10
紗倉見の西島はほとんど森で覆われている。新暦になって998年になっても半分以上が未踏の地になっている。
地上の調査は終わっているが、地下に何層もの構造物があり、現在でも調査が続けられているのだ。
私と真央はそんな森の中にある構造物の1つを緊急避難所にしている。
先に到着した私は壁により掛かりながら息を整えていた。
まさか、夜々と鉢合わせるとは・・・。
落ち着いてから魔法少女の変身を解いた。手元にステッキだけが残る。
「姉貴、大丈夫?」
真央がやってきた。
急いできたのか息は荒く、汗をかいていた。
「うん。何とかね・・・でも、焦った」
「本当に運が良かった」
真央は私の手に触れた。
呪いにかかってないか見てくれているらしい。
「問題無さそうだ。・・・家に帰ろう。今はそれだけでいい」
いつもはだらしない真央がしっかりしている。何か変な感じだ。
「ありがとう。迷惑掛けたね」
真央は返事をしなかった。
・・・
ここは明け暮れ。桂一郎さんの執務室。さっきからずっと笑い声が響いていた。
声の主はビデオ通話を繋いだ先にいる神楽楸さん。もう五分くらいは笑っていると思う。
政治家としての仕事をしていた大橋桂一郎さんも急いで戻ってきたみたいだ。そして、なぜか夜々さんと海帆さんを除く明け暮れのみんなもいる。
仕事はないのかな?暇なのかな?
私は一人用の椅子に座らされていた。
ここに来てから手錠は外されたけど、ずっとみんなに囲まれている。
「夜々さんは特に異常はないみたいです」
海帆さんが戻ってきた。
異常はないだろう。眠らせただけなのだから・・・。
ようやく落ち着いた楸さんは『まかせた』とだけ言って通信を切った。すごくノリが軽いなぁ。ていうか、何の通信だったのだろう?笑われただけだ。
ため息を吐いてから口を開く。
「あのぅ・・・何とか国外追放とかで手を打ってくれませんかね」
「ダメです」
即答したのは小禄さんだった。
「えぇ・・・」
「すぐそう言うことを言うんだから」
呆れたように首を振る千疋さん。
「まぁまぁ、上が話し合ってるから待ってて。悪いようにはしないと思うから・・・眠らせただけだしね」と、真也さん。
「ありがたいです。もうしません」
「普通の人は一度もしないわよ」と千疋さんに突っ込まれた。
苦い顔をするしかない。
何となくこの後の展開は予想できる。覚悟をしなければならない。
扉を叩く音と「失礼します」と緊張した声がする。聞いたことのない声だ。
ただ小禄さんの反応は違った。嬉しそうな表情で扉を開く。
「おはようございます。早いですね」
扉の向こうには蓬色の髪をした少女。何となく知っている。魔法隊の幹部達が注目している魔法使いだ。
「おはようございます」
姿勢を正してお辞儀をする。
「紹介しますね。茜部蓬生さんです」
「茜部蓬生です。お届け物を配達に来ました」
厳重に封をされた封筒が現れて小禄さんに渡す。
「ありがとうございます」
簡単に封印を解いて中の書類の束が机に置かれる。
「蓬生さんは魔法隊と飛行隊、それと速達も担当しています。とても優秀な新人さんなんですよ」
え?そんなに兼任してるんだ・・・。
「いえ、そんなこと・・・ないです・・・小禄さん、恥ずかしいです」
小禄さんから受け取りのサインが書かれた紙を受け取りながら、恥ずかしそうにしている。
「で、では、失礼します」
「お疲れ様」
ぎこちない動作で扉が閉められた。相当、緊張していたのだろう。
さて、それよりもテーブルの上に置かれた書類だ。私はそれが何かを知っている。
過去に一度、もらったことがあるからだ。
桂一郎さんは老眼鏡をかけてから、それらを手に取る。
「やはりこうなったか。本日より八声舞木は紗倉見の公認魔導師として任命された」
それは公認魔導師の任命証書。それと私の処遇を記した書類だろう。
魔法に関する色んな団体様がこの期を逃すはずがない。
フリーの私に首輪は付けたいのだろう。
「嫌です。やりたくありません」
「諦めた方がいいわよ。すぐにこの制服に袖を通すことになるの」
千疋さんは手元に明け暮れの制服を出した。
きっとサイズはピッタリだろう。千疋さんはそういう奴だ。
「賛成です。それがいいですよ」
なぜか小禄さんもテンションが高い。
真也さんは苦い顔で笑っていた。
もう後は柊しかいない。
ちょうど、目が合った。
「助けて」
「無理だね」
無理そうです。
下手なことして牢獄生活になるよりはマシだけど・・・仕方がないか。手を出してしまったのは事実だし・・・。
「これから楽しくなるかもな」と柊。
本気で言ってるのかな?
「分かりました。期限までですよ。いつまでですか?」
「ん?あぁ・・・書かれてないな」
桂一郎さんに書類を渡された。
明らかに急ごしらえで任命することしか決まってないのだろう。
「まぁ、細かいことはこれからだけれど、よろしくね。舞木」
真也さん握手を求めてきた。
私はそれに答えるしかない。
なぜかみんな拍手をする。
こんな適当な感じで私は公認魔導師になってしまったのだった。
・・・・・
夜になる。
私と真央は昼頃に家に戻ってきた。
真央は戻ってくるなり、部屋に引きこもってしまう。いつも通りだ。・・・かなり迷惑を掛けてしまったな。
明日の準備も終わり、リビングの机で突っ伏していた。後は寝支度をして寝るだけの状態だ。
夜々はあの後に舞木と戦ったらしく、眠らされたらしい。念のために今晩は病院で過ごすと連絡があった。
私のせいでここまでになるなんて・・・。今夜は眠れないかもしれないけれど、目を閉じよう。明日も早い。
椅子から立ち上がる・・・のとほぼ同時に玄関の鍵が開いた音がする。
「真珠?起きてる?」
真也の声だ。嫌な予感がしたけれど、何ごともなかったように振る舞う。
「ど、どうした?珍しいな」
「ちょっと聞き込みをね」
まさか・・・バレた?いや、そんなはずはない。魔法少女になると認識阻害されると真央が言っていた。実の弟でも言われなければ分からない程の強力な呪いらしい。
「変な事件持ち込むなよ」
玄関で顔を合わせる。
靴は脱いでいない。本当に会話だけして帰る気のようだ。
「持ち込まないよ。ねぇ、流行の魔法少女って知ってる?」
「名前だけはね。スピカだっけ?」
「そう。なかなかの魔法使いで魔法隊も必死に探してる。少しでも情報があったら教えて欲しいなぁ・・・なんてね」
真っ直ぐに私の顔を見ていた。
「お客さんのことはよく覚えているけど、見たことないな。お客さんの噂話の世間話で出てくることがあるくらいか」
私自身だからね。
「そう、仕方がない。もし、魔法少女にあったらさ、しばらくは大人しくしてって伝えてくれない?理由は・・・言わなくても分かってると思うからね」
まるで私に言っているみたいだ。いや、そんなはずはない。だって認識阻害が・・・。
「了解。出会ったら伝えといてやるよ」
「よろしくね」
手を振って帰ろうとする真也。
「おい、何しに帰ってきたんだよ」
「言ったでしょ?聞き込みだって。この店に来ていると思ったけど、当てが外れた。無駄足だね」
やれやれと大袈裟に首を振る。
「夜々は明日、戻ってくるから、それもよろしく」
「ああ、分かってるよ」
「じゃあね」
真也は出ていった。
私は床に座り込んだ。
何だか疲れた。真也と話すのにこんなに緊張するなんて・・・私らしくない。
・・・もう正義の味方ごっこは十分に楽しんだ。これ以上、誰かに迷惑を掛けるのは良くない。
私はロッドを封印することに決めた。




