村長の40年の憐憫
村長は『40年前にウーヌスが流れ着いた時も騒ぎになったな』と、昔を振り返っていた。
村の住人は先祖代々ここに住んでいて、新しく村人が増えるのは他の村から嫁にくることだけだった。
40年前に、森の中の大きな川岸に、若い男が赤ん坊を抱いて流れ着いたのは、この小さな村にとっては大事件だった。
村人は人命救助のため一丸となり、森の中の川岸から村まで、体格の良い若い男を6人がかりで運んだ。
村の女たちが赤ん坊をきれいな布に包みかえた。
赤ん坊は黄金の猫目で、黒目黒髪しか見たことがない村の女たちは驚いた。
しかし赤ん坊はとても整ったきれいな顔で、村の女たちはみんなトリコになった。
ウーヌスは無口だが働き者で、力仕事や危険な仕事を快く引き受けてくれた。
それに、村の困りごとを解決する知恵と優しさがあったので、村人たちに頼られていた。
ウーヌスは礼儀正しくて教養も高かったので、もしかしたら町人ではなく貴族かもしれないと村人は思った。
赤ん坊だったデュオは、猫目だが整った顔で体格も良く、とにかく陽気で人懐っこい性格で、村の人気者に成長した。
デュオが町の宿屋の娘イテルと結婚して港町に引っ越してしまった時は、村の若い娘たちがガッカリしたものだ。
しかし、町で産まれたデュオの息子が黄金の猫目だった時、デュオは赤ん坊トリーを抱いてこの村に帰って来た。
やっぱり、町では猫目の子は育てにくいだろうからなあ。
村長は、ウーヌス一家がこの村に来てからのことを思い出して涙ぐんだ。
ウーヌスたち3人は村長たちに見送られて村をたった。
村長たちは、いつかはこの3人が村を出て行くと思っていたので、やっぱりこんな日が来たなと思っていた。
そして、また帰ってきてくれたらありがたいと思っていた。
その時は、この村にしっかりと根をおろしてくれるだろうと期待した。
この村はのんびりした村なのだ。
昨日は徴兵のおふれで大騒ぎだったが、今日からまたのんびりした村に戻るのだ。