2 八声舞木
逆井柊と暮らし始めて二年くらいになる。
最初は不安だったけどなんとかなるものだ。初めて会った時は暗くて大人しくて、家にいる時はずっとベッドでうずくまっている。そんな女の子だった。
今では一緒に買い物に行ったり、麻雀したり、明け暮れのメンバーと仲良く・・・仲良く?うん。仲良くだね。一員として活躍している。
私の名前は八声舞木。
魔導師だけど、どこにも属していない。フリーの魔導師ってやつだ。
今は神札シリーズという商品を売って生計を立てている。・・・あとは何かあるかな?柊は赤茶色の髪の毛が好きって言ってたな。まぁ、それくらい。
そんな私はお酒を飲みながらテレビを見ていた。年越しから特にやることもなくダラダラ過ごしている。
世の中の人達は今ごろ何をしてるんだろう?
同居人は今頃、麻雀三昧なんだろうな。・・・充実してるなぁ。
なんか寂しくなってきた。もう寝よう。
テレビの電源を切った。
その時、玄関のベルが鳴った。
こんな深夜に誰だろう。不審者・・・とかではないと思うけど、警戒はすべきだ。
玄関へ近付く。ドアの前まで来ると声がした。
「舞木ー。起きてる?」
それは柊の声だった。
あれ?早いな。
疑問に思いつつ、玄関の扉を開ける。
外には寒さでブルブル震えている相棒がいた。
「お帰り。風呂はまだ温かいと思う」
「ただいま。ありがてー」
家に上がると素早くバスルームへ入っていった。
心配はしてないけど、きっと何かあったんだろう。
脱衣所から扉をノックして声をかける。
「早いね。どうしたの?」
「急にアンノウンが現れてね。退治したら体が冷えて麻雀って気分じゃなくなったから帰ってきた」
年明け早々運が悪い。
でも、見た感じ怪我とかもなさそうだし、良かった良かった。
「今日はどうする?」
「酒臭いから寝る」
・・・そんなにかな?まぁいいか。やることないし、私も寝よ。
ーーー
柊がお風呂から出てきた。
どうやら、アンノウンが現れて出動したらしい。
「災難だったね」
「ホントだよ。南君がお酒飲んじゃってさ。私と海帆で行ったんだ」
「そう・・・ところで気分はどう?」
「だいぶ良くなった。明日は飲むなよ」
はいはいと適当に返事をしておいた。
ーーー
目が覚めた。
どのくらい寝たかな?昼は過ぎてる気がする。
背伸びをした。布団の中にいる柊がいる。酒臭いとか言ってたのに潜り込んできたのか。寒かったのかな?足を絡ませ、体も密着していた。
手探りで端末を探し、時間を確認する。
午後四時。・・・マジか。ダメ人間だ。
柊も起こそうとしたけど、返事もなく寝息を立てる。そんなに長く、よう寝られるな。
やならければならない家事もあるし、私は起きることにした。
ーーー
柊が起きてきたのはそれから三時間後。
夕飯の支度をしている時だった。
支度と言っても年末にもらったお惣菜とか蕎麦とかそんなに手間のかからない品ばかりだけど。
柊は起きるとすぐにソファーで端末ポチポチしていた。
それから少しして玄関のベルが鳴る。
誰だろう?ご近所さんかな?
「はいはい」
扉を開けると、見慣れた二人がいた。
海帆さん・・・ともう一人。
千疋南君。海帆さんの師匠で私につきまとうストーカーだ。
・・・
舞木がすぐに戻ってきた。そして、玄関のベルが何度もうるさく鳴らされる。
こんなことをするのは一人しかいない。
「不審者だった。適当にあしらっといて」
舞木も少しイラついているのもその証拠だ。
あいつはマジでなにやってんだよ。
玄関の扉を開ける。予想は当たった。
「・・・何?」
きっと私は呆れた顔をしているだろう。
「あなた達、来客に失礼すぎない」
南君はプンプン怒っていた。
千疋南君は私と同じ明け暮れの公認魔導師。
可愛らしい顔立ちに黄緑色の瞳。そして、色素の抜けた長い白い髪が特徴的だ。
南君は腕を組んで私を睨む。
その後ろからヒョコッと海帆が顔を出す。
「声かけだよ」
「ああ・・・そうですか」
急に二人の顔を見られなくなり、視線をそらす。
声かけは明け暮れや魔法隊の魔導師なんかがフリーの魔導師に定期的に挨拶や世間話をする仕事だ。
これをするだけで魔導師の犯罪行為が減るらしい。私は本当か疑っているけど・・・。
私としては引退した魔導師のおじさんおばさんにお菓子を貰えたりするので嫌な仕事ではない。
「あれれ?サボってる人はいませんよね」
南君は顔を覗き込んでくる。
私はドアを閉めた。
フリーの魔導師はここにもいる。舞木だ。
私がいるから別に来なくてもいいと思うけど、なぜか南君は声かけを理由によく遊びに来る。
海帆もいるので中に入れた。南君が一人だったら追い返していたと思う。
私は南君の前で正座して反省の言葉を繰り返していた。立場的には同じなのに・・・。
「本当に明日からちゃんとやる?」
腰に手を当てて疑いの眼差しを向けられる。
「やります。だから、チクらないで」
ばれるといろいろ面倒なのだ。反省文とかお説教とか・・・。
「本当かな?」
私は何度もうなずく。南君は大きなため息をつく。
「よろしい。見逃してあげましょう」
「ありがとうございます」
大袈裟に頭を下げる。
「私は手伝わないよ」
キッチンから舞木の声がした。
「なんでぇ・・・」
「部外者だから」
南君がいるからなのか少しツンツンしてる。あとでもう一度お願いするしかなさそうだ。
海帆は手伝いをしていて、そちらには優しく声をかける。この差はなんなんだろ。
問題を起こしそうな奴がキッチンを覗く。
「一声あれば、いつでも関係者になれるわよ」
舞木の顔は見えないけど、恐ろしい表情をしているのはなんとなく分かった。
・・・・・
大きい湯船に向かい合って入る。寒さもあり、お湯はまるでとろけるような温かさだった。
「あったけー」
「そうだね」
いつもならフワッと今日の出来事を思い返すけど、思い返すほど活動してない。強いて言うなら、千疋さんと海帆さんくらいか。
二人は夕食後すぐに帰ってしまった。
たまーーーにそんな時がある。本当に顔を見に来ただけなのかもしれない。わざわざこんな外れの外れまで来ることはないのに・・・。
「本当に何しに来たんだろうね」
急に柊が口を開く。
考え事が見られた。足が触れているからそこから見たんだろう。
「見るな」
「え?今さら?」
「ドキッとするから体に悪い」
だいぶ慣れたけど、柊の体質にはビックリすることがある。
心を読まれるのはちょっと変な感じだ。
かなり自分の意識で抑えられるようになったみたいだけど、触れると見たくなくても流れ込んでくるらしい。
「ごめん」
柊はシュンとしてしまった。・・・よくなかったか。
「いいよ。嫌じゃないし。慣れないだけ」
その言葉を聞いて、柊はニヤッと笑う。
「分かってる。全部見えてるから」
それを言われて顔が熱くなる。いや、きっと風呂に入ってるからに違いない。
読まれないように足を離す。こういう時は大人の対応をすべきだ。悪い大人の対応をね。
わざとらしく咳払いをする。
「明日からちゃんと声掛けしなよ」
「あ、話をそらした」
無視して続ける。
「やっぱりお仕事はきちんと・・・」
「うりゃ」
柊が覆い被さってくる。さらに、首に腕を回し、抱きついてくる。
「こうすれば何考えても無駄だ」
「はーなーせー」
いつもは非力なのにこういう時は無駄に力が強い。
「満更でもなさそうだけど?」
「黙れ。離れろ」
なんとか引き離す。
柊は面白そうに笑っている。
「今日は眠くなるまでゲームやろうよ」
柊は記憶も見ることが出来る。
きっとちょっと前に寝過ぎて寝れないだろなぁ。とか思ってたのを見たんだろう。本当に何から何まで見てきやがる。
「分かった。ただし、声かけはちゃんとにすること。私も挨拶したいし、手伝うからさ」
「了解。先にあがるね」
「うん、もう少し入ってる。準備しといて」
「オッケー」
きっと今日は徹夜だろうな。
でも、せっかくの休みだし、明日のことはいいや。
今は二人でのんびりとした時間を満喫することにしよう。
一話と三話の間に布団に潜り込む的な話入れたいなぁと思って書き始め、2.5話でいいかなと思ってました。
気付いたら一緒に風呂入っててあれ?ってなりました。