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「千疋さん。さっさとそのお金を渡してくれないかな?」
「嫌よ。欲しかったら、その契約書にサインしなさい」
舞木は千疋南君と言い争っていた。
ここは魔法省。
魔法大臣の大橋桂一郎さんの執務室だ。
本人は朝から東島で仕事があるのでいない。
朝の会議の後に乗り込んで今に至る。
千疋南君。
色素の抜けた髪。それが膝うらまで伸びていて、そこで内側に曲がっている。
黄緑色の瞳で可愛らしい顔立ちをしている女性だ。
分厚い封筒を手に持ち、欲しければ明け暮れに入れと脅している。
「はぁ、ふざけるな。訴えるよ?」
「やれるものならやってみなさい。そんな訴えの一つや二つ、公認魔導師として潰すことも簡単なのよ」
外では話せないような会話をしている。
私はその様子を眺めながらお茶を飲んでいた。
「二人も飽きないよね」
そう言うのは夕月真也。
暗黒色髪で中性的な顔立ちの男性だ。
明け暮れのリーダーと言ってもいいだろう。だいたいのことは真也に任されている。
「まぁまぁ、若いってことでいいじゃない」
今日は珍しい人がいる。
明け暮れの特別顧問、頴娃壺川さん。
白髪で背の低い老婆。
髪を頭の上で結んでおでこを大きく出している。
この三人で茶菓子をつまみながら、お茶をしているだ。
「そう言えば、壺川さんはなぜここに?」
いつもは魔法研究所にいるし、噂だと入院中じゃなかったかな?
「今日は検査の日でね。数値が悪いと落ち込むじゃない。針を刺されるのも好きじゃないし逃げてきたの」
・・・何を言ってんだ?この年寄り。
「つまり観測するまで確定しないってことですね」
言い争い中の舞木が会話に入ってきた。
「ん?よく分からないけど、そういうことかも。私は今、健康状態なのよ」
出た。舞木のよく分からん理論。壺川さんも乗っからなくていいのに・・・。
「うふふ。それにしても、このお茶は美味しいわね」
壺川さんは上品にお茶を飲んでいる。
茶菓子を食す姿も綺麗だった。これで戦うのが大好きな人とは思えない。
「そうですね。もらい物らしいですよ」と、真也。
そう、これは桂一郎さんの隠し棚にある茶葉とお菓子だ。
小腹が空いた時に勝手にいただいている。
「議員様の食べる物はすごく美味しいか、よく分からない価値が付いてるものだかりだよな」
「それは昔から変わらないわね」
壺川さんはお茶をすする。
「何だか懐かしいわ。貧乏な時代はお菓子に釣られて仕事をしていたのよ」
また、ウフフと笑う。
それは本当にお菓子に釣られただけなのかな?ただ戦いたかっただけなのでは?
また、喧嘩をしている二人を見る。
「ペンを持ってサインをする。オッケー?」
「ノー。さっさと報酬をよこせ」
まだまだ続きそうだ。
出動要請がなければ、今日はあれを見るだけで終わるかもしれない。
壺川さんがお茶を飲み干し、立ち上がる。
「さて、私はこれで失礼しましょう。もう少しで追っ手が来るでしょうから」
「・・・はぁ、お疲れ様です」
「お疲れです」
壺川さんは壁の方まで歩くと舞木を見る。
「八声舞木さん」
壺川さんの呼びかけに2人は喧嘩を一度、止める。
「はい。何ですか?」
「今回はいいから考えるだけでもしてみてね。危ない仕事も多いけど楽しいわよ」
それを聞いてここにいるみんなが思っただろう。心を覗かなくても分かる。
あなたは戦うのが楽しかっただけなのでは?と・・・。
「そ、そうですかね?」
「そうよ。返事は気長に待ってるわね」
そして、壺川さんは固有魔法で金棒を出した。
壺川さんの固有魔法はいい感じの得物を作る魔法。
身体能力の強化魔法とこの固有魔法だけで多くの魔導師を葬ってきた怖い魔導師なのだ。
壁に向かって軽く一振り。執務室の壁はぶち破られる。
外の冷たい空気が入ってきて、身震いした。
「さようなら。また来るわね。後、真也はこれを直しておいて」
「え?何で僕なん・・・」
真也が言い終える前に飛び降りてしまった。
ここは建物の十階なんだけど・・・。
「・・・海帆を呼んできますね」
海帆は壊れた物を修繕する魔法を習っていたことがあるらしい。業者が来るまで応急処置をするのだろう。
「その前にその封筒を渡してもらおうか。明け暮れの特別顧問の決定だよ」
「・・・くっ」
とても悔しそうな顔で手渡す。
「どうも」
煽るように封筒を振る。
「何かありました?」
異変に気づいて海帆が入ってきた。
「ちょうど良かった。これの修繕というか応急処置をお願いしていい?」
真也の指差す方を見て、顔が引きつっていた。
でも、無茶振りに応じられるのが海帆。
ほうきで下に落ちた瓦礫を確認して、それを浮遊魔法で持ち上げてきた。
「下に人がいなくて良かったですね。真也さん、処理をお願いします」
「もう魔法隊には連絡してあるよ」
海帆も明け暮れに染まってきたな。
いきなりこんなことが起こったなんてニュースになったら大変だし、色々とするのだ。
杖を振ると、見た目は元通りになる。
よく分からないけど、このままではダメらしい。
修繕業者を呼ぶことになる。
「取りあえず、応急処置はこのくらいでいいですか?」
「うん。助かったよ」
息を吐く真也。
・・・その時だ。扉が勢いよく開いた。
「壺川。ここにいるのか?」
大声で部屋に入ってきた小柄でおかっぱ頭のお婆さん。紫水晶色の髪、まろ眉で着物を着ている。
頴娃妙典。
魔法研究所の最高責任者。そして、この国で一番の権力を持つと言われる人だ。
政治関連の裏話では必ず名前が出るくらい色んな噂がある。
「あっ、どうも失礼します」
続いて、ペコペコしながら風車紅華が部屋に入ってきた。
鴇鼠色の髪をした結婚結婚ばかり言っている女性だ。
私も含めてみんな、妙典さんに挨拶をする。偉い人だからね。
「うむ。おはよう」
返事をしてから部屋を見渡す。
「壺川はどこじゃ?」
「壺川さんならさっき逃げていきましたよ」
「あの馬鹿、とことん迷惑をかけよる。紅華」
「はい」
名前を呼ばれてビシッと姿勢を正す。
「早く追うぞ」
「はい。では、屋上に・・・」
「面倒じゃ。壁をぶち抜け」
この年代の辞書には壁は破壊するものだと書かれているんだろうか?
そんなことしていいの?みたいな目でこちらを見る紅華。
「早よせい」
「はい」
ぶち壊すのは嫌だったのか壁をねじ曲げて穴を開けた。
「真也。お主が直しておけ」と妙典さん
「・・・えぇ」
そう言ってから、紅華が跨がるほうきに横向きに乗る。
「いきますよ」
紅華はハンドサインで、ごめん。と合図してから飛んでいった。
「あの・・・海帆さん・・・」
「・・・分かってます」
また海帆が直す。
何だか変な空気になる。
「じゃあ、みんな。仕事を始めよっか」
真也が手を叩く。
「舞木もありがとうね」
「はい。もう関わりませんけど」
ムッとする南君。
また言い争いが始まる前に舞木の手を引いて部屋を出る。
・・・何か朝からドッと疲れた。
結局、1月中に手直しが終わりませんでした。




