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ー五日目ー
仕掛けが発動しない限り風の一つも吹かないこの世界。
今日でこの世界ともお別れになるでしょう。
私は海帆の操作する絨毯の上から塔莎帝の広がる最終地点を眺めていました。
自分の目で見るとやはり迫力が違います。
これほど巨大なアンノウンは見たことがありません。
今からこれと戦うのです。
戦いが終わった時にどうなっているのか全く予想が出来ません。なるべく、嫌なことは考えたくありませんが、最悪の結果が脳裏にチラつきます。
「改めて見るとヤベーな、これ。よくこんなのを作ろうと思ったよな」
真央は呆れたように空を眺めていました。
その先には塔莎帝の本体がいます。
小さく見えますが数百メートルの大きさの球体です。あの太い塔よりもさらに大きいと記述があります。
そんな本体を守る空間のねじ曲げはどのくらいの規模の魔法なのでしょう。
・・・考えたくもありません。
絨毯には私と海帆、それに真央が乗っています。
舞木と柊は後で合流することになっていました。
端末で時間を確認します。
「始めましょう。二人とも覚悟はいい?」
「はい」
「いつでも」
真央はほうきを出しました。
二人の反応を見て私はうなずきます。
そして、固有魔法の羽衣をまといました。
「天衣無縫」
黄金の羽衣です。
能力は浮遊と完全回避。後、呪いとかも防いでくれます。
そして、舞木に渡された神札を使いました。
数十枚の紙が私の体に目立たないように張り付きます。
兵器としての魔法を使う時に生まれる悪い魔力を吸収してくれるらしいです。
口では色々と言っても私のことを少しは考えてくれているみたいで、それがちょっぴり嬉しかったりします。
「じゃあ、先に行くよ」
真央はほうきに乗り、飛んでいってしまいました。
彼なら何が起きても大丈夫でしょう。基本的には逃げながら海帆のフォローに入ってもらうことになっています。真央がやられたら、この世界もなくなってしまいますからね。
「さて、私も・・・」
私も行こうとした時、海帆が声をかけてきました。
「南君さん。私、頑張りますね」
私は海帆を見ます。
一番怖いのは海帆でしょう。
公認魔導師レベルの魔法使いと言っても本番の経験はまだまだ少ないのです。
死がすぐ側にある戦場。でも、海帆なら大丈夫だと思います。
頭をなでてあげました。少しでも緊張が和らげばいいと思ってなでました。
「ええ、一緒に帰りましょう。約束よ」
「はい」
海帆の嬉しそうな顔を見て、その後に絨毯から飛び降りました。
本体のいる最終地点から円上に広がる約1キロ。地面に敷き詰められたトンネルや触手は塔莎帝の領域なのでしょう。
予想通り、そこの前までは何も動きはありませんでした。
剣を出して振りかぶります。
「晩華焔、第五解放」
魔力を集めて、振り下ろします。
消失魔法と同等の炎が埋め尽くされているトンネルや触手を消し去り、一気に塔まで到達します。そのまま塔の根元部分も消し飛ばして反対側に抜けていきました。
大きな音を立てて、塔が下に落ちます。塔全体からしたら、ほんの少しですが・・・。
塔莎帝はすぐに触手が伸びて再生を始めます。そして、映像で見たのと同じようにたくさんの腕が生えてきました。
渡された神札は全て焼け落ちてしまいます。でも、私には何の影響もありません。
続行です。
ここからは囮になって時間稼ぎになります。
私は塔莎帝の防御領域の中に入りました。
同時に雨のように貫通魔法が私に降り注ぎます。1つ1つがとても太くて、魔法使いの使う大きさとは比べものになりません。
私の羽衣、天衣無縫の完全回避がなければ、すぐに木っ端微塵になるでしょう。
完全回避はどんな絶望的な状況でも生き残るルートがあるなら、強制的にそのルートへ導かれるのです。
今は進みたい方向へ進めています。この状況でも前に進めているということはこの攻撃は問題ないということです。
それでも、油断は出来ません。
剣で触手を消し飛ばしながら、少しずつ前へ進むことにしました。
私と柊は最終地点から10キロくらい離れた場所にいた。
遠くで大きな音が聞こえる。
戦闘が始まったみたいだ。
「こっちも始めよう」
「うん」
魔導書に魔力を込めて、運鳥で最終地点を中心にして円上に配置した式紙に信号を送った。
「式紙式・多点、円の境」
昨日、南君がやっていたみたいに座標を繋いで大規模な結界を張った。
この結界はただの境目。目印みたいなものだ。
私と柊は最終地点を内側とすると外側に移動した。
お互いに手を強く握っている。
柊は大きく息を吐いた。
「終世界」
唱えると同時に世界にひびが入り、それが一気に広がって破片になって消えていく。
すぐに内側に戻った。
結界の内側には影響はない。成功だ。
外側を見る。
数秒しか経っていないのに何もない空間になっていた。
巻き込まれてたら死んでいたかもしれない。
でも、これで結界の外側のトンネルや塊は破壊できたはずだ。
「始まるぞ」
柊が言ったのとほぼ同時に空気が変わった。
「楽しみだ」
それを聞いて柊に呆れたような顔をさせる。
「楽しみなのは舞木と真央だけだよ」
「そうかな?」
世界が歪み、書き換えが始まった。
世界が書き換わっていきます。
ここから無限回廊玩具箱による本当の遊戯が始まるのです。
世界は一気に暗くなり、湿った空気になりました。
規則的に空高くまで高い柱が立っていて、なぜか淡く光っています。
状況は最悪です。
魔法使いは探知系の魔法を使ったりしますが、やはり一番の頼りは五感。特に視力です。
障害物があって薄暗い。とても戦いにくい環境になりました。
貫通魔法が柱を破壊して、瓦礫が降ってきます。
本当に最悪です。
これでは戦えません。
反撃もしながら後退することにしました。
この世界の嫌いな部分が全て詰まっています。
最終地点まで後、10キロ程度。
徐々に世界は狭まっていきます。
どのくらいの時間が残っているでしょうか?
私と舞木は迎えに来てくれた海帆の絨毯に乗る。
全く落ち着ける状況ではないが、座り込んで息を吐いた。
「うまくいったみたいだね」と海帆。
「そうだね」
そう言ってから私は書き換わった世界を見渡した。
こんな場合でなければ、いい感じの遺跡みたいな雰囲気だ。舞木はこういうの好きそう。
「出発しますよ」と海帆。
貫通魔法が届かない距離とはいえ、とどまらない方がいいだろう。
「待って。ここからは別行動にしよう」
舞木はそう言ってほうきを出す。
まぁ、そう言うだろうなとは思っていた。きっと止めても行くだろう。
「別にいいけど、死んだら許さないからね」
「大丈夫だよ。柊は心配性なんだから」
なぜか頭をなでられる。
そして、ほうきに乗り、飛んでいってしまった。
「良かったの?」
「・・・良くない」
海帆は絨毯の周りに結界を張る。
「海帆はどう?緊張してる?」
「・・・当たり前でしょう」
前を向いた隙に触ってみた。
ムッとこちらを見る。
緊張はしているが、心はしっかりしていた。
こんな経験は初めてなのに・・・流石と言うしかない。
「最低だと思うよ」
「その様子なら大丈夫そうだね。安全運転でお願いね」
海帆はため息を吐いてから絨毯を進ませた。
領域から出て、塔莎帝を眺めています。
この訳の分からない世界でどう攻めてやろうか考えていました。
「千疋さん」
舞木の声がしました。
安全を確認してからそちらを向きます。
ほうきに乗ってきたようです。
「お疲れ」
「本当に疲れた。無茶ばかりさせて・・・」
私の横に来ました。
望遠魔法で眺めています。
「もう少しだけ下げたいね」
「でも、映像で見た通りこの先に進むと貫通魔法の雨よ」
「塔の根元まで行ければいいんだよね」
「そうね」
少し悩んで私を見ました。
「プランEの5番。覚えてる?」
顔が引きつります。
「ええ。でも、プランEはどれもやりたくないけどね」
私達がペアを組んでいた時の作戦です。
「それでいこう」
「・・・時間もないし、仕方ないか」
でも、何だか少し嬉しいです。あの頃みたいで・・・。
私の体に式紙が張り付きました。さっきのと同じ効果のやつでしょうか?
「もう一回、お願い。最初は自分に影響の出ない範囲で」
「分かった。任せて」
舞木が離れたのを確認してから剣を構えます。
「晩華焔、第三解放」
私に影響が出ない範囲での最高火力です。
第五解放よりは威力がだいぶ落ちてしまいますが、道を切り開くには十分な威力でした。
塔の新しい根元も半分くらい削りました。
そして、私の後ろには何枚もの式紙。
プランEの5番。
それは私の羽衣を利用して砲弾のように飛ばす作戦です。
勢いよく突入する時や奇襲をする時に使うために考えました。
まさか、ここで使うとは・・・。
「いくよ」
かけ声と共に爆発。羽衣の回避能力で勢いよく前方へ・・・。
貫通魔法が放たれる隙もないくらい一瞬で根元まで飛ばされました。
結界魔法で衝突を防いだからいいものを何もなかったら潰されていたでしょう。
まぁ、その結果も羽衣で回避することになったと思いますが・・・。
すぐに元に戻ろうと触手が伸びてきています。
私がいることはお構いなしのようです。このままでは閉じ込められることになるでしょう。
急がないとこの塔の一部になってしまうかもしれません。
でも、完全回避が発動しませんでした。つまり、これからやることで脱出できるということです。
私は大きく深呼吸を一回して気合いを入れます。
補助がなければどうなっているか分からない領域です。
触手が壁を塞いで真っ暗になりました。
晩華焔を抱えます。
「晩華焔、第七解放」
炎があふれて塔とトンネルの内部に巡らせます。
ヒビが入って炎が漏れ出ているかもしれません。
・・・女性の声が聞こえます。笑い声のようでした。
この声は兵器の元になった人物の声だと推測されています。
完全回避が発動し、溶けていく塔の隙間から強引に引っ張り出されました。
見上げると塔は粉々に砕け散り、光となって消えていきます。そして、本体が落ちてきているようです。
これでも、無傷なのでしょうか?
世界が再び書き換わり始めました。
これが戦場。これが公認魔導師の戦い。
いくつもの試練を与えられて、どれも難なくこなしてきました。
でも、私に与えられたどんな試練よりも絶望的な状況でたった二人で戦っているのです。
そして、今、あの巨大な塔が溶け落ちて、下にはっているトンネルも消えていきます。
この光景に体が震えてしまいました。
私もいつかあの場所で戦える魔導師になれるのでしょうか?
これを見ると南君さんが認めたくないのも分かる気がしました。
世界の書き換えが始まります。
次の世界は天空の世界。明るくなり、地面はありません。
この場合、下に落ちすぎると藻屑となって消えてしまうらしいです。
しけし、この世界は私達にとって有利かもしれません。
塔莎帝は飛べないはずです。塔に支えられているのですから・・・。
見上げると、数百メートルもの球体が落ちてきています。
その迫力に一瞬だけ気を取られてしまいました。
あんな存在を私達は倒せるのでしょうか?
なぜか目が離せません。
「海帆」
柊の叫ぶ声。
私は気を取られ、ギミックに気がつけませんでした。
私の死角から巨大なチェスの駒が落ちてきていたのです。
この速さに大きさ。もうかわせません。結界魔法も簡単に破壊されてしまうでしょう。
「・・・嘘」
死は目の前に迫っていました。
残りわずかで第一章も終わりそうです。
今までの反省を生かしてこのお話を二つに分けることにしました。
自分で振り返りやすくて更新も多少は早くなる気がします。
こんな感じでずっと終わる終わる詐欺をしています。
終わる終わる詐欺とやるやる詐欺の常習犯です。
最後まで頑張ります。




