港町の女房イテルの食堂兼宿屋
森や川を越えてウーヌスたちが港町に着いたのは夜だった。
小さな港町だが、船員たちのために夜遅くまで飲み屋や食堂や宿屋は店を開けていた。
トリーはこの港の夜の賑わいが大好きだ。
いろんな髪の色や肌の色、聞いたこともない外国語、嗅いだことのない匂い、ワクワクすることばかりだ。
デュオの女房イテルは胸も声も大きい陽気な赤毛の美人だ。
イテルの両親から引き継いだ食堂兼宿屋をやっている。
夜に起きていたのは、帳簿をつけていたイテルだけだった。
トリーの兄と姉はもう寝ていた。兄と姉は母親似の赤毛だ。
末っ子のトリーが黄金の猫目で生まれた時、離乳を待って、デュオはトリーを連れて村の親父の家に戻った。
人目を避けるためだ。
夫デュオと息子トリーが、今夜は珍しく義父のウーヌスと3人揃って旅支度をして来たので、この3人が村の徴兵に選ばれたのだとイテルは気づいた。
「お義父さんとアンタはともかく、トリーはまだ15じゃ無いか!トリーはここに置いて行ってもらうよ!」
イテルが怒ったところで3人が徴兵されることはくつがえらないとわかっているのだが、怒らずにはいられなかった。
無口なウーヌスは疲れを理由に自分の泊まる部屋に逃げ、眠くて半分寝ぼけている息子のトリーも自分のベッドに逃げ、怒りまくるイテルの相手は夫のデュオだけだった。
デュオは森や川を抜けてきて、とても疲れているのだが、女房イテルの話に酒を飲みながら付き合った。
徴兵で一年間、お国のために兵隊として働いたら、猫目でも堂々と町に住めること、
兵役で大金をもらえるが戦争の話は聞いたことがないのでどういうことなのか、
2人の話はつきなかった。