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ゲームをしていると理不尽な倒され方をする場合がある。
それはこの世界でも同じだ。敵味方関係なく、その世界でのルールに対応出来なかった者は死んでいく。
今、目の前に巨大なチェスの駒が現れて、塔莎帝に気を取られていた海帆は気づくのが遅れた。
このままでは押し潰されて、奈落へ落ちることになるだろう。
私がやるしかない。
終世界で駒を破壊する。でも、それは同時に絨毯も消すことになる。
消した後に海帆が対応出来るか分からない。
いつもなら問題はないけど、この状況ではどうだろうか?
想定外の事態に止まってしまっている。頭の中ではあれこれと考えを巡らせているんだと思う。
でも、もう時間がない。
「終せ・・・」
その時だった。
絨毯に真央が転がり込んできた。
海帆は強ばった表情でこちらを向く。
「有ったり無かったり」
それは真央のもう1つの固有魔法。
チェスの駒は私達に当た・・・らなかった。
一定の範囲内にあるモノの有無を切り替える魔法。
駒の中を通り過ぎる。実際にはあるんだけど、なかったことにしてやり過ごす。真央はすり抜け魔法と呼んでいる。
何とか危機は回避できた。
新しい世界では他にも将棋の駒やおはじき、麻雀の牌も空から落ちてきている。どれも馬鹿みたいな大きさで私達を殺しにきている。
「あ、ああ、あの・・・すみませんでした」
海帆は汗をかいていた。
嫌なほど体が熱くなって、心臓がドクドクしているだろう。
「気にするな。よくあることだから」と真央。
「お前の魔法で死にかけたんだけど・・・」
それは言わないでと目で言われた。
「今は集中して反省は後でしよう」
「・・・う、うん」
海帆はまた絨毯の操作を始める。
大丈夫かな?とまた触ろうとしたが、真央に止められた。
うなずいて、塔莎帝を見る。
巨大な球体が塔を失って落ちてきていた。
ピエロのような模様が見えるくらいにまで迫っている。
この様子なら私が出る幕はなさそう。
このまま落ちれば世界の藻屑となる。
私達の勝ちだ。
・・・しかし、そうはならなかった。
離れた場所にいた舞木に合流しました。
「ご苦労様」
ボトルのお水をくれました。
「ありがとう」
それを飲みながら、辺りを見渡します。
また世界が書き換わったみたいでした。私も詳しくは分かっていませんが、何かが引き金になって世界が書き換わるのです。
常に変化する戦場で戦うのはストレスになります。
改良されるのであれば、せめてそのストレスを減らしてもらいたいものです。まぁ、そんなことはないでしょうが・・・。
地面のない世界。それに色んな駒が落ちてきています。
海帆達は大丈夫でしょうか?
「このまま勝てるのかな?」
舞木はつぶやきました。
「さぁね。でも、これで終わるなら助かるわね」
私も塔莎帝の方を見ます。
あれだけの大きさの物体が落ちているのです。ものすごい風が私達に吹き付けます。
そんな風も世界によって作り出された駒などには影響はないみたいです。あれは何なのでしょうね。
塔莎帝がもう少しで私達と同じ高さになろうとしていた時、急に淡く輝き始めました。
「うまくはいかないか」
舞木は魔導書を出して式紙を出し始めました。
落下スピードはドンドン遅くなって、同じくらいの位置で止まります。
私達と塔莎帝の距離は1キロくらい。
まるで私達のことを認識しているみたいです。
突然、悪寒が走ります。
明らかに異様な空気。そして、異常な魔力を感じました。
この体験をするのは初めてですが、何なのかは分かります。
この世の物とは思えない異変。
『インドラの矢』
クレダモスの剣を過去の物にした魔法。
国1つを消滅させたと記録のある魔法です。
もし、発動したら残っている世界が全て蒸発してしまうでしょう。
逃げ場のない場所では私の完全回避でも逃げ切ることは出来ません。
ここまでです。後、数十秒後にはこの世界は終わってしまいます。
塔莎帝は自滅するつもりなのでしょうか?それとも、ねじ曲げはそれすらも曲げてしまうのでしょうか?
早く柊に世界を壊してもらわないと・・・。
「南君」
私を呼ぶ声。
下の名前で呼ばれるのは久し振りで驚いて止まってしまいました。そんな状況ではないのに・・・。
式紙が今までにないくらい張り付いて、変身魔法で天女のような衣装になりました。
「あれを破壊しよう。その後に私があれにとどめを刺す。・・・任せたよ、南君」
私の返事を待たずに繋ぎ門でどこかへ行ってしまいました。
私と塔莎帝のちょうど真ん中くらいに目に見えるほどの不気味な魔力が集まっています。まるでブラックホールのような黒い球体です。
残された時間は後、数秒でしょうか?
・・・温かい。
舞木の魔法を感じながら、晩華焔をギュッと握りしめます。
これがこの戦い、私の最後の一撃になるでしょう。
『晩華焔、第九解放」』
いつもならこんな無茶はしなかったでしょう。
死ぬかもしれないと怯えていたでしょう。
ただ、目の前の脅威を退ける。それだけに集中して魔法を使えたのは間違えなく、舞木のお陰です。
舞木はあの時からずっと私を前へ進めさせてくれます。
・・・本当にズルい女です。
一瞬、ピカッと光る。
次の瞬間にはインドラの矢は消滅し、ねじ曲がった空間ごと本体の四分の一くらいを焼き払った。
耳が裂けるか心配になるくらいの悲鳴のような音が聞こえる。塔莎帝から発せられた音だ。
「やったのか?」と真央。
「まだだよ」
現れたのは舞木だった。
いきなりだったので真央は驚いて絨毯に倒れた。
「ビックリした。どうやったの?」
「元々、この絨毯は式紙で作られているからそれと手元の式紙を繋いだんだよ。まぁ、それはどうでもよくて・・・」
絨毯から式紙が一枚、飛び出てきた。
「海帆さん。南君を迎えに行ってくれない?今、繋ぐから」
海帆は落ち込んだ表情で下を向く。
「・・・私が行ってもいいんでしょうか?まだ何も出来ていませんし・・・」
こういう時に触らせてくれれば、いい感じの言葉をあげられるのに・・・。
舞木は海帆の様子とかから察したみたいだ。
「人間はいっぱい失敗するよ。私も千疋さんもいっぱいした。ペアっていうのは失敗しても互いに助け合ったり、一緒に乗り越えていく存在だよ」
門を開く。人が一人通れるくらいの大きさだ。
「今、南君は魔力切れを起こしているかもしれない。支えられるのはペアである海帆さんだけだ。頼んだよ。海帆さん」
海帆は顔を上げた。
「はい」
まだ本調子ではなさそうだけど、大丈夫だと思えるくらいにはなった。
海帆は門の向こう側へ行って、すぐに門は閉じられた。
「じゃあ、さっさと真央は降りて」
「え?対応が違いすぎじゃないですか?」
「絨毯を使うの。時間がないから早くして」
のっそりと起き上がる真央。
「早くしろ」
「へぇーい」
やる気なさそうに言いながら、ほうきで離れていった。
離れたのを確認してからこっちを見る。
「さて、始めようか。座標はもう置いてある」
「うん。一緒に落ちよう」
絨毯が式紙に戻っていき、私達の周囲を球状に動き回る。
そして、私と舞木の間にある一枚の式紙が輝き始め、次の瞬間には球状の式紙ごと塔莎帝の遥か上空へ。
私達は両手を繋いで体全体に風を受けながら落ちていく。
互いに見つめ合う。
『堕落ていく』『終世界』
私達の周囲にいた式紙が球状のまま巨大な結界になって広がる。
私の終世界の力を持った結界だ。
私達はフワッとした感覚に包まれてゆっくりと落ちていく。
この異変に気づいた塔莎帝は球体から巨大な腕を何本も生やして、私達を叩き潰そうとする。
当然、そんな攻撃は結界に触れると消え去ってしまう。
結界はどんどん広がっていき、やがて塔莎帝の本体よりも大きくなった。
ねじ曲がる空間を無効化し、本体に結界が触れる。
塔莎帝は光となって消えていく。
私達は眩しいくらいの光に包まれた。
海帆が迎えに来てくれたお陰で助かりました。
あのままだったら、奈落へ落ちていたでしょう。もう天衣無縫を使える魔力もありません。
激しい眠気に襲われます。
ほうきの上で海帆に寄りかかりながら、何とか意識を保っている状態でした。
体に異常はなさそうです。
私もみんなもよく戦ったと思います。
海帆の声が聞こえました。
「南君さん。あれは何でしょう?」
頑張って顔を上げます。
塔莎帝とそれを超える大きさの結界。そして、小さく見える光に包まれる二人。あれは・・・。
「混成魔法。でも・・・」
心を混ぜて魔法と成る。それが混成魔法。
心を混ぜ合わせることで二人の限界を超える魔法を発動させることが出来ます。
でも、柊は魔法を否定する体質です。あれは一体、何なのでしょうか?
鐘の音が聞こえます。
決着の合図です。
空間が歪んで元の世界へ戻っていきます。
私は光り輝く二人を見ながら、ゆっくりとまぶたを閉じました。
後日談って程でもない一話を数日中に投稿して第一章は終わりとなります。
その後は手直しを1ヵ月くらいのんびりやりながら、少しずつ第二章を書いていくつもりです。




