ここはどこ?
「君、誰?」
先に、「ここ、どこ?」と聞けばよかったのかもしれないけれど、「雲の間にあるらせん階段」だということは見れば分かったので、あえて訊かなかった。正確には、「どうしてここにいるのだろう」という疑問の方が大きかった。
女の子はオレンジのワンピースを着ていた。もしくは、この光に照らされてそう見えるだけかもしれないと思った。辺り一帯、オレンジの海みたいな色だったからだ。
「レン」
ふとこちらを見上げはしたけれど、無表情で言う。僕はその「レン」がさっきの「誰?」という僕の返事なのだということに、数秒たってから気付いた。「レン」は、その女の子の名前なのだ。
知らない子だ、と改めて思った。そもそも、これくらいの年齢の子に知り合いなんていない。七つ、八つくらいの年の頃だろうか。親戚周りの子でも、もう少し大きい子たちばかりだ。
そんなわずかな会話をしている間にも、僕らは階段を上り続けているのだった。
ああ。
と、僕は思った。
ここは、夢の中なのだ、と。
そう結論付けるや否や、
「違うから」
と、斜め下の方から声がする。
何なんだ。
レン、という子は、冷たい空気の中の、水みたいな声だな、とも思った。