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ストライク!~憧れの赤い帽子~

作者: 細川あずみ

 審判の右腕が、肩の高さまで上がる。ピッチャーを人差し指で差す。試合開始だ。シュンは、一瞬たりとも見逃すまいと、画面に釘付けになった。

 次の日に何があろうと関係ない。とにかく野球が好きなシュンは、漫画もアニメもテレビも、そして球場に行ってリアルでも、「目で追う」ことを一日中やっている。いつしか「プロになりたい」と夢を抱くようになっていた。

 しかし、周りの大人達はこう言った。

「耳が聞こえないのに、どうやってやるの?」

 耳が聞こえないからなんだって言うんだ。シュンは、自身がマウンドに立つ姿を描くことができている。だから、その通りになると思っている。


 野球の「アウト!」「セーフ!」などのジェスチャーは、耳が聞こえない選手にも分かるようにと生まれたものらしい。今や当たり前にある野球のジェスチャーやサインは、生まれつき耳が聞こえないメジャーリーグの選手の提案がきっかけだった。「見える言葉」にすれば、選手同士のコミュニケーションもできるし、観客とのコミュニケーションもできる。「聞こえない」ことは、何かを諦める理由にはならないと、シュンは思っている。

 最近のアニメには、字幕が付くようになった。どのキャラクターが何を言っているのかが分かる。大好きな野球のアニメも、楽しめる。スポーツ中継にも、字幕がある。おかげで、ヒーローインタビューで何を話しているかも分かるようになった。

 できないことなんか、何一つない。「できない」と言う人がいて、それを鵜呑みにする人間が存在するだけだ。

 シュンにとって「聞こえない」ことは当たり前だ。15年間、ずっとそうだ。この社会では、聞こえる人が多いというだけであって、それぞれに「当たり前」が違う。それに「常識」というのはマジョリティが押し付けているのであって、時代と共にその「常識」だって変化する。5年後には、今の常識はすっかり非常識になっている。


 初めて地元の球場で試合を観たあの日、シュンは誓った。「俺はここで投げる。そして審判は、ストライクスリーのジェスチャーをする」と。毎日ボールを触り、毎日グローブを撫でた。眠る前にいつも想像した。審判が、右手の拳を挙げる。観客が両腕を挙げて、手をヒラヒラさせる。手話の拍手で、俺を歓迎している。

「あの赤い帽子を被る…!」

 憧れのあの選手と、同じチームで。そして、あのメジャーリーガーのように、絶対に活躍する。シュンは、未来の自分に誓った。

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