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空間がひび割れる音がして、空に黒い亀裂が入る。
世界の修正力が間に合わない時に起こる現象だ。
世界中に根を伸ばす塔莎帝。それが大規模な魔法で消え去った。負担はかなり大きいだろう。
空間が割れていないのが不思議なくらい。
真也の予想通りだった。
私は少しくらい空間が割れて一部が黒になると思っていたんだけど・・・私もまだまだだな。
この程度の亀裂だったら私がついでに直してあげよう。
優しい優しい楸ちゃんに感謝するんだぞ、真也。
ここは防衛省の高層ビルの屋上。そこから、私は空を見上げていた。
「さて、始めようか」
私の魔法・・・今は固有魔法って言うんだっけ?それを発動する。
『何かの夢』
私を中心に世界が変わっていく。
黒いひび割れは消えて、トンネルは掘られる前に戻った。
この惑星レベルなら数秒もあれば終わるだろう。
対価を払い、夢を叶える。それが私の魔法。
「私にここまでさせたんだ。みんな、結果は出してちょうだいね」
冷たい真っ青な空。そこに見える月。
それを見つけてニヤけてしまう。
体が締まるように感じるのは寒さのせいか、あの時のことを体が思い出しているからか。どちらだろう?
私はこの感覚が好きだ。まだ私は生きていると思えるから・・・。
今回の作戦での私の役割はこれで終わり。
後はあの子達の頑張りを見届けるとしよう。
近くにあったトンネルが埋まっていきます。
作戦通りに楸さんは魔法を使ってくれたみたいです。
何をどうやってこんなことをしているのか分かりません。
この魔法を見ると明け暮れに所属した時「何かあったら任せなさい」と、自信満々に言っていたことを思い出します。
本当にどんな無茶振りをしても叶えてくれるのです。まるで全知全能の神様みたいに何でも・・・。
さて、次に起こることはトンネルにいたアンノウンが地上に出てくることです。
トンネルも塞がって小型から中型くらいは潰れてしまうでしょう。でも、大型の個体は何ごともなかったように出てくると予想されます。
・・・地響きが始まりました。
今、世界中で同じことが起こっているでしょう。
「夜々。準備は出来てる?」
通信魔法で声をかけます。
『万端よ』と返ってきました。
夜々がいるのは空高く。紗倉見全土が一望できるくらいの上空です。
ここは紗倉見が見渡せる高い場所。
地球が丸く見えて、上には真っ黒な宇宙が広がっている。
私専用の魔法訓練でこの領域まで来たことがある。何度も来ているはずなのにやっぱり怖い。
ここは不思議な場所だ。
下にある大きな惑星に私達の全ての営みがあって、上には私達のようなちっぽけな存在では想像もつかない広い世界がある。
私がいるのはその境目だ。
普通の人なら死んでいるかもしれない。風の作ってれた球状の結界のおかげで身体にこれといった負担もなくここにいられる。
『夜々、始めて』
真也からの合図。
「了解」
返事をしてから大きく深呼吸した。
私の魔法で後のことが決まるのだ。
頬を叩いて、いつも以上に気合いを入れる。空回りしないようにハッキリとイメージを持って。
「炎よ」
私の周囲に炎の針が次々と現れる。その範囲は広がっていって西島、そして紗倉見全土へと広がっていった。
この全てが地中から現れたアンノウンへ向けられている。
数え切れない程のアンノウンが地下にいて、みんなを襲うかもしれなかったのだ。
命令をする。
「敵をせ・・・」
その時だった。
『ちょっと待ったー』
通信魔法で真也が焦ったように叫ぶ。
耳がキーンとする。
こんなに焦った声を聞くのは初めてかもしれない。
「何よ」
『火だと二次被害とかあるから別のにして』
・・・魔法で倒してとしか言ってなかったじゃん。
「分かった」とだけ返した。
「風よ」
私の一声で炎が風に置き換わっていく。半透明な針だ。
「これでいい?」
『うん。確認した。それでお願い』
通信を切る。
・・・先に言ってよね。
でも、緊張は解れた気がした。
もう一度、命令する。
「風よ。敵を殲滅せよ」
全ての風の針を撃ち下ろした。
なぜ、兵器と呼ばれる魔法使いが作られるのでしょうか?どうして禁術が研究され続けているのでしょうか?
答えは簡単。時折、夜々のような魔法使いが現れるからです。
たった一言で国を滅ぼす。そんな異次元の力を持った魔法使いが・・・。
あちらこちらから空に向かって光が上っていきます。
アンノウンに命中し、消滅したのです。
夜々のいる場所からなら紗倉見が輝いているように見えるでしょう。
「綺麗ですね」と、小禄さん。
「そうだね。・・・まずは一安心だ」
塔莎帝が消えた直後の対応。一番心配していたことが終わりました。
夜々のことを信頼はしていますが、やっぱり脳裏に失敗がチラつきます。
肩の力を抜いて、大きく息を吐きました。
後は結界に入った南君達の頑張り次第です。
良い結果で戻ってくることを祈りながら、待つことになるでしょう。
青空が広がっていた。ちらほら雲も浮かんでいる。
地面は白色でタイルみたいな硬さがある床だ。
それが地平の果てまで続いている。
ここが真央の世界。広大なゲームの世界。
無限廻廊玩具箱。
簡単に言うなら、この世界に敵味方を引きずり込んで、全滅するまで戦わせる魔法だ。
今回は私達、五人と塔莎帝。
数日に及ぶ長い戦いになるだろう。
作戦は三段階に分けられている。
第一段階は紗倉見の範囲にある塔莎帝の破壊。
これは死ぬ気でやり遂げなければならない。この作戦の意味がなくなってしまう。
まぁ、問題なく遂行できるだろう。
第二段階。
塔莎帝を出来る限り縮小させること。
向こうがうまくやっていれば、世界中のトンネルがあった場所が元通りになっている。
そこにトンネルが戻ってきたら、地震が起こったり、隆起したりしてとんでもない被害が起こる。
最低でも塔莎帝の本体がいるママルル大陸の広さくらいまで耐えなければならない。
世界中に協力してもらっているのだから、失敗したら大変なことになるだろう。どうなるかは考えたくない。
そして、第三段階。
塔莎帝の撃破。
何だっけ?設定資料集だっけ?あれには世界中に根を伸ばしてアンノウンの通り道を作る。としか書かれていなかった。正直、何をしてくるのか分からない。
もし、戦いが始まったら苦戦を強いられるだろう。
ただこれは絶対ではない。重傷者が出たり、何かしら不測の事態が起こったら止めることが出来る。
無限回廊玩具箱は一度、始めたら決着がつくまで止められない。
でも、私の終世界で魔法由来のこの世界を破壊できる。だから、作戦の時はいざという時のために必ず中に入れられるのだ。
この世界に入ってすぐは警戒していたが、塔莎帝は特に変化はなかった。
異変を感じて何かしてくる可能性は十分にあったけど、杞憂に終わったのだ。
私は一番近くにある塔莎帝のトンネルとして使われている筒を見上げる。
10メートル以上はありそうな巨大な筒である。
この中をアンノウンが大量に通ってきていたと考えるとゾッとする。
「じゃあ、早速だけど、あれやっていい?」
ウキウキな舞木の声が聞こえる。緊張感の欠片もない。
「仕方ないな。やっていいよ」
それに真央が自慢げに答えた。
「マップ、オープン」
舞木は指を上から下に払う。
すると、薄い青色の画面が出てきた。
お互いの場所と残っている人数が分かるこの世界のルールの1つだ。
自分達だけでいいのになぜか相手も見られる。何でそんなふうにしたのか理解できない。
理由を聞いたことがあるけど、「そういうものだから」という答えが返ってきて、それ以降は聞くことはなかった。ちなみに真央の心を覗いたことはない。
あの画面は変な言葉を言わなくても出せる。きっとアニメか何かの影響だろう。
舞木がはしゃぐ子供みたいに画面を出したり、消したりしていると南君が呆れたようにため息を吐く。
「私達はもう始めるから、そっちも予定通りにやってよね」
「・・・分かってるよ」
すねたように言う舞木に海帆は苦笑いをしていた。
「まぁ、いいわ」
南君は羽衣をまとう。そして、もう1つの固有魔法を使う。
「月鏡・晩華焔、第一解放」
それは舞木が好きそうな真っ黒な剣。南君の兵器としての力を代償なしで使えるように押さえ込んでいる。
舞木は見るのは初めてだろう。私もこの二年半くらいの付き合いで2、3回くらいしか見たことがない。
この魔法を使わなくても完全回避の能力を持つ羽衣と通常魔法で何とか出来てしまう。
「どう?格好いいでしょ」と、舞木に剣を見せつけている。
「・・・キモい」
興味がなさそうに外方を向く。
南君に自慢させるまでマジマジと見ていたのは言わないでおこう。
ゴーーーン・・・ゴーーーン・・・。
鐘の大きな音が鳴り響く。
ゲーム開始の合図だ。
私以外のみんなにさっきの画面が現れた。
この時に敵味方全員にマップの使い方とルールが説明される。私に出ないのはいつものことだ。
・・・そういえば、塔莎帝にはどう表示されるんだろう?アンノウンに理解できるとは思わないけど・・・。
私達と塔莎帝の本体がいる場所の真ん中に最終地点が設定されて、世界の端から徐々に崩壊が始まっていく。それに巻き込まれると消滅してしまう。
「海帆、行きましょう」
「はい」
二人は飛び立った。
チーム夕火で紗倉見の領土と領海に存在するトンネルを破壊するのだ。
飛び去っていく二人を「いってらっしゃい」と呑気に手を振って見送っているのは真央。
「・・・真央は何をするの?」
何となく聞いてみた。
「休憩かな。こんなに広い世界だと発動直後もドッと疲れるから」
まぁ、そうなんだろうけどさぁ・・・。
ヰヱ・カタログと呼ばれる魔法道具でテントを出して、中へ消えていった。この引きこもりが・・・。
「私も作業するから何かあったら呼んでね」
舞木も別のテントを出して、作業を始めようとしていた。
「・・・分かったよ」
私の最初の仕事は周辺の塔莎帝の破壊。しかも、徒歩で・・・。南君達、わざわざ私の分を残さなくていいのに・・・。
トボトボ歩きながら塔莎帝の破壊を始めた。
夜々がゆっくりと時間をかけて降りてきました。
「お疲れ様でした」
小禄が手を取り、地上に着地します。
「ふふん。どう?私の魔法は?」
腰に手を当てて、自慢げな様子でした。
「次は魔法を使った後のことも考えてね。今回は余裕があったんだから、考えておいてほしかったな」
夜々を甘やかすのはよくありません。すぐ失敗することになりますから・・・。
「・・・なっ」
いつもだったら怒ったりするでしょう。しかし、今日は小禄さんがいて、すぐにフォローが入りました。
「夜々さんはすごかったです。次も油断せずに頑張りましょう」
「うん」
頭をなでられて満足そうにしています。
空に飛行隊が飛んでいるのが見えました。
遅れて現れるアンノウンの捜索や紗倉見の被害状況を確認することになっています。
夜々がある程度の深さにいるアンノウンまで倒してくれたので、数はそこまで多くはないと思いますが・・・。
暗くなる前までには終わらせたいです。冬の日没は早いので急がなければなりません。
僕一人だけでなく、元明け暮れの先輩達も協力してくれることになっているので大丈夫でしょう。
「じゃあ、二人は予定通り、戻って待機しててね」
こんな時だからこそ悪いことを企む輩がいるかもしれません。そこにも、人員を割かなければいけないのです。
「ねぇ、私はまだ戦える。一緒に行かせて」
とても真剣な表情でこちらを見ていました。
気持ちは分からなくはないです。でも、勝手なことは言わないでほしいものです。
「・・・会議中に話を聞いてた?」
「え?う、うん。でも・・・」
呆れてため息が出ました。
怒ろうと口を開こうとした時、小禄さんが夜々の肩を掴みます。
「夜々さん。戻りましょう」
とても恐ろしい声色でした。いきなりどうしたのでしょうか?
「・・・え・・・あ・・・ん?」
夜々も突然のことに言葉が出なくなっています。
「もし、舞木さんが戻ってきた時に問題が起こっていたらどうするんですか?」
・・・そこなんですね。
「・・・え?何で?」
夜々も訳が分からず動揺しています。
「・・・もう一度、言った方がいいですか?」
「いや・・・その・・・問題が起こってるのはよくないかな?」
ニコッとした小禄さん。
「そうですよね。待つことも大切な仕事なんですよ。いつも通りの紗倉見でみんなを迎えましょう」
言うことを聞けって言っているように感じます。舞木が絡むと小禄さんは怖いです。
「はい」
小禄さんはほうきを出して、夜々を後ろに乗せました。
「では、戻りますね」
そう言って、飛んでいきました。
・・・僕も急がないといけませんね。
早速、飛行隊の連絡が入ってきます。
そこへ向けてほうきを走らせました。
マップを見ながら世界の広さや敵の大きさ、最終地点を確認している。
その情報を元にして、『神鳥シリーズ』に魔法を付与していくのだ。
『神鳥シリーズ』
式紙達が集まって鳥の形に成ったもので、偵察や座標を遠くへ送るために作った魔法だ。
今回使うのは水色のツバメ。『渡鳥』と呼んでいる。
素早く遠くへ移動することに特化した神鳥だ。
魔導書から必要な魔法式を複製して浮かび上がらせる。そして、それを神鳥の中に染み込ませた。
こうすることで遠隔で色んな魔法を発動させることが出来る。
ツバメは二羽、用意した。
一羽は最終地点に、もう一羽は塔莎帝の本体へ向けて飛ばすことになる。
一通りの付与とその確認を終えてから渡鳥を抱えて、外に出た。
最後に動作確認をするためだ。
飛ばせて、色んな動きを指示してみた。
この手の魔法は動作確認のマニュアルがあって、それを使っている。
思い通りに動いてくれてた。
でも、少し不安なこともある。
数千キロも飛ばしたことがない。
私の魔法の特性上、魔力が飛散することはないけど、魔法の世界はいつ何が起こるか分からない。
せめて、目の届く範囲なら異変とか気がつけるんだけどな・・・。
魔法書を閉じる。
でも、信じるしかない。自分がここまで積み上げてきたものを。
ここまでいっぱい無茶をして、いっぱい失敗もしたけれど、数え切れないくらい多くのことをやり遂げてきた。
柊のためにも、みんなのためにも、私が自信を持たなくちゃいけない。
「お願いね」
声をかけると神鳥は私の周囲を何周かしてから、それぞれの行き先へと飛び立っていった。
第一章の最終話はある程度、完成しました。ここからそのお話までの間はまだ出来ていません。
一話増えて残り三話分、計四話です。・・・今年中に終わるでしょうか?




