城の中
城下町で待機していた若者と体格の良い者たちが、いよいよ城の中に呼ばれた。
ウーヌスはケガの治療のため宿屋に残された。
大きな城門をくぐると、トリーはキョロキョロと落ち着きなく、遠くからでもいいからツェーン姫が見えないかとさがしていた。新品の兵士の制服を着た自分を見せたかった。
トリーが船や宿屋で集めた情報によれば、城の中には4人の王族が住んでいる。
前王正妻のエル様と、現王と、現王の子供2人だ。
前王の正妻エル様は60代でご存命だ。
前王は80歳を超えて数年前に亡くなられた。
前王と正妻エル様は年が離れた政略結婚の夫婦で、2人の間には子供はいなかった。
前王の後を継いだのは現王だ。
現王は、前王と第二夫人フィーア様の間に生まれた方だ。
現王の母親である第二夫人フィーア様は、ずいぶん昔に亡くなられた。
現王の長男である次王は、後継者としてふさわしい立派な若者だ。
現王の末娘というのが船の上で会った美しいツェーン姫だ。
ツェーン姫は王家の魔力を強く受け継ぎ、回復魔法と防御魔法が使えるのだそうだ。
そして黄金の猫目は王家だけに受け継がれ、現在、黄金の猫目をもつのは前王正妻エル様だけだ。
俺トリーと父親のデュオが黄金の猫目なのは、バレたらヤバいんじゃないの?と、トリーは不安になった。
徴兵された兵士は、城の中の兵舎の部屋を割り当てられた。
兵舎の割り当てられた部屋の中のものは自由に使って良いとのことだ。
筆記用具や下着など、前にこの部屋を使っていた兵士のものがそのまま残っていた。
今までの城の兵士はどこに行ったのだろう、、、。
徴兵された兵士は訓練所に集められて、班分けされてそれぞれ訓練が始まった。
デュオは船の中で好戦的だった奴らと同じ班に分けられた。
トリーは若者班に分けられた。
船では見かけなかった人たちもいたので、違う地方から徴兵された人たちが合流したのだろう。
訓練所の上のベランダから、現王とその長男の次王と末娘ツェーン姫が訓練を見ていた。
家臣たちが訓練の説明をしているようだった。
トリーはツェーン姫を見つけたので、良いところを見せようと訓練に張り切った。
若者班の監督の1人エジスが、訓練中の黄金の猫目のトリーを見つけて、部下にトリーを自分の部屋に呼ぶように伝えた。
トリーはエジスの部下に連れられて、城の中を初めて歩いた。
エジスの部屋に入ると、人払いがされて、エジスとトリーの2人だけになった。
白髪混じりのエジスは、長年城の中で暮らしてきた人間ならではの上品さがあった。
「君は徴兵でお祖父さんとお父さんと3人で来たんだね?」
トリーはハイと答えた。
「今日訓練の時に見たんだが、お父さんと君は変わった目だね。その理由をお祖父さんから聞かされているかな?」
トリーはハイと答えた。
「お祖父さんから聞いた理由を教えてもらえるかね?」
トリーは黙った。
この人に理由を言っていいのかわからなかった。
「ふむ。理由を知っているが答えられないようだね。おじいさんに口止めされたのかな?」
トリーはいいえと答えた。
「私はあなたのお祖父さんの幼なじみだ。
お祖父さんがお怪我をされて宿屋で療養中と伺って大変心配している。
今からお見舞いに行くので、君も付き合ってくれたまえ。」
この上品なエジス様と、宿屋で寝てる祖父ウーヌスが幼なじみだとは。