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紫アザレアが察するには  作者: こたつ
裏色の夏祭り
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「なんや、重いな。」


 シガンさんが引き上げたのはシガンさんの身長よりも大きい宝石の鉱床。

明らかに千本引きの景品とは思えないそれを、シガンさんは片手で、しかも糸一本で持ち上げている。


「こんなデカイもん持ってかえれへんな。」

「いやいやいや、そこじゃないでしょう、そこもですけど。」

「僕が知ってる人間の身体能力じゃないんだけど。」


 ツッコミどころが多すぎる。

あのフェレスでさえシガンさんの腕力に引いているし、私は私でシガンさんと裏夏祭りの出店に引いていた。


「シガンさんの腕力もですけど、どっからそんな大きいの出てきたんですか。」

「嬢ちゃん、こっちの夏祭りは初めてかい。」


 思わず疑問を口に出すと、黙って成り行きを見守っていた屋台の店主が声をかけてきた。

真っ黒な毛玉の店主は思っていたよりも気の良さそうな調子の掠れ声で疑問に答えてくれた。


「この千本引きはちょいと術を使ってんだ。その糸の先はちょっとした空間に繋がってんのよ。だから糸の先はそこに並んでる景品とまた別の景品があんだ。ちなみにその兄ちゃんの当てたのは当たり枠だぞ。」


 毛玉の表情は分からないが、おそらくサッパリと笑っているのだろう。

シガンさんの方を示すようにピョンピョンと飛び跳ねていた。


「当たりはええんやけど、これ持って帰っても困るな。」

「そんならそこらの客に物々交換してもらいな。それならええもんと交換してもらえるだろ。」

「せやな。そうさせてもらうわ。」


 その会話を聞いていたのであろう周りの怪異達のうち何人(?)かが一斉にシガンさんに群がり始めた。


「うわぁ、シガン大人気。」

「そうだね。」


 一旦シガンさんの方は置いておいて、私達も糸を引く。

流石にシガンと同じ重量の物は持ち上げられないが、大丈夫だろうか。


「軽い。」

「僕の方は重くも軽くもないね。」

「おっ!嬢ちゃん、引きがいいね。」

「いや、何にもついてませんけど……。」


 私が引いた糸の先には何もついていなかった。

フェレスの糸の先には妙な枝がついている。

 フェレスは糸を引っ張りながら不思議そうな仕草をした。


「これ何?」

「それは怨桜(えんおう)の枝だ。最近じゃあ珍しい、現世にはない種の桜。それの亜種だ。」


 フェレスの糸の先についている枝は、桜の物らしい。

ただどことなく不安を煽るどろりとした冥色(めいしょく)の蕾が枝の先を無眼尽くすようについているその枝はひどく不気味だ。

 それを見て、フェレスも誰かと物々交換する事にしたらしい。

まだシガンさんに群がっている怪異達の方に向かっていった。


「嬢ちゃんのは、大当たりだ。」

「大当たり?」

「おうよ。こっちの箱から好きなの選んでくれ。」


 そう言って差し出されたのは煌びやかな宝石や得体の知れないが綺麗な物質が使われた装飾品が整然と並べられた箱だった。

中の景品は簪にヘアピン、耳飾りに首飾りなど、多種多様だがそのどれもに必ず宝石のようなそうでないような謎の石が入っている。


「これは糸に繋がっていないんですね。」

「ああ、急遽景品になったからな。」

「急遽?」

「ああ、これはさっき仕入れたんだ。それに、こいつらは繊細なもんも多い。糸に吊り下げるのは怖いだろ?」


 店主の声に相槌を打ちながらもう一度箱の中を見る。

どれも綺麗だが、私は装飾品なんて一切使わない。

中には扇子や片眼鏡(モノクル)などもあったが、私はどれも使わない。

 せっかくの大当たりだが、特に欲しいものはないので私も物々交換をしようかな。

そんな事を思った矢先、一つの景品が目に入った。

 箱の片隅に隠れるように入っているそれは、真っ赤な彼岸花のイヤーカフ。

真っ赤な彼岸花が耳のラインに沿うようにデザインされているそれは、彼岸花に小さな石がはめ込んであり、うちの学校ならつけて行ってもギリギリ怒られないだろう。

 まぁ、物々交換するよりはいいか。

どこぞのうるさい同居人を思い出しながら私はそのイヤーカフをもらう事にした。


「これで。」

「ん、ああ、それかぁ〜。」


 どことなく苦々しい毛玉を見て、私は緩く首を傾げる。


「何かありましたか?」

「いや、嬢ちゃんに言うのもあれなんだがな、それ、似てんだよ。怪談話に。」

「怪談?」

「ああ、昔、彼岸花が咲き誇るどっかの山に、目が赤い、悪食の狐がいるって話があってな。その話に出てくる彼岸花にはちょうどそれみてぇな宝石が取れたんだと。」

「そうなんですか。」


 目が赤い狐、か。

心当たりがある気がしないでも無いが、とりあえずこれに決めてしまっても大丈夫そうだ。


「これでお願いします。」

「あいよ。じゃあもうそのまま持ってってくれ。」


 まだ少し躊躇っていたようだが、毛玉は箱を差し出してくれた。

私はイヤーカフを取ろうとイヤーカフに触れると、さっきまで赤かった彼岸花が一気に紫に変色した。


「ああ、やっぱりあの話の彼岸花からとれた宝石を使ってんのか。」

「ど、どう言う事ですか?」


 突然の事に驚き、思わず毛玉を見ると、毛玉はなんて事のないように一跳ねして教えてくれた。


「その彼岸花からとれた宝石はな、触れたやつの色によって色が変わるんだよ。この装飾はその宝石を使って作られてんだろ。」


 どうやらそう言う性質のようだ。

話を聞いて驚きは去ったが、紫になってしまったこれは果たして月乃にあげてもいいのだろうか。


「これ、他の人が触ったら色は変わりますか?」

「う〜ん、普通はコロコロ変わるんだがなぁ。これは随分と良いもんだし、完全に色が変わるまでは結構かかるな。」

「どれくらいかかりそうですか。」

「早くて二か月、遅くとも半年かな。その間嬢ちゃんと違う色のやつが触れてれば戻るだろ。」


 二か月から半年か。

後で月乃にいるかどうか聞いてから物々交換をするか決めよう。

毛玉の店主にお礼を言ってシガンさんとフェレスを探す。

 二人は丁度物々交換交換を終えたようで、こちらに戻ってくる所だった。


「なんや、良いもんは当たったか?」

「大当たりだそうです。」

「よかったね、つつじ。」

「二人は何を交換したんです?」


 二人は特に何も持っていなさそう見える。


「俺はこれやな。」


 シガンさんが取り出したのは綺麗な蜻蛉玉のネックレスだった。

蜻蛉玉の中には鈴蘭が生えていて、蜻蛉玉の中には雪が降っているように白い粉がふわふわと落ちてきている。


「これ、普通の蜻蛉玉じゃ無いですよね。」

「ああ、裏の祭りやと基本的に普通のもんは無い。大抵が怪異仕様や。珍しいやろ?」


 色が変わるイヤーカフといい聞いた事のない桜の枝と言い、本当に珍しい。

珍しいがこれを持ち帰ったとして、能力持ち以外の人間には見せない方がいいだろう。


「フェレスは?」

「僕のはシガンにもってもらってるよ。」


 フェレスの言葉にシガンさんを見ると、フェレスの交換したものを見せてくれた。


「指輪?」

「うん。かっこいいでしょ。」


 フェレスが交換した物は真っ黒な指輪だった。

どこまでも暗い色をした指輪は、見ているだけで不安になってくる。


「これ、多分怪異関係の呪物的な物だからあんまり見ない方がいいよ。」

「先言ってよ。ってかなんでそんなもん貰ったの?」

「回収したかったから。」


 とんでも無いもんを交換してきやがった。


「シガンさんはそんなの持ってて大丈夫なんですか。」

「最悪俺が握り潰す。」

「あ、はい。」


 平坦な声でさも当然のように言われるととても怖い。


「つつじは何貰ったの?」

「これ。」


 私は紫に変色したイヤーカフを二人に見せる。


「珍しいな、お前がそういうん選ぶん。」

「元は赤かったので月乃にでもあげようと思ったんですが……。」


 まさか色が変わるとは思っていなかった。

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