船出とゴロツキたち
翌朝は快晴だった。
港には、他の村や町から徴兵された人たちが大勢集まっていた。
この島から徴兵される人たちは、高齢な人に見えた。
若者は大事な労働力だから、村から出したく無い。徴兵された数だけ人を出したんだから、文句は言わせないということだろう。
城からは徴兵者の条件を何もつけていなかったので、本格的な戦争ではないと思われた。
港には、城からの大きな船を見物に来た人たちも大勢集まっていた。
この港には漁船や商い用の小さな船しかとまらないので、城の大きな船を見るのは初めてなのだ。
船から役人がおりて来て、徴兵された人たちに一列に並ぶように指示を出した。
船に乗せる際、どこの村から何人来たか、役人は帳簿を見ながら数を確認した。
デュオとトリーは身長が高い上に、頭に布を目深に巻いているので目立ったが、「村の徴兵数3人」という数を満たしていたし、変な姿だから村から邪魔にされていたんだろうと役人たちは解釈して、ウーヌスたちを乗船させた。
15のトリーは、大きな船にも、大勢の人にも驚いてキョロキョロしていた。
猫目がバレないように布を目深に頭に巻いているが、いろんなものを見たくて仕方ない。
トリーは、父親のデュオから徴兵の話を聞いた時は事の大きさがわからなかったので、家族3人で旅行に行く気分だった。
旅行代を払うどころか、逆に給料をたくさんもらえるのだ。
トリーは一年後に帰って来る時は、都会でお土産をたくさん買って、母さんや兄姉を喜ばせようと計画を立てていた。
城の船には、さらに遠くの島々から徴兵された人たちが、すでにたくさん乗っていた。
甲板の上から、船に乗ってくる人々を値踏みしながら眺めていた。
先に船に乗っていた連中は、若くて強そうでケンカが好きそうだった。
田舎でくすぶるより、兵士として都会に行って、思う存分に腕試しがしたいんだろう。
目つきの悪いゴロツキも多く、徴兵という名目で厄介払いされたのかもしれなかった。
ケンカの強そうな奴らは、船の上から、この小さな港町から乗船してくる人たちを品定めして鼻で笑っていた。
背が高くて体格の良いウーヌスとデュオを見て「おお」「ほぅ」と少し納得したようだが、若造のトリーを見てまた鼻で笑った。
船に上がると、ケンカをしている声が聞こえた。
1人の女の子に2人の男が絡んでいた。
女の子は色黒で筋肉質で、男2人を倒した。ところがさらに男が4人、ニヤニヤといやらしい笑いをして加わり、女の子1人対男4人のケンカになった。
女の子は怯むことなく次々と倒した。
さらに違う男が2人ケンカに加わろうとした肩を、グッとウーヌスがつかんだ。肩を掴まれた男たちは動けなくなって青ざめた。
役人たちがケンカに気づいて集まってきたので、ケンカしていた男や見物人は散らばって逃げた。
ケンカをしていた女の子はつり目の目をさらに細めて、口を曲げて嫌な笑い方をしていた。
自分は若い女だということで舐められて嫌な思いをしてきただろうに、15のトリーの肩に手を回して話しかけてきた。
「私はソルって言うんだけど、あんたの名前は?年は?」
最初に自ら名乗るから礼儀知らずでは無いようだとトリーは思った。猫目がバレないように下を向きながらトリーは答えた。それで弱虫だと舐められないと良いんだが。
「俺はトリー。15」
答えてすぐ逃げようとしたが、ソルはトリーの肩に回した腕をますます絞めて、グイグイと大きな胸をつけて話しかけてきた。
「あれはあんたの爺さん?強いね。何やってた人?」
「村で木を運んだり、、」
「その前には何やってた人?」
トリーはどんどん下を向いた。猫目が見られると困る。
「行くぞ」とウーヌスがトリーを呼んでくれて、トリーはすぐソルの腕を肩から外した。
ソルはすぐ腕を離した。
ソルはウーヌスが自分より明らかに強いことがわかっていたし、ウーヌスもソルなどどうでも良いが孫の猫目を見つけて騒ぎになったら困るから声をかけただけだ。
ウーヌスはトリーに去られて1人になったソルにも「行くぞ」と声をかけた。
ソルはビックリしたが、女1人をゴロツキの中に置いていかないウーヌスは腕が強いだけじゃなくて本当に心まで強いやつだと確信した。ソルは黙ってウーヌスの後について行った。
「何でお前がついてくるんだよ」という目でトリーがソラを睨んだ。
睨まれたソラはトリーの猫目に気づき、へへっと笑ってまたトリーの肩に腕を回して歩いた。