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ー四日目ー
舞木と真央は作戦会議用のテントで機材の調整をしていた。
大きなモニターがテーブルに置かれている。
魔法道具と電子機器が色んなコードに繋がれていた。
舞木は何でそんな物まで持ってきているんだろうか?
あのゴミ屋敷同然のキューブの中に積まれていたのかな?
電子機器と魔法を繋ぐ試みは昔からずっと行われてきていて、舞木はそれが特に好きだ。
毎月の収入の一部を何かしらの魔法道具や電子機器とかに当てているくらいには・・・。
何がどうなっているとかは私には分からないけど、これで映鳥からの映像が綺麗に映るらしい。
海帆が担当している記録係の仕事も出来るように録画すると言っていた。
いつにも増して楽しそうに作業している。
私と海帆は机の上に置かれている怪しげなボタンを見ていた。
「柊、これ何だろうね?」
「舞木が式紙で作ったみたいだよ・・・また変な物をね」
悪の組織が使いそうなボタンで黒い箱に赤い大きなボタン。そして、ドクロのマークがついている。
「・・・何で言うか・・・舞木さんの印象が変わったよ」
まぁ、そうだろうな。外だと趣味をそんなに出さないから・・・。
「元からあんな感じ。昔はもっとヒドかった」
「失礼なことを言われてる気がする」と舞木。
「気のせいじゃない?」
ため息を吐いて、もう一度、ボタンを見下ろす。
私は知っている。
今回の攻撃は本に魔力を込めて、起動させれば済むことを・・・。別にこのボタンを押す必要はないことを・・・。
その時、テントの入り口から南君が顔だけ覗かせた。
「今から結界を敷くから柊は壊さないでね」
「へーい。気をつけます」
それだけ言って、南君はまた外へ。
「ねぇ、見に行こうよ」
「・・・まぁ、いいよ」
ちょっとだけ面倒くさい。
やることないし別にいいけど・・・。
外では南君が魔方陣をチョークで地面に手描きしていた。
私達に気がついてこちらを見る。
「どうしたの?」
「結界を張る所を見ようと思いまして・・・」
「連れてこさせられました」
「そう。もう少しで終わるから待ってて」
五角形で星の模様がある魔方陣だ。後は細かく何かが描かれていてよく分からない。
「何の魔方陣ですか?」
「今回は魔法攻撃だけを防ぐ魔方陣にしたわ。近くに塔莎帝のトンネルや座標もないし遠距離の魔法攻撃だけを気をつけてればいいかなって」
終わったのか立ち上がる。
「柊。念のためにもう一度言っていい?」
「分かってるよ。しつこい」
ムッとする。
「なら、よろしい。じゃあ、始めるね」
魔方陣に魔力を込める。
同時に規則的に動き始めた。
「五点・星状の境」
そう唱えて目の前で手を叩く。
軽い魔力の波動。
少し間を空けてから離れた場所に描かれていた魔方陣が反応し、空に五本の光の柱が現れる。
その光は別の座標へ真っ直ぐ伸びていき、繋がった。数百メートル規模の大魔法だ。
境目は半透明で濃い緑色のカーテンのように見える。
空から見ると星の形に見えるので星状と言うらしい。
「これが五点・星状の境。先輩の京終さんが既存の結界を改良した魔法よ。五点式にしたから強度もある程度はあるわ」
「すごいです。初めて見ました」
海帆は南君に近づく。
「京終さんからもらったノートはまだあるから、この作戦が終わったら教えてあげる。この規模の結界を張ることはないと思うけど・・・」
「はい」
海帆は嬉しそうだった。
色々とあったけど、ここに来られてよかったのかな?
テントに戻ると準備が終わっていたようだった。
「いつでも大丈夫だよ」
「そう。ありがとう」
そう言って端末で時間を確認する。
「じゃあ、始めましょうか」
「OK」
舞木はボタンを手元に引き寄せた。
「オペレーション・オメガ。イグニッション」
ボタンを強めに押した。
舞木が何を言っているのかサッパリ分からない。特に意味とかなくて、カッコいい感じの言葉を言いたいだけなんだろう。
三角柱の塔が空高くまで伸びています。その根元には数えきれないほどのトンネルが数キロに渡って広がっており、地面が見えないくらいに埋め尽くされていました。
塔莎帝の本体はその塔の天辺、数千メートル上空にあります。地上付近では豆粒程度にしか見えません。
映鳥と呼ばれている黒いカラスを模した鳥。
それが五羽。塔莎帝から一定の距離を保ちながら飛んでいます。
遥か遠方から攻撃命令の信号を受け取けとりました。
式紙がヒラヒラ落とされます。
映鳥の機能が保てるだけの式紙を残して後は全て放出しました。
それらの大半は再び集まって運鳥と呼ばれているフクロウの形にまとまります。
数十体の運鳥は塔莎帝の方へ羽ばたいていきました。
集まらなかった式紙は地上に広がるトンネルに張り付きます。そして、一斉にそれらが爆発してトンネルを破壊しました。
トンネルが繋がっているとワープして別の座標へと逃げてしまうためです。繋がらないように綺麗に円状に爆破しました。
運鳥は名前の通り式紙や術式を運ぶ鳥。
式紙をばら撒き始めます。
今度はそれが橙色の雀のような形になりました。
攻鳥。遠隔で攻撃を行うてめの鳥シリーズです。小さく機動力もあり、気づかれにくいというメリットがあります。
塔莎帝は根元付近のトンネルから伸縮自在のむちのような触手を無数に伸ばして撃退しようとしました。
しかし、攻鳥を攻撃すると構成していた式紙の状態に戻って落ちていき、トンネルや触手を爆破していきます。
また、攻鳥は式紙を数枚切り離して、貫通魔法を塔へ叩き込んでいきます。
アンノウンが破壊された時の光が辺り一面に広がりました。
それを運鳥がマナとして回収し、新たな攻鳥を生み出します。
地面を覆っていたトンネルはあっと言う間に消え去って、白い床が見えてきました。
貫通した部分が再生しながら塔莎帝も本格的に動き出します。
塔もトンネルと似ていて区切りがあります。
違いは高さ十メートルずつ短めで区切りがあることです。
その間の部分から彫刻のような白い腕が生えてきました。手には同じような素材の杖を両手に持っています。そして、放ったのはこちらと同じ貫通魔法でした。
数え切れない程の腕が四方八方に同時に放つ貫通魔法。
一瞬で数多くの攻鳥、運鳥がやられてしまいました。
離れてた位置にいた映鳥も三羽が落とされます。
しかし、鳥シリーズも負けていません。
撃破された攻鳥や運鳥の残った部分は式紙となり、貫通魔法を放ち返します。
塔にまた穴が開き、その穴には貫通とほぼ同時に式紙が貼り付きました。そして、大爆発を起こしました。
とても太い塔が折れ、倒れ始めます。
地面にはもう繋がる部分は残っていません。倒れるだけです。
塔莎帝の本体が見えてきました。
そちらの方へ運び鳥が向かい、少し離れた位置から映鳥が後を追っています。
この間も攻鳥と式紙は触手や貫通魔法との攻防を続けていました。
鳥シリーズはどんどん数を減らしていきます。
そして、運鳥達は本体を射程圏内に入れ、いくつかの攻鳥と式紙に分かれました。
式紙は貫通魔法となって今度は本体へ・・・。
しかし、その攻撃は当たることなく、曲がってしまいます。
一撃だけではありません。放った何十発の魔法が本体を避けるように曲がりました。
残ったのは数匹の攻鳥。
攻撃をかわし続けて、一斉に最後の禁術を発動します。
消失魔法。
あらゆる物を蒸発させる広範囲の炎魔法です。
最後の一匹の映鳥はその様子を映していました。
近距離で放った消失魔法。それでも、塔莎帝の本体は傷1つありません。
そして、映鳥も敵の貫通魔法で撃ち抜かれてしまいました。
映像が途切れた。
舞木は大きく息を吐いて、椅子に寄りかかる。
「倒せたと思ったけどな」
手を伸ばして背伸びをしている。
みんなは言葉が出てこない様子だった。
舞木が準備をした鳥シリーズでも倒しきれない。
それにあれだけの魔法を次々と放つ相手とやりあわないといけないのだ。
今までのアンノウンとはレベルが違う。本当に人類を滅ぼそうと作られた存在なのだろう。
次に口を開いたのは南君だった。
「少し考えもまとめたいし、休憩にしましょう。一時間後に再集合ね。真央は見張りをお願い」
いつもの南君の声。
これだけの言葉だったが、重い空気が少し和らいだ気がする。
「え?嫌なんだけど・・・」
「やりなさい」
「・・・はい」
南君は手を叩いた。
「それじゃあ、解散」
海帆は南君に近寄って、真央は面倒くさそうにテントから出ていった。
「私達はテントに戻るよ」
「分かった。時間は守ってね」
「へーい」
私達は自分達のテントへ戻った。
舞木もあれだけのことを遠隔でやったんだ。負担は少ないかもしれないが、疲れてはいるだろう。
少し休ませた方がいいと思った。
また一時間後にはあれをどうするかの大喧嘩が始まるかもしれないし・・・。
私がテントに先に入って、後に入った舞木がテントの防犯機能を作動させた。簡単に言うなら鍵をかけたのだ。
何で?と思って振り向こうとするが、遅かった。後ろから抱きつかれた。
「・・・何?」
「心を読めるのに聞く?」
ここでの生活にストレスを抱えているのは私だけではない。
舞木も・・・きっと南君や海帆もそうだろう。引きこもりは変わらないと思うけど・・・。
「三日も何もないんだよ」
耳元でささやく。
「悪い大人だな」
「大人はそういうものだよ」
ギュッと抱きしめられた。
「今は仮眠を取ろうよ。私も少しだけ横になりたいからさ」
そう言うとなぜか耳を軽く噛まれた。
あれから一時間半が経ちました。
私と海帆は映像を見返してどう戦うかをずっと考えています。
あの攻撃で状況が変わってしまいました。
最終地点に塔莎帝が現れたのです。
トンネルの一本もなかった場所にものすごいスピードで伸びて、あっという間に場所を取られてしまいまったのでしょう。
マップによると最終地点から半径1キロくらいはトンネルか触手かは分かりませんが埋め尽くされています。
このことは舞木も気付いているでしょう。
さらに世界中のトンネルが最終地点へ向かって収縮を始めていました。
このこともマップで確認できます。
恐らく、トンネルに使われているマナ?やアンノウンとしての要素を取り込んで最後の戦いに備えているのでしょう。
最終地点を取りに行く判断や戦いに備える動きは知性があるかのようでした。偶然かもしれませんが、気にしておいた方がいいでしょう。
「ごめん。遅れた」
遅刻して舞木がやって来ました。柊はいません。
「遅い。何してなの?」
「ぐっすり寝ちゃってた」
「で、柊は?」
「まだ寝てる。後で伝えておく」
そう言いながら、椅子に座ります。
「あの空間のねじ曲げについて何か分かった?」
「いいえ。何も・・・」
「でも、本当にあの魔法は何なのでしょうか?禁術すら捻じ曲げてましたよね。かなり珍しい魔法ですよね」と海帆さん。
「そうだね。仮に正体が分かったとして、あの規模の魔法の解術は無理だろうね。あの場で呑気に魔方陣や魔法式を作っている時間がない」
「私の魔法で空間諸共、焼き切ることは出来るかもしれないけど・・・」
「それは絶対にダメ」
舞木が即答しました。
「・・・そうね」
そうなるとやることは1つです。
私達には未知の魔法に対抗する手段があります。
「柊の終世界しかないね」
魔法を拒絶する体質の柊。彼女ならあれを突破し、本体に触れられれば倒せるでしょう。
問題はどうやってそこまで運ぶかです。中途半端だとまた逃げられてしまいます。
それに最終日まで待つとなると世界中に広げられていたトンネルからのマナを蓄えてしまいます。どうしましょうか。
「ねぇ、1つ案があるんだけど・・・」
椅子から立ち上がる舞木。
「・・・何かしら?」
まともな案ならいいんですけど・・・。
「世界を壊そう」
・・・また変なことを言い出しました。
塔莎帝の元ネタはカヤツリグサ科のハマスゲという植物です。莎はハマスゲを指しています。いつ頃、このような設定にしたのか覚えていませんが、育てていたジャガイモがこいつに貫かれていてイラッとしたのが塔莎帝を生み出した理由です。




