城下町の宿屋
船は大きな港の桟橋に接岸し、船から投げられたロープが港の係柱に繋がれた。
最初に船から降りたのはツェーン姫たち一行様で、船の下で待っていた白い馬車に優雅に乗って行った。怪我をした護衛騎士数名の姿も見えた。
トリーは甲板にいるギュウギュウ詰めの人の隙間から、遠くに見えるツェーン姫に見惚れていた。
そんなトリーを見てソルはヤレヤレと呆れていた。
次に船から降りたのは、長旅にくたびれた徴兵された人々だ。
徴兵された者たちは、船の下に待機していた沢山の荷馬車に、宿泊する宿屋別に分けられて、ドンドン詰め込まれた。
ソルはトリーたちと違う馬車に乗せられそうになったが、役人に
「私はこの人のケガを介抱するので一緒にしてください。この人はお姫様を怪海鳥から守りケガをしてお姫様から治癒していただきましたが、その後もお姫様を守るためにたくさんの怪我をしたので介抱しないといけないのです。」
とお願いをした。
役人は「お姫様が」「お姫様が」とソルに言われ、面倒を避けたかったのでソルがウーヌスと一緒に行動することを許可した。
実際、ウーヌスは数多い怪海鳥から船員や侍女を守るために、たくさん怪我をしていた。
徴兵された人々を乗せて、荷馬車は大行列になって石畳みの上をガタガタと小刻みに揺れて走った。
先頭を走る美しい白い馬車にはツェーン姫たちが乗っているので、姫様と同じ道を進めるだけでトリーは嬉しかった。
大きな港からに馬車に揺られて進むと、町はさらに建物が大きく豪華になり、城に近づいている感じがした。
トリーはキョロキョロと馬車の外を眺めていたが、ウーヌスとデュオは目を閉じて馬車に揺られていた。
先頭を走る白い馬車は城門を通り城の中に入って行ったが、トリーたち寄せ集め兵士の乗った荷馬車は城下町の宿屋で止まった。
荷馬車からゾロゾロと降ろされた人々は役人にせき立てられて、それぞれの割り当てられた宿屋に入れられた。
宿屋にも役人がいて、帳簿を見ながら寄せ集め兵士の確認をしていた。
寄せ集め兵士たちの会話が聞こえた。
「こんなにたくさん人が集められたけど、戦争や反乱の噂は聞いたことがないぞ。」
「さっき聞いたんだが、城の周辺には犬猫や鳥のような怪物が出るらしい。」
「乗ってきた船でも海鳥の怪物が出た。怪物を退治するんじゃないか?」
他の町や村の人々も、何の戦いのために徴兵されたのか知らなかった。
役人でさえも知らないようだった。何もわからないから不気味だった。
翌朝、寄せ集めの兵士たちのうち、高齢の者や痩せた者たちが集められて城に入って行った。
ウーヌスは年齢が上の方だが、怪海鳥との戦いで怪我をしたので、治るまで宿屋に待機となった。
待機組は後日城に入る準備として、城からもらえる防具のサイズ合わせや、武具の重さ合わせをした。
そこでも目深に頭に布を巻いたデュオとトリーは役人に変な目で見られたが、大事なのは頭数のようで、深くは追及されなかった。
夕飯を食べた後、ウーヌスは自分の部屋で、人に聞こえないように小さな声で話し始めた。
「お前たちに打ち明けたいことがある。
デュオとトリーが黄金の猫目なのは、、、。
前王様の正妻エル様が黄金の猫目だったからだ。」
ということは?とデュオとトリーは王族の血筋?そんなバカな。
ウーヌスは言葉を続けた。
「エル様の護衛騎士だった俺とエル様の子がデュオだ。
生まれたデュオが殺されそうになったので、俺はデュオをさらって逃げたんだ。
村の人たちは何も事情を聞かず面倒を見てくれた。
40年前に死んでいたかもしれない自分と息子の命、
そうしたら生まれるはずもなかった孫の命は、
こうして村への恩返しとして使うのが天命かもしれない。
こんな勝手な考えは孫のトリーには申し訳ないけど。」
ウーヌスの勝手な考えにデュオとトリーは絶句した。
城に行ったら俺たち3人とも捕まるんじゃないのか?
ウーヌスはソルを見た。
「うちの事情は話したとおりだ。
さて、ここまで来たのだから、ソルが黒魔法で火を使うワケを聞かせてもらえないかな?
王家の方はツェーン様のように白魔法で治癒や防御の魔法を使うが、黒魔法の火を使えるのは貴族ではなかったかな?打ち明けてもらえれば、私たちが今後助けになることもあるだろう。」
ソルは肩をすくめて話し始めた。
「私は孤児で、両親を知らない。たぶんどこかの貴族の落とし子なんでしょうね?
私が女なのに徴兵されたのは、体の弱い孤児仲間が徴兵されそうになったから、ケンカに強い頑丈な私が代わりに来たってわけよ。
でも、城に行けば親のことが何かわかるかなとちょっとは期待したけどね。」