8
ついさっきまで夕暮れだったのに、あっという間に真っ暗になった。
星が輝いていて、空の方がよく見えると思う。
今、ここがどこら辺なのかも分からない。
ここは海の上。少し荒れている中を小型船でかっ飛ばしている。
緊急の仕事だとしても、移動方法はもう少し考えてもらいたい。
トレードマークのサングラスをかけている牧田は目的地へ向けて、船を操縦している。私は船内の壁にベッタリくっついて、ひたすらこの仕事が無事に終わることを祈っていた。
「ちょっと、柊はやる気あるの?」
そんな私に話しかけてきたのは夜々だった。
真也と今回の作戦を話している最中だ。でも、私には・・・。
「ごめん。余裕ない」
「え?船酔い?」
心配そうに言われる。
これだけ揺れていたら酔う人は酔うかもしれないけど、海帆が縦横無尽に走らせるほうき程ではない。
「ちゃうわ。こんな暗闇で船をかっ飛ばされて怖いんだよ」
「はっはは。安心しろ。まだ事故ったことはない」
牧田は笑っている。しかも、ちょっと楽しそう。ふざけるな。
「私はか弱いの。みんなと違って浮けないし、守れないし、何かあったら死ぬの」
必死の訴えを真也に鼻で笑われた。どいつもこいつも・・・。
「大丈夫よ。私が守ってあげるから」
「それが不安なの。保証できます?私の命?」
私の必死さに夜々は引いていた。
「もしかして、速い乗り物とか苦手?」
「それも違う。こんな暗闇をサングラスかけた奴が操縦してるんだぞ。怖いだろ」
真也も夜々も困った顔をして、私を見ている。
「・・・牧田さん。後、どのくらいで着きますか?」
「もうすぐだ。明かりも見えてきたぞ」
真也と夜々は顔を上げた。私にはそんな余裕はない。
それとほぼ同時に船のスピードが落ち始める。・・・はぁ、助かった。
まさか、残業でこんなヒドい目にあうとは・・・。
それから少しして、船が完全に止まった。
私はゆっくりと立ち上がる。
真也と夜々は既にいなかった。現場へ向かったようだ。
僕の影魔法で作り出したほうきに二人で乗っています。
いつも僕が走らせて、夜々は横向きで足をバタバタさせていました。
なぜ、僕達が出動しているかと言うと、紗倉見の領海に魔法使いが侵入したからです。
通信で聞いた情報によると、既に飛行隊が侵入者を囲んでいるようでした。
何やら交渉をして、なぜか僕達を待ってくれていると聞きました。・・・なぜでしょう?
今回の侵入者は不死のルードル。十年前くらいから存在する魔法使いで、謎の多い女性です。
「ねぇ、不死のルードルってどんな人なの?」
「あれ?初めてだっけ?」
「ええ」
夜々が公認魔導師になったのは半年くらい前。ある程度の危険人物は覚えてほしいものです。
「簡単に言えば、世界中で殺人やテロを起こしている極悪人だよ」
そう。結構、ヤバい奴です。
「でも、不死って言われるくらいだから手強そうね」
最初はみんな、勘違いします。僕もそうでした。
数多くの戦場を生き抜いてきたとか生存能力が高いとか思ってしまいます。でも、そうではありません。
「不死って呼ばれているのは彼女が何度も死んでいるからなんだよ。僕は五回もルードルを殺している」
「・・・え?」
明らかに困惑している時の声でした。そういう反応になるのも分かります。
彼女は世界中で何千回も殺されているのです。でも、数日後には何ごともなかったようにどこかに現れて、また殺されています。
「今はルードルの拘束をする。それに集中して」
「わ、分かってる」
現場に近づいてきました。飛行隊の方々が適切な距離を保って旋回しているのが見えます。
その真ん中には例の魔法使い、不死のルードルがいました。
「遅い。何をやってたんだ?」
この飛行隊の隊長がこちらに来ます。
塒ヶ森舞先輩。花色の髪の女性です。
「すみません」
呆れた顔をしていましたが、ため息を吐いてさっさとやれと手で合図されました。
「報告通りだ。頼んだぞ」
舞先輩は笛を吹きました。すると、旋回を止めて離れていきます。
僕達はルードルの元へ。
ルードルは海上に浮いてあぐらをかいていました。
私達に気がつくと立ち上がります。
「お前らがこの国の公認魔導師か」
「そうですよ。久し振りですね。ルードルさん」
この間に夜々はほうきを下りて浮遊します。
ルードルさんは目をこらして僕の顔を見ました。
「誰だ?お前は?知らないな」
何度も会っていますが毎回、同じことを言われます。
「・・・まぁ、いい。私は公認魔導師を殺しにきたんだ。どっちが相手をしてくれるんだ?それとも、二人同時にやるか?」
「私が相手になってあげるわ」
夜々が前に出ます。
「いいぜ」
ルードルさんは魔法で海水を持ち上げ始めました。
「任せたよ」
「うん」
海水は細かな針に変化して、夜々に放たれました。
「止まれ」
その一言で攻撃の全てが止まります。
「・・・は?」
呆然としているルードル。
当たり前です。自分の魔法が一瞬で上書きされたのですから・・・。
「水よ。拘束せよ」
向かってきた水は逆にルードルの方へ。威力も精度も夜々の命令の方が上です。
何も反撃できずに水の球に閉じ込められてしまいました。
決着です。本当に一瞬の出来事でした。
「真也」
夜々からの合図。
影魔法で杖を作ります。そして、呪いをかけました。 目を覚まさせなくする呪いです。
飛行部隊は念のため、周辺の見回りをするらしいです。
舞先輩と共に牧田さんの待つ船へ下りました。
「まったく・・・時間かけさせやがって」
「ありがとうございました。これでルードルさんの記憶が読み取れます」
そう。今回はルードルさんの情報を得るために拘束したのです。
「あっ、終わりましたか?」
なぜか敬語の柊。さっきよりは顔色が良くなった気がします。まぁ、どんな状況でも仕事はしてもらうのですが・・・。
「うん。何とかね」
影の中から眠っているルードルを出現させました。
「さて、やりますかね」
柊はおでこに触れました。
数秒後に「・・・あれ?」と柊は首を傾げます。
「どうしたの?」
柊は顔を上げました。
「・・・死んでない?」
「・・・え?」
僕を含めて、全員が同じ反応をしていました。
「そんなはずは・・・」
近づいて確かめます。
・・・たしかに死んでいるようです。
一体、なぜ?どのタイミングで?全く分かりません。
夜々もミスはなかったし・・・呪いをかけたから死んだのでしょうか?いや、そんなはずは・・・。
「前もだけど、今回も中身がないみたいだな」
肩を落とす柊。
「こんな目に遭ってまで来たのに・・・」
今回も失敗です。
静かな時間が少し続きます。
最初に口を開いたのは舞先輩でした。
「次回からは飛行隊で処理をする。いいな?」
今回はルードルが待ってくれていました。しかし、毎回そうなるとは 限りません。
命を預かる立場として、素早く処理したいのです。時間が経てば、それだけ危険な状況が続くことになります。
「はい。ただ、また何か策を思いついた時は・・・」
舞先輩は嫌そうな顔をしています。
苦笑いして誤魔化すしか出来ません。
その時、通信魔法が来たみたいで、先輩は外方を向きました。
「・・・そうか。船に集合してくれ」
そう言って、通信魔法を切りました。
「ここまでだな。死体の処理は頼んだぞ」
数十秒で飛行隊が集合しました。
この部隊は精鋭揃いで一番、厳しい飛行部隊です。そして、唯一の女性だけで編成されている飛行部隊でもあります。
舞さんは固有魔法のほうきに乗り、「じゃあな」と言い残して行ってしまいました。
それに部隊の面々が綺麗な列で、その後を付いていきます。
「おお、あれが噂の魔法使いか」
牧田さんは見上げています。
月と綺麗な星明かりで少し離れても目視できます。
「噂の魔法使い?」
「あぁ、茜部蓬生。ワイフが塒ヶ森と取り合っている新人だ。次の魔導師試験を受けるみたいだな」
茜部蓬生。たしか、小禄と同じ速達の子です。小禄も勧誘していたような気が・・・。そこまで注目される魔法使いなら気になりますよね。公認魔導師にスカウトとか・・・。
「諦めろ。ライバルが多すぎる」
牧田さんはそう言いながら、神札を死体に使っていました。
死体処理が難しい、魔法が得意ではない人向けの魔法道具です。
基本的に魔法隊で管理されていますが、あまりにも便利なので一定以上の権力を持っている人はいくつか持っています。まぁ、僕も・・・何枚かは・・・。
変身魔法で神札と死体を鳥の式紙化して、自動で森や海に飛んでいき、少しずつ世界に帰していく魔法です。変身魔法中に死体を無害化して環境への配慮もしてあるとか・・・。世界中で使われている最高傑作の魔法札と言ってもいいでしょう。
鳥が遠くへ飛んでいくのを見送ってから「さて、帰ろうか」と牧田さんが言いました。
それを聞いて柊は絶望的な顔をします。
「そっか。あれをもう一回・・・」
膝から崩れ落ちました。
柊にはもう少し耐えてもらいましょう。
ここ最近のエピソードは後に書こうと思ってフワッとしていたり、新しく書いたものです。時間がかかりました。第二章。まだまだ書かなければならないことがいっぱいあります。頑張ります。




