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『大丈夫だよ。君は決して舞台装置ではない。私が救ってあげるからね』
ーーー数ヶ月前ーーー
ここはとある国の田舎にある小さな酒場。
真っ昼間からいい歳のおっさん達が馬鹿騒ぎをしている。
この人達は仕事がないのだろうか?と思いながら観察をしていた。
店の端で一緒にフライドポテトをつまみながら人を待っている。
待ち合わせ場所はもっと良い場所があっただろうに・・・。
私達、双子は息を合わせたかのように同じタイミングでため息を吐いた。
一体、何の話なのだろう。彼女は私達よりも知り合いは多いと思ったけど、わざわざ私達と会いたいなんて何かあるとしか思えない。・・・変なことには巻き込まれたくない。
扉が開いた。
緑色の大きなとんがり帽子とローブ。
あの頃と変わらない服装で少しだけ安心した。
背中には彼女の背よりも大きい棺を背負っている。
彼女が入ると騒いでいたおっさん達の声がピタリと止まった。
彼女の異様さに気付いて黙ってしまったのだろう。
歩き始める。ただ、それだけなのにみんな、顔を隠すようにうつむいていた。得体の知れない恐怖がそうさせているのだ。
それに気がついた彼女は辺りを見渡し、店主を見つけると声をかける。
「マスター。ビールを大ジョッキで2つ。それと・・・」
札束を店主に投げる。
「この金でここの奴らに酒を飲ませてくれ。私の奢りだ」
それに一人の男が「いいのか?姉ちゃん」と驚きの顔をして聞いている。
「うん。楽しく飲んでいるのを邪魔して悪かったね。礼はいいから、さっきみたいに盛り上がっててくれ」
ウォーーーと雄叫びを上げ、おっさん達は再び盛り上がる。
そんな中をこちらへ歩いてきた。
「久し振りだね。サナラ、ラナサ」
彼女の名前はティエマン・ラールデフル。私達と同じ公認魔導師をしていた仲間だ。
若草色の髪をしている女性で、今はボサボサになって片目が隠れている。
「久し振り」「元気そうで何より」
ティエマンは机の横に大きな棺を置いて、私達の向かいの席に座る。
「それはお互いにね。本当によくあの戦いを乗り越えられたと思うよ」
ティエマンはママルル大陸がアンノウンに侵攻されたことを言ってるんだと思う。
本当に酷い戦いだった。
まだどのくらいの人が犠牲になったかはっきりした数字は出ていない。少なくとも数千万人は犠牲になったと言われている。
「それにしても」「大きな棺だね」
私達は棺を見上げる。
ただの棺ではないだろう。こんな物、表には出回らない。
「そうでしょ。高かったからね」
そこに店員さんがやってきて、ビールを机に置く。
「お姉さん。あれだけお金もらって悪いけど、これどうにかならないの?」
軽く棺を揺らす。
「あまり触らない方がいいよ。今、封印してあるから解けたら大変なことになちゃうかも」
店員さんは驚いてサッと手を離す。
「そんな危ない物を持ち込まないでくれよ」
「まぁまぁ、そんなに長居しないから。見逃してよ」
少なくない紙幣をマスターに見えないように渡す。
「うぅ・・・仕方ないなぁ」
そうして、私達から離れてた。顔はニヤけているようだ。
ティエマンはまず一つ目のグラスを一気に空にした。
「プハーーー体に染み渡るね」
私達がドン引きした目で見ていると「そんな顔しないでよ」と笑っていた。
「最近はお酒ばかり飲んでるんだ。冷静になるときっと発狂しちゃうからね」
彼女に何があったのか私達は知っている。
「セリのことは聞いてるよ」「ティエマン、大変だったね」
セリはティエマンとペアを組んでいた魔導師だ。
幼少期から一緒にいて、とても仲が良かった。でも、セリがある魔導書を読んでからまるで別人のようになってしまったらしい。
疑問に思ったティエマンはその魔導書を読んだ。でも、それが見つかってしまい重傷を負わされてしまった。
髪で隠している方の目には義眼が入っている。潰されてしまったのだ。
その出来事の後、セリは姿を消した。
ティエマンも後を追うように病院からいなくなった。だから、こうして連絡してくれたのは嬉しかったりする。元気な姿を見られるだけで私達は良かったのだ。
「ありがとうね。心配してくれて嬉しいよ」
そう言いつつ私達のポテトを勝手に食べた。
まぁ、今回は大目に見よう。
「ティエマンは」「何を考えてるの?」
一体、何を考えているのか全く分からない。
私達を呼んだってことは何かしらあるんだろう。
「そうだね。二人には伝えておかないと・・・誰にも言わないでね」
「約束は」「守る」
顔を近づけた。そして、小声で話した。
「紗倉見で大規模なテロを起こそうと思ってる」
私達は言葉が出なかった。
それがセリのことと何の関係があるのだろう?
それに私達を呼び出したってことはつまり・・・
「私達に」「テロの」「「手伝いをしろってこと?」」
馬鹿げている。そんなことをして何になるのだろうか?もちろん、私達は断るつもりだ。
「違うよ。これは私とセリの問題だ。私達が解決しないといけない」
セリの読んだ魔導書には何が書かれていたのだろう?ティエマンの起こそうとしているテロと何の関係があるのだろう?
「じゃあ、二人へのお願いを伝えるよ」
指をクイクイさせている。耳を貸せってことだ。
今度は耳を近づける。
ティエマンがささやく。
私達は驚いてティエマンを見る。
力のない優しい顔をしていた。
「それは出来ない」「他の方法を考えるべき」
「ごめんね。でも、もう時間がないんだよ」
ティエマンは目を閉じた。
「今、二人に呪いをかけた」
突然の発言に私達は顔を見合わせる。
嘘だ。私達はお互いのことを常に共有できる。呪いをかけられたら、その異変に気がつかないわけがない。
「「嘘つき」」
「噓じゃないよ」
椅子の背もたれによりかかる。
「呪いって魔法でかけるだけじゃないんだ。魔法の使えない昔の時代から存在する。人に心がある限り呪いはなくならない。私の言葉を聞いた時点で優しい君達は呪いにかかったんだ」
「そんなことはない」「絶対にやらないから」
「それでいいよ。今は・・・ね?」
もう一つのグラスを飲み干す。
それから数秒間、ジッと私達を見つめる。
「頼んだよ。私はもう帰るから・・・」
席を立って、大きな棺を背負う。
「「ティエマン」」
「何?」
「またみんなで」「ご飯を食べに行こう」
ティエマンは笑みをこぼした。
「うん。約束だ」
そう言って店から出ていった。
それがティエマンとの最後の会話だった。
・・・・・
結論を言うとティエマンは失敗した。
ここは人が来ることがなさそうな海岸沿いの崖の上。私達はそこに木で作った十字架を立てた。
昔は何かの宗教で使われていた物らしい。今は死者へ祈りを捧げる目印になっている。
私達は死体を回収して、処理をしてから海へ帰した。
海風が寂しさを帯びているように感じる。生暖かい風だ。
彼女はテロを起こすことが出来なかった。その前のテスト段階で彼女の野望は潰えたのだ。
死んだ後、魂や心はどうなってしまうのか、どこへ行くのか分かっていない。
魔法がこんなに発展していても未だに解明されていないことは無数にある。
ある宗教の考え方を使わせてもらうなら、ティエマンは次の旅に出かけたんだと思う。
・・・でも、その旅は一人で歩むものじゃない。
結局、私達はティエマンに呪われていたのだろう。彼女の思い通りに動かされている。
私達はその十字架に彼女の旅を願って黙祷を捧げた。
「もう少し待っててね」「それまでまたね」
十字架の元にマズいと評判の酒を供えた。
それでも飲んで反省しろという意味を込めて・・・。
今回の件でティエマンのことが嫌いになりそうだ。
私達が人一倍、お別れが嫌いなことを知っている癖に、こんな辛い役目を押し付けるなんて・・・。
私達は歩き出した。
ティエマンのお願いを叶えるために・・・。
特にありません。二日前に更新したので書くことがありません。もっと引き出しの多い人間になりたいです。




