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クムパプユアネ_World:M  作者: 浮巣つぬ
紗倉見
43/49

3

 冷たい風が吹いている。

 ここは魔法省の屋上。あの後、すぐにここに来た。

 また南君と喧嘩になっても嫌だったし・・・。

「賑やかだね。明け暮れって」

 私達は温かいコーヒー缶を片手に景色を眺めている。

「あんな騒がしいのは稀かな。いつもは昼寝が出来るくらい平和な職場だよ」

 舞木はコーヒーを飲み干して設置されているゴミ箱に投げ入れる。

 浮遊魔法を使っているので百発百中だ。

「じゃあ、帰ろっかな。また喧嘩になってもね」

「うん・・・あっ・・・」

 その時だった。私は天才的なことを思いついたのだ。

「絶対に碌でもないこと思いついたでしょ」

「ねぇ、舞木。お願いがあるんだ」

 上目づかいでお願いする。

 ダルそうに端末で時間を確認した。

「少しだけだよ。何をすればいいの?」

「ついてきて」

 私は舞木の手を引いた。


 柊に手を引かれて連れてこられたのは明け暮れの事務所だった。

 公認魔導師でも事務仕事はあるらしい。

 事件が起こるまで一日中、待機してろ。とはならないみたいだ。

「ここ、入っていいの?」

「いいのいいいの」

 柊の机の上には山のように書類が積み重なっていた。

 他の机を見るとここまで積み上がってない。きっとサボってたんだろう。

「手伝って。お願い」

 可愛らしくお願いされた。

「部外者に内部情報を扱わせたらダメでしょう」

「でも、魔法隊にいた時とそんなに変わらないよ。公認魔導師(わたしたち)がやらなきゃいけないのはやるから」

「当たり前だろ」

 まぁ、柊のお願いなら少しくらいやってもいいか。

 魔導書を出した。

 魔法隊時代に使っていた式紙への命令を使えば・・・。書類仕事が面倒すぎて組み上げた術式だ。たぶん、それが使える。

「昼前までね」

「ありがたやありがたや」

 私を拝んでいる。

 早速、式紙が仕分けた書類がやってきた。

 見たことあるヤツだ。

 魔法隊と公認魔導師、その他諸々の許可を取るタイプの書類。

 これが結構、多い。余程のことがなければ、そのまま判を押して次に送る。

 端末などを使ってネット上でやり取りすることは少ない。もちろん、ネット上で重要度の低いやり取りは多く行われている。

 あらゆる魔法がある世の中。一定以上の重要度があるやり取りはデジタルではなく、アナログでやり取りされるのだ。

 新暦が始まってここまでデジタル関連の事件は多く起こってきた。一番、有名なのは新暦200年代にとある国で起こった乗っ取り事件。

 何者かによってデジタル管理していた魔術機巧が一斉に暴れ出したのだ。

 詳しいことは隠蔽されたのかほとんど分かっていない。その国はこの事件でなくなっている。

「私はどうしましょうか?」

「すぐに書類が上がるから確認して。後、私が触れられないのを分けてあるから、そっちもやってね」

「了解です」

 こんな姿を見られたらどうなるか分かったもんじゃない。どうか、誰も来ませんように・・・。

 そう思ったすぐ後に真也さんが入ってきた。

 宙を舞って書類を仕分けしたり、必要事項を記入したりする式紙達。そして、柊の席で仕事をする私。

 真也さんは呆れたようにその光景を見ていた。

「こ、これは違うんだ。私が見張ってるから・・・委託・・・そう、委託だよ」

 ふざけたこと言っている。ふざけたことをしているのは私もそうだけど・・・。

「ふーん・・・なるほどね・・・」

 真也さんは悪い顔をした。そして、手に抱えるくらいの書類の束を出す。

「ついでに手伝って」

 ・・・そうなりますか。これは拒否は出来ない。

「まぁ、手伝うだけなら・・・」

「やった」と真也さん。

 これ、外にバレたら大変なことになるよね。悪い人達ばかりだ。




 お昼が過ぎた頃に喫茶店パールへ行く。

 舞木のお陰で溜まっていた書類達とはおさらば出来た。また、少しの間サボれるだろう。

 事務仕事が終わるとすぐに帰ってしまった。午後からは神札の仕事があるから仕方ない。時間があったらお昼くらい奢ってあげたのに・・・。

「おはようございます」

 店の前で声をかけられた。声が聞こえた方を見る。

 そこにいたのは焦茶色(こげちゃいろ)の髪をした女の子。

 喜屋武(きゃん)小禄(おろく)

 色んな仕事を掛け持ちしている明け暮れで一番忙しい公認魔導師だ。

「おはよう。まさか、こんな時間に鉢合わせるなんてね」

「そうですね。今日は速達の仕事が多くて時間がかかりました。魔法使いの子も魔導師試験でいなくて・・・」

「もうそんな時期なんだよね」

 私は受けたことのない魔導師認定試験。

 試験内容もよく知らない。

 南君と海帆はその打ち合わせがあるらしく、今日は別行動をしている。

「・・・寒いし中に入ろう」

「そうですね」

 扉を開けると、いつものベルの音と共に温かい空気が肌を流れた。

「あぁ、あったけー」

「いらっしゃいませ。・・・あれ?柊と小禄。珍しいわね」

 そこにいたのはエプロンで三角巾をしている夜々だった。

 彼女は夜々(よるよ)夜々(やや)

 綺麗な銀髪の女の子。私達と同じ明け暮れの魔導師をしている。

 今日は髪を後ろで結んでいる。

「おはようございます。偶然、表で鉢合わせたんです」

「そうなんだ」

 私達の声を聞いてキッチンから茶色の髪をした女性が出てきた。

 神崎(かんざき)真珠(しんじゅ)

 夜々とおそろいのエプロンと三角巾をしている。

「二人ともいらっしゃい」

「こんにちは。今日は・・・」

 小禄が注文しようとする。しかし、夜々は止める。

「今日は私が注文を取るから」

「そうなんですか?分かりました」

 夜々はたまに店のお手伝いをしている。色んなことが学びたいらしい。

「こっちよ」

 夜々に案内されるのは何だか変な気分だった。

 店は忙しい時間帯を過ぎていて、のんびり過したい老夫婦やサボりの魔法隊が数名いるくらいだった。

 案内されたのは奥の席。私達がいつも使っている見えにくい場所だ。

 何となく見えにくいこの場所をみんな選んでいる。ちなみに真也は真珠と話すからカウンター席をよく使う。

「先客がいるから相席ね」

 ・・・こんなに空いているのに何で?

 答えはすぐに分かった。

 小禄の顔が真顔になっていく。

 その席にはパフェの空容器がいくつも並んでいた。

 そして、今はイチゴパフェを食べている。

 濡羽色(ぬればいろ)の髪をした女の子に見える神様、葉月(はづき)だった。

「何をしているんですか?」

 威圧感のあるトーンの低い声だった。夜々も何で?と驚いた表情で小禄を見ている。

「・・・お、小禄?なぜ、ここに・・・」

 この時間にはいないと思っていたんだろう。

「食べ過ぎです。それに出来るだけ食事は一緒にすると約束しましたよね?」

「いや、それは・・・今日は帰ってこないんだと思って・・・」

「その時はいつも連絡してますよね?」

 気まずい空気。それを夜々が手を叩いて変えてくれた。

「早く座って。他にお客さんもいるし、私も早く注文を取りたいから」

「はい。ごめんなさい」

 小禄は他のお客さんの方を向いてペコペコ謝って葉月の隣に座る。私は反対側に座った。

「私はグラタンで・・・葉月さんはどうしますか?」

「まだ頼んでいいのか?」

「後、一つだけです・・・私も悪い部分もありました。これで仲直りしましょう」

「なら、ちょこれーとぱふぇとわらび餅を・・・」

 なぜ2つ頼むんだ?

「まぁ、いいでしょう」

「ありがたやありがたや」

 さっきの私みたいなことをしている。・・・どっちが神様だよ。

「柊はハンバーグでいいよね」

「ちょっと待ってよ。私はいつものだよ」

 何じゃそりゃって顔をしている。

「いつものって何?初めて聞いたんだけど・・・」

「やれやれ、そんなことも知らないのか?」

「別に興味無い」

「私、お客さん。もてなす。オッケー?」

 顔が引きつっていて、面倒くさそうに見える。失礼な奴だな。

「じゃあ、早く教えて」

 そう言われたので手で耳を貸すようにジェスチャーする。

 耳を寄せる夜々。

「ハンバーグだよ」

 優しくささやいた。

「・・・ダル」

 客に使う言葉ではない。

 注文を確認して、真珠に伝えにいく。

 しばらくして、戻ってきた。

 エプロン姿ではなく、普段着姿になっている。

 私の横に座った。

「仕事は終わったんですか?」と小禄。

「うん。今日は忙しい時間帯だけ。一緒に食べましょう」

「夜々は何を食べるの?」

 私の言葉に「ふん」とわざとらしく顔をそらす。

「ゴメンよー。機嫌直して」

 体を揺さぶる。

「あーもう、分かった。もうしないでね」

「たぶんね」

 軽く小突かれた。

「今日はエビフライ定食ね」

「エビフライ?メニューにあったっけ?」

「たまにあるわよ。良い海老が入った時だけね。期間限定の張り紙を見なかったの?」

「ハンバーグのことしか考えてなかった」

「エビフライ・・・美味そうじゃなぁ」と葉月。まだ食べる気なのか?

 小禄は呆れた顔で見ていた。

「そういえば、小禄がこの時間に来るのは珍しいわね。何かトラブルでもあったの?」

「もうそろそろ魔導師試験なので人手不足なんですよ」

 顔をしかめる夜々。

「そんなのがあるのね」

「夜々さんは国に認められて魔導師になったんでしたね」

「そうらしい。よく分かってないけど・・・」

「私もそうだよ」

 小禄が苦い顔をする。

「大変なんですよ。魔導師試験。何回も落ちる人だっているのに・・・」

 そんな小禄は一回で合格している。

 話だけは聞いたことがある。試験会場が悲惨なことになっていたと・・・。

「最終試験には海帆も協力するんでしょ。見に行こうかな」

「・・・行かない方がいいですよ」

「何で?」

「たぶん、印象が変わるから・・・」

 その時、ゴロゴロと配膳カートの音がした。

「お待たせ」

 真珠が美味しそうな香りと共にやって来る。

 それぞれの料理を置いていく。

「もう魔導師試験の時期なんだね。魔法隊のお客さんが少ないわけだ」

「え?潰れるの?」

 冗談で言った。

 夜々はハッとして真珠の顔を見る。

「潰れないよ。ある程度は稼いでるからね」

 私が明け暮れに出勤している時はよく来ているけど、人がいないことは滅多にない。誰かしらいる。色んな人達に愛されているお店だ。

 料理が美味しいのはもちろんだけど、やっぱり人柄かな?

「温かい内に召し上がれ」

 配膳が終わるとすぐに戻っていった。

 肉好きの私が一番美味しい時間帯を逃すわけがない。

 私は早速、ハンバーグに食らいついた。




 私と小禄は食事を終えてから明け暮れへ戻る。

 夜々は家でゆっくりと過すと言っていた。

 葉月は気がつくといなくなっていた。また後で怒られそうだ。

 待機室では真也がまた即席麺を食べていた。

「お疲れ」

「おはようございます」

「またそれかよ」

 そう言いながら、私はソファーへダイブ。

 お腹いっぱいなので少し仮眠をしようかと思って横になった。

「柊さん。まだ事務仕事が残ってましたよね。私も手伝うのでやってしまいましょう」

 事務仕事には郵送物の封印が必要になる物もある。

 魔法が使えない私は当然、そんなことは出来ない。海帆や小禄にそのような部分を手伝ってもらっている。そして、速達の仕事をしている小禄は催促してくる。

「ふふふ、何ともう終わっているのだよ」

「珍しいですね。明日は雨かもしれません。どうしたんですか?」

 とても驚いていた。・・・何か失礼じゃない。

「今日、舞木が報酬を取りに来てね。ついでにやってもらったんだ」

「・・・へ?」

 一瞬で部屋の空気が変わってしまう。あれ?間違えたのか?人の心を読んで適切な言葉をあげられる私が?

 小禄は見たことのない絶望的な表情をしていた。

 そう言えば、一緒に仕事がしたいって強く思ってたんだっけ・・・。

「・・・私、速達止めます」

 そして、床を見つめてブツブツ何かを言っている。

 真也と目が合う。

 どうしようと顔の動きで訴えた。しかし、知らん。と首を振られる。

 この後、私と真也は何時間も説得することになったのだった。

 だいぶ前に書いた第二章の設定表が消えて探しています。

 頭の中にあるのを並べただけなので頑張って思い出せばいいのですが、忘れているのもあるかもしれません。

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