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・・・目が覚めた。
端末で時計を見る。時刻は午後六時。
仮眠のつもりが1時間くらい寝てしまった。
取りあえず、上体を起こしてふぅっと息を吐く。
今日は初めて明け暮れへ出勤した。
明日の塔莎帝討伐作戦の会議に参加して、その後に昨日と同じような運動をした。
何だか変な感じ。昔、千疋さんと一緒に目指していた仕事なのに、感動も嫌な気持ちもない。
柊やみんながいたからかな?それなりに交友関係はあると思ているけど、ほとんど関わっているのは明け暮れの関係者ばかり。慣れた人達だったから特別な気持ちになれなかったのだろうか?
でも、最初は緊張した。慣れているからこそ明け暮れの制服姿でみんなに会うのは恥ずかしかった。
散々、関わらないと言い続けてきたから、どんな顔をするべきか分からなかったのもあると思う。でも、それも一瞬だった。
・・・妙に小禄さんが喜んでいた気がしたけど、気のせいだろう。
今日から避難が始まっていた。
最初は時間がかかるお年寄りとか体の不自由な方とかが中心で、次に大人や子供達だ。
カランコエの塔の周辺に『ヰヱ・カタログ』と呼ばれる魔法道具を使って、仮設テントを設営するのだ。
私も魔法隊時代に講習で使ったことがある。
かなり広くて快適に過ごせる。
魔法使いはこだわってしまう人が多い。あの仮設テントにも相当なこだわりを感じた。
明日の本番は午後一時からを予定している。
午前中までに避難を完了させて、その後に作戦開始って流れだ。
私達の集合時間は午前十時。
こんなに遅いのは魔法隊の準備を邪魔しないようにするのと、作戦前には時間が必要だからだ。それが最後になるかもしれないから・・・。
さて、明日の準備をしよう。
隣で寝ている柊の頭をなでてから、外へ出る準備をする。
ここは母屋の二階。ベランダに出て、屋根に上がった。
冬の空にキラキラと星が輝いている。
町から離れた場所にあるこの家の周辺はとても静かだ。明日、戦いが始まるなんて思えないくらいに・・・。
屋根に座り、固有魔法の魔導書を出す。
「紙仕掛けの魔導書」
真っ黒な魔導書を手に持ち、魔力を与えると式紙達が飛び立っていく。
予め、座標を設定していて、そこに向かって飛んでいくのだ。
私が毎日、作っている神札シリーズ。
数万枚ものお札を作るのに私の魔力だけでは全然足りない。
西地区にある魔力で光っている街灯や常に魔力を使って動かしているカランコエの塔など、色々な場所から漏れ出した魔力やマナを式紙を使って回収しているのだ。
本当は違法だけど、見逃されている。神札シリーズのことを考えたら問題にしない方がいいと判断されたのだろう。
式紙達はいつも通りの数、何の問題もなく飛んでいった。後は入れ替わりで戻ってくる魔力をため込んだ式紙達を魔導書に戻して、保存するだけだ。
それまでの間、空でも眺めようと思って寝転ぶと私を呼ぶ声がした。柊の声だ。
ベランダを見ると何重にも防寒着を着ている。そんななら来なくてもいいのに・・・。
「こっちに来る?」
「うん」
お互い手を伸ばす。
あらゆる魔法を消してしまう柊の終世界。
最近は頑張って意識している間だけ影響を減らせるようになった。
海帆さんが柊をほうきに乗せられるくらいになっている。それでも、いつもの何倍もの負担がかかると海帆さんは言っていた。そんなことを言って、平然としている海帆さんが恐ろしい。
そんな終世界も1つだけ例外がある。
私が触れている間だけ、私の魔法が有効になる。
手を握って浮遊魔法で上げる。
「マジで寒いな」
ブルブルと震えていた。
「温かくなる魔法を使ってるから私にくっつきな」
「うん」
温かい布を出して一緒に包まる。魔法の効果もあってかなり温かい。
それから、式紙が戻ってくるまで言葉を交わすこともなく、星空を眺めていた。
しばらくして、入れ替わってきた式紙達が戻ってくる。
魔導書を開いてその中に入っていく。
「公認魔導師の前で堂々とやるとはな」
何を今さら言ってるんだろう?私の心は散々、見てきただろうに・・・。
「冗談はいいから戻るよ」
魔導書を消して、降りる用意をしようとすると服の裾を掴まれた。
「何?」
「明日は本番だけど、少し遅いでしょ?夜更かししない?数日間は中に入ることになるんだし・・・ね?」
・・・何だ。そんなことか。
私は心を読めないけど、柊の考えは分かる。
「失礼なこと考えるなよ」
ムッとしている。
「いいよ。でも、もう一回お風呂に入ってからね。さすがに冷えちゃった」
「うん。マジで寒い。早く戻ろう」
柊の手を取り、家の中へ戻った。
・・・・・
ー翌日ー
西島の東地区と中央地区のちょうど間くらい。
そこに新しく生えてきた塔莎帝がある。
少し開けた所で、そこから真央の固有魔法で作り出す世界に入ることになっている。
軽く昼食を取ってから最終確認をしていたら、あっという間に時間になった。
「本当にやるの?」
一番乗り気でない真央が大きなため息を吐く。
週に三度ある運動の時間。その時にしか外出しない。その運動の時間も真夜中で指導員の先生も困っている。
お天道様の下に出てくるのは数ヶ月振りだと思う。まぁ、規則正しい生活をすればいいだけな気がするけど・・・。
冬の日差しなのに「眩しいの嫌い」と絶望したような表情で言っていた。
「もう決まったことだから早く位置について」
真也は容赦ない。
「うぅ・・・」
うめき声を上げながら、テントから出てトボトボと歩き出す。
私達はそれについていく。
「頑張ってください。応援してます」
小禄が舞木の手をギュッと握りながら横を歩く。
「うん。ありがとう。頑張るね。小禄さんのことも応援してるよ」
幸せそうに笑う小禄。
「はい。私も頑張ります」
舞木が来てからずっと嬉しそうだ。憧れてた人だから仕方ないか。夢が叶ったみたいなものだし・・・。
「では、みなさん。行ってらっしゃい。待ってますよ」
そう言って、テントへ戻っていった。
私達は塔莎帝の前に到着する。
近くには大きな穴があって、今日もそこから大量のアンノウンが出てきたらしいけど、小禄が1人で殲滅したらしい。
舞木に余計な手間をかけさせないために頑張ったみたいだ。・・・何か怖い。
みんな緊張しているのだろう。会話はなかった。
すぐに作戦開始を伝える音が鳴り響く。・・・時間だ。
『みんな、頼んだよ』
無線魔法で真也はそう言っていたらしい。
真央が息を吐いて、私達を見渡す。
「じゃあ、始めるよ」
私達はうなずく。
『無限廻廊玩具箱』
世界が歪んでいく。
私達はゆっくりと真央の世界に引きずり込まれる。
「ようこそ。遊戯の世界へ」
残り数話で第一章が終わります。頑張って駆け抜けたいと思います。




