。

 私は見せられた紐を見る。

編み方も長さも全て異なるが、色だけは全て 紫系の色だった。


「フェレス、どれがいいと思う?」

「自分で決めてよ。」

「私こういうの選ぶセンスないんだよ。それに、フェレスなら珍しいとか品質とかわかるでしょ。」


 私の説得に渋々と言った様子ではあったがいくつかのうち一つの組紐を選んでくれた。


「これかな。」

「分かった。これください。」

「……毎度。」


 店主は私が指した組紐を手に取ると、和紙でできた紙袋に入れてくれた。

私達はお礼を言って店を立ち去る。

なかなか良い買い物ができたのでは無いだろうか。


「そろそろシガン達と合流しようか。」

「そうだね。随分と歩いたし、時間が怖い。」


 私はフェレスの指示に従って歩く。

私には今シガンさん達がどこにいるのかなんてさっぱり分からないが、フェレスは気配で分かるらしいのでフェレスの指示に従って歩いていればそのうち会えるはずだ。

 真っ赤な異界を下駄を鳴らして歩くという体験は酷く現実味がない。

周りの景色が目まぐるしく変わっていき、酔う人は酔いそうな程やかましく空間が通り抜けていった。

 そんな中、お面が二つ、通り過ぎようとしている。

思わず立ち止まり、お面の方を見ると、そこらへんに売っていそうなプラスチックの安っぽいお面が二つ。

 一つはコミカルな顔をしたうさぎ、もう一つは特撮ヒーローのお面。

格好はどちらも浴衣だが、うさぎの方のお面をした方のその立ち姿にはどこか既視感があった。

 お面は私が振り向いたことにも気付かず、さっさと歩いていってしまう。


「どうしたの?」

「いや、私達以外にも人間がいるのかなって。」

「別に怪異でもお面してるのはしてるよ?」


 お面二人組が歩いていった方向を見ながらフェレスが言う。

確かにあの二人が人間とは限らない。

限らないが、どことなく懐かしい感じがした。


「もしかして夢?確かにお面がどうとは言ってたけど。お面の特徴は特に言ってなかったと思う。」

「さぁ。私は夢の内容覚えてないから分かんないけど、さっきのはなんか既視感があって……。」

「まぁ、とりあえずシガン達と合流しよう。」

「それもそうだね。」


 とりあえず合流をする事にして、止めた足を再び前に押し出す。

いつの間にか辺りには蒸し暑い空気が充満していた。




「あっ!シガンみっけ!」


 お面を見かけてから十分ほど歩くと、屋台の前にシガンさん達がいるのが見えた。

月乃達と合流していたようで、屋台では月乃が買い物をしている。


「ああ、早かったな。まだ結構時間あんで。」

「あっ!つつじ!見て見て、これ買ったんだぁ。」


 シガンさんと話していると屋台で買い物を終えたらしい月乃が棒を持って走ってきた。

後ろからヒガンさんとあかね達も楽しそうに走ってくる。


「林檎飴?」

「うん!そこの屋台で買ったの。」


 月乃が出てきた屋台を見ると、どうやら最近流行りの果物飴屋だった。

ただ、そこに並ぶ色とりどりの果物飴は見たこともない見た目の物も多く、飴の名前はどれも私の知る物ではない。

 例えば月乃が買った林檎飴(りんごあめ)も、正確には隣護飴(りんごあめ)だ。


「月乃、今食うなよ。」

「分かってるよ!」


 楽しそうに言い合いをしている月乃を見て、私は浴衣の袂に入っているイヤーカフの存在を思い出した。


「月乃、これいる?」

「ん?何それ?」


 月乃に声をかけると、興味を持ったのか私の手の中にある紫の彼岸花を見ている。

最初は不思議そうに首を傾げていたが、すぐにパッと顔を上げた。


「かわいいぃぃ!え!もらっていいの!?」

「良いよ。ただ、これ本当は赤かったんだけど、今変色してて。店の怪異によると長くとも半年くらいで月乃の色に変わるらしいから。」


 一応説明をしたが、イヤーカフに気を取られている月乃には一切聞こえていないようで、お面越しにも分かるほど気に入ったらしい。


「ありがとう!」

「どういたしまして。」


 月乃は早速イヤーカフを耳につけている。

月乃の浴衣や髪飾りには赤が多いが、そこに少し紫が入ったところで違和感はない。

 本人も満足そうだし、大当たりも無駄にはならなかった。


「お前、それどこで見つけてきたんだ?」

「千本引きの景品だよ。それがどうかした?」


 月乃のイヤーカフを見て、あかねが小声で私に聞いてきたので素直に答えた。

するとあかねは一瞬色を変えたかと思えば直ぐに、そうか、と言って会話を打ち切る。

 私は毛玉が言っていた悪食(あくじき)の妖狐を思い出していた。


「なぁー、まだ時間あんならおれ遊んできてええ?」

「好きに行ったらええやろ。お前は時間関係無いんやし。」

「おっしゃいってくるわ!行くで〜!」

「はい?私も行くんですか?」

「当たり前やろ。ほら、早よせんと店じまいや。」


 ヒガンさんの気まぐれに引っ張られ、妖狐の噂が完全に吹っ飛んだ。

私は引っ張られるままにヒガンさんに連れて行かれる。

 連れられるままに五分ほど歩き、休憩所のような、風鈴と籐椅子が大量に並んだ空間に着いた。


「急にどうしたんですか。」


 私は頭に乗ってついてきたフェレスを適当な籐椅子に降ろしながらヒガンさんの顔を見る。

 ヒガンさんはお面をする必要がないのでその顔ははっきりと見えた。


「実家のヤツらが来とる。」

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