表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
1/10

1.中身の腐女子、理想の攻め様になりたい

1.理想




よくある異世界転生。鏡の前に立つ齢10歳程度の少年は、病的に色白く、とても不健康そうだ。

前髪を真ん中で分けたセンターパートの黒髪に、狡猾そうな薄い唇。

白眼がちな双眸は切れ上がるような吊り目で、睫毛が長い。

その下の虹彩は真っ黄色の、…瞳孔かっぴらいた、爬虫類的な瞳をしている。



ーーーまるで蛇。



この姿には、覚えがある。

かつて自分が好きだった、所謂"乙女ゲーム『Princess Rev』の登場キャラクター"だ。




名は、フェリクス・フォン・ルックスナー。



この国の公爵家長男であり、行く末は魔術師団を統べる魔術師のトップであり、王家に影響を与える最強の宰相である。


クールで、知的で、とにかく冷徹とした所作が全て素敵なのだ。それでいて我儘で、感情でも謀をする天才。




ゲーム内では、ヒロインと皇太子を裏から引き摺り落とし、すぐバッドエンドに誘ってくる、生粋の悪役なのである。




キャラクターもシナリオも最高に良いのに、プリレボの評価が3.5とイマイチ振るわないのは、クリア難易度が高すぎるからなのだ。








「…っは、」



動悸がする。


鏡に映るのは、素晴らしい容姿だ。美しい。



手足、指に至るまですらりと長く、痩せすぎていることを無視すれば、さすが乙女ゲームのキャラクターである。


知能も高い。鏡を見ながらも今世の記憶や知識を手繰るためフル回転している。

この頭脳は、前世の自分よりも余程冴えている。つまり超ハイスペックである。







「………」


問題があった。




(…っど





どどどどうしよううううううううう)



それは、私の中身が、

ただの腐女子…だと言うことだ。





(やばいって……っフェリクス様…!?いや、これはフェリクス様だ!!まずい、大変!!!私がフェリクス様なんて……ッ!!!そんな、、、!!)



思わず両頬を押さえる。滑らかな肌は完璧に等しい。しかし鏡に映った乙女がかったポーズには我にかえると、すぐに手を離した。




「ハッ…!!ち、ち、違う」




フェリクス様は。




こんな動きしない。









フェリクスは推しだった。

人生賭けて良いと思えるほど、前世で推し狂っていた。



推しCPのうちの1人で、

最萌えの攻め様は、このフェリクス様である。



私の前世はバリバリの活動腐で、絵描きで、薄い本なども出していた。全てを賭けて推し活していたモブ顔オタク女子(みつあみ瓶底眼鏡女子)なのである。







思い出せ。



「……ッ」


床に膝をつく。

尊さと複雑さで、ふわふわのカーペットを握りしめた。

これは、中身が私如き人材になってしまった怒りである。



狂叫びながら限定グッズを買い漁った日々の記憶。推しへの熱量。



ーーー思い出せ、彼の所作を。

発言を。




フェリクス様の"尊いお顔"で

間抜けな失態など許されない。



ファンとして万死に値する。

この麗人の生き様を、失敗してはいけない。




「…ッ悪役に、ならねば…っ!!」


ダンッと音を響かせて二度ほど床を殴る。


掴んだカーペットを引き千切る勢いで、握り潰し、奥歯を噛み締めた。


彼が負けるシーンはこんな感じだった。こんな感じだ。そう、こんな感じに…声を低く



「悪役に!!徹しなければ!!!!!」



主役たちに殺されず生きるにはどうしたら良いかとか、そういう話もあるが。




彼、フェリクスの孤高たる生き様が美しいのだから、私如きが"それ"を歪めてはならない。そう思う。





さあ、努力が必要だ。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ