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人気のない森の上を縦横無尽に飛び回る。
心地の良い風。今は冬なのに、こんな風に感じられるのも魔法のお陰だ。
私の名前は神崎真珠。普段は喫茶店パールを経営している。
魔法が使えないわけではないけど、人並みからは程遠い。
魔法使いの資格はある。でも、それは将来のことを考えてくれた試験官が配慮してくれたからだ。オマケ合格ってやつだ。
魔法使いの資格があるかないかで人生が大きく変わってしまう。私が魔法隊に入れたのも、舞木や南君達に出会えたのも・・・。
そして、今は魔法少女でいる間だけ魔導師並みの魔法が使える。
ーーーーー
それはとある日の出来事だった。
私の机の上にロッドが置かれていたのだ。誰かの悪戯だと思ったけど、真央は何も知らなくて困っていた。
真央が触っても何も起きなかったが、私が持って軽く振るうと変身魔法でこの幼女の姿になったのだ。
「魔法少女だ!!」と、真央はテンション高めだったことは覚えている。
不思議なことに魔法少女になっている間は魔法が不自由なく使えた。
真央には私の考えていることが分かったらしく、先にその話をしてくれたのだ。
「姉貴、魔法少女として戦ってみない?」
それがいけないことだというのは分かっている。でも、それは私の夢だった。あいつの顔が浮かぶ。
「・・・ちょっとだけ・・ならいいかな?」
「大丈夫だよ。何かあったら俺が何とかするからさ」
「それ、ちょっと不安なんだけど・・・」
「失礼だな」
でも、やってみることにした。私の望んだ形ではないけれど、あいつが見ている世界を見てみたいから・・・少しでも近づいてみたかったから・・・。
ーーーーー
何も考えずに飛行を楽しんでいると声が聞こえた。
「止まりなさい」
私はこの声をよく知っている。というか、毎日のように聞いている。
止まって声の聞こえた方を見た。そこにいたのは夜々。私達の家で同居している公認魔導師だ。
何でここにいるんだろう?仕事は?
「真央。夜々と鉢合わせちゃったんだけど・・・」
『・・・嘘でしょ』
通信機から驚く真央の声が聞こえる。魔法に詳しくない私は魔法少女でいる間、通信機で困りごとを相談している。
『何とか時間を稼いで・・・どうにかするから』
「どうにかって・・・分かった、早くね」
空中に浮きながら夜々と向き合う。
この姿で話し合うのは何だか変な感じがする。
「何かご用でしょうか?」
「あなた、もしかして魔法少女ですか?」
「そうですよ」
にっこり作り笑い。ちょっと引き気味になっていると思う。
「たしか、魔法使い登録をしていませんよね」
「いえ、もうしてありますよ」
実は真央に偽の人物の設定で作ってもらっていた。・・・偽造だ。良くない。
それに顔写真は明らかに私とかけ離れた幼女の顔だった。抵抗はあったけど、せっかく作ってくれたので文句は言えない。
登録カードを夜々に手渡す。
端末を出して情報を確認しているのだろう。しっかりと仕事をしているみたいで何だか嬉しい。
「変な所はないか・・・返しますね」
「どうも」
カードを受け取る。
これで解放され・・・。
「そう言えば・・・あの・・変身魔法を解除してくれませんか?」と、夜々。
あっ・・・終わった。どうしよう。
「それはちょっと・・急いでいるので・・・」
飛んでどっか行くしかない。
真央、早く何とかしてよ。
飛んで逃げようとするが、相手は夜々。すぐに前に回り込まれる。
どうやってるのかな?それ?
「待ちなさい。何か怪しいことでもあるのですか?」
どうする?変身を解く?でも、正体が私だってバレたらこれから先の生活、どうすればいいのか分からない。
その時だった。私と夜々の間に何者かが入ってきた。
・・・
南君です。
今日は何となく柊と海帆とは別々でパトロールすることにしました。
声かけもしなければなりませんからね。
町外れをのんびりと飛行していると、何やらほうきに乗った集団がどこかを目指しているように飛んでいました。今日はここら辺でイベントがあるとかの報告はありません。
まぁ、悪いことで無くても変なことをする集団はいつの時代も存在します。何ごともないとは思いますが、念のために後を付けることにしました。
・・・
「待たせたね。スピカちゃん」
そう声をかけてくれたのは仲間の魔法少女などではなく、まさかの舞木だった。
何なのだろう?この展開は・・・。
「八声さん?・・・ちょっと、邪魔しないで。何しに来たの?」
本当に何をしに来たんでしょうね。
「夜々さん。私は困っている魔法少女を助けに来たんだ」
「私は仕事が増えて困ってるわよ。早く協力して魔法少女を捕まえましょう?」
「それは出来ない相談だ」
舞木は手に魔導書を持つと無数の式紙を展開した。
これ、やばくない?
それだけでは無かった。遠くから大勢のほうき乗り達がやって来る。
「スピカちゃんがピンチだ」「俺達が守るんだーーー」「うおおおおお」
いつもなぜか現れるファンのみんなだった。
「みんなも来てくれたみたいだね」
「えーと、あのぅ・・あなたも私のファンなんですか?」
「はい。スピカちゃんファンクラブ一桁の会員ですよ」
謎のファンクラブカードを見せられた。
私の知らない所でそんな物があったなんて・・・。
「ここは任せて逃げてください。私なら何時間でも時間稼ぎをしてみせます」
その言葉に反応したのは夜々だった。
「へぇ、言ってくれるじゃない。私もあなたとは一度、戦ってみたかったの」
夜々の周囲に炎が現れて、暴れている。まるで夜々の怒りを表しているかのようだ。
「ちょっとあなた達、何をしているの?」
さらに南君もやって来た。
ややこしくなる前に退散しよう。
普通に飛んでいくだけであっさり逃げられた。
・・・本当に何だったんだろう。まぁ、いい。急いで緊急集合場所に集まらないと・・・。
・・・
スピカちゃんは逃げられたみたいだ。
後は夜々さん。魔法のことは知っている。
世界に命令し、どんな魔法でも発動させることが出来る。たしか、輝銀の女王って名前だったと思う。カッコいい。
「ちょっと止めてよ」
「手を出さないで。これは私と八声さんの戦いだから」
「そんなに焦らなくても、すぐ終わらせてあげるよ」
夜々さんの顔が引きつる。
「そう。なら、やってみなさい」
荒れ狂う炎がムチのように襲いかかってくる。
これ、一般人なら死んでるよ。
結界魔法で攻撃を防ぎながら、式紙を飛ばす。
「その程度の攻撃が当たると思っているの?」
予想通り、炎のムチで焼き落とそうとしてきた。
式紙は簡単に炭になってしまう。でも、それが魔法の発動条件だ。
催眠ガスが夜々さんの周囲に広がった。
「何よ・・・こ・・れ・・・」
吸い込んでしまった夜々さんは気を失った。
杖を出して浮遊魔法でゆっくりと下ろす。
「これで何とかなったな」
千疋さんが険しい顔でこちらに歩いてくる。
なんだろうか?また挑発でもされるのかな?
「何か用?」
「手を出して」
なぜだ?まぁ、いいか。
「はい」
手を出した。
すると南君は手錠をかけた。そして、怒鳴る。
「あなた、馬鹿なんじゃないの?こんあ大勢の前で公認魔導師を攻撃して」
あっ、しまった。そういうことか・・・。
「八声舞木。あなたを連行します」




