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クムパプユアネ_World:M  作者: 浮巣つぬ
明け暮れ
31/49

25

 柊の帰りを待っていて、魔法省の近くにある駐車場にいる。

 何やらトラブルがあったらしい。ここまで遅くなるのは久し振りかもしれない。

 昼間に火柱が上がったとかニュースでやっていたから、それ関連のことだろう。塔莎帝の件に関係する対応だったと説明されていた。疑わしいけど、部外者の私には関係ない話だ。

 車の暖房を入れて椅子を倒し、端末で音楽を聴いている。

 2曲目が終わるくらいに車のガラスが叩かれた。

 鍵を開けると、柊が「ごめん。遅くなった」と寒そうに入ってくる。

「ううん。大丈夫。さっきまで真珠さんの所にいたから」

 そう。さっきまで世間話をしながらグラタンを食べていたのだ。

「え?ズルい」

「そっちは何を食べたの?」

「・・・カップ麺。待機状態だったから」

 やっぱりね。そんな話は何度も聞いている。だから・・・。

「ちゃんとに用意してあるよ」

 真珠さん特製の唐揚げ弁当を後ろの座席から取って見せつける。

「マジ?ありがたや-ありがたやー」

 ペコペコと頭を下げて、ありがたい物のように両手で受け取る。

「まさか、私の心が読まれるとは・・・」

「ずっと一緒にいれば何となく分かるよ」

 車を発進させる。

 柊は弁当をとても大切な物のように抱えていた。

 少しして、思い出したかのようにカバンを漁りだす。

「そうだ。南君からこれを渡されたんだった」

 バックから出されたのは茶封筒だった。

 ・・・この時期にこれか。内容は想像が出来る。

「開けていい?」

「いいよ」

 柊は中を覗いて端末の明かりで読んでいる。

「あー・・・なるほどね。帰ってから読んで」

 魔導師の命令書か何かだろう。真也さん、やりやがりましたね。

「朝に読む。私が読むまで内容は確定しないから」

「ふーん・・・そうだ。今日から上で寝ない?」

 上とは母屋の二階のことだ。

「いいよ」

「後、明日は休みだけど、ヒミオヤ倶楽部があるから、これのついでに連れてってね」

 まるで明日、私が明け暮れに行くかのような言い方。

 ・・・少しだけスピードを上げた。



・・・・・



 ー翌日ー

 明け暮れの執務室。

 そこで僕と桂一郎さん、南君の三人で舞木が来るのを待っていた。

  南君の予想では舞木が来るらしい。本当か怪しいけど、待つことになった。

 予定では明日、召集することになっていて、作戦を伝えて軽く体を動かしてもらうことになっている。

 そして、明後日が本番だ。

 柊の移動の補助がメインだから大丈夫だろう。

 今日は予備日みたいなもので基本的に待機する一日になるだろう。昨日みたいに変な事件が起こらなければ・・・。

 三人でお茶をしているとエレベーターが到着する音がした。そして、何かを引きずるような音と足音がこの部屋へ近づいてくる。

執務室の前で音は止み、魔法で扉が開けられた。

「おはようございます」

 南君の予想通り舞木だった。この上なく機嫌が悪そうだ。

 引きずられてたのは柊。舞木の片方の手に両手で捕まっていた。何で?とは思ったけど、無視する。

「おはよう。指令書は見てくれた?」

 早速、南君が舞木の前に立って顔を覗き込む。挑発的なことは止めてほしい。

「・・・何あれ?私は国に関わらないって言ったよね」

「それはあなたが勝手に言ってるだけでしょ?それに関わらないって言ってるけど、色々と優遇を受けているでしょ?国から」

 にらみ合う二人。

「まぁまぁ・・・取りあえず、座って」

 ものすごく嫌そうな顔をしていましたが、「・・・分かりました」と座ってくれました。

 柊は立ち上がって埃を払っています。

「私は関係ないから出てっていい?」

 こいつは本当に何なんですかね。

「いなさい。茶菓子を食べてていいから」

「うん。それならいいよ」

 舞木の隣の席へ。

 二人のお茶を用意して座ると、舞木は口を開きました。

「真也さん。今回の塔莎帝の件に私は関わらないって言いましたよね」

 それを聞いた南君はいつの話?と驚いた表情でこっちを見ます。・・・面倒なので無視。

「どうしても人員が足りなくてさ。この前、言った通り柊の補助だからさ」

「補助って言っても三年のブランクだってあるんです」

「そこは心配してない。舞木なら大丈夫だよ」

「大丈夫じゃありません」

 そこに南君が入ってきます。

「諦めなさい。もう決定したことなの」

 舌打ちをして南君をまた睨んでいます。

「あまりにヒドいと本当に国から出ていくよ」

 ・・・そこまで言わなくても。当然、南君がいい反応する訳もなく・・・。

「ふざけないでよ」

「ふざけてない。たしかに国からの優遇は受けているけど、それがここにいる条件の一つでしかない」

「あなたねぇ・・・」

 これ以上は魔法を使い始めそうです。

 桂一郎さんは既に部屋の端に避難していました。

 柊はこんな状況を気にもせず、お菓子を食べています。

「二人とも落ち着いて」

「「落ち着いていられませんよ」」

 何でそこは息ぴったりなんでしょう。

 ため息が出ました。

「舞木、僕と話そうか。南君は少しの間、席を外して・・・ややこしくなる」

「・・・分かりました」

 不服そうでしたが、言うことを聞いてくれました。

 ドンッと大きな音を出して扉が閉まります。ここは魔法省で一番偉い人の執務室なんですけど・・・。今の状態で気にする訳ないですね。

「確かに舞木が怒るのも分かる。でも、今回の作戦には舞木が必要なんだ」

 南君が出ていって落ち着いたのか、怒りのピークが過ぎ去ったのか、いつもの雰囲気に戻った気がします。まだまだ怒ってはいるのでしょうが・・・。

「別に私じゃなくてもいいでしょう?」

「まぁ、これを読んで」

 作戦書を渡して読ませます。

「今回の作戦はどのくらいの広さになるか分からない。最悪の場合はこの惑星規模になる可能性もある。だから、結界の中に入る柊の移動を手伝ってほしいんだ」

 ペラペラとページをめくる手が止まります。

「・・・結界って真央のですか?」

 何か良い反応。そういえば、前に一度だけ真央の結界に入りたいって言ってた気がしました?

「そう。戦闘は主に南君がやるからお願いできない?この一度きりだから・・・ね」

 考えているのか舞木は止まって、少し沈黙の時間が流れます。それを破ったのは柊でした。

「私はどっちでもいいよ。でも、舞木がいた方が嬉しいかな」

 柊の謎のアシスト。

 それを聞いて大きく息を吐いて、背もたれに体重を預けます。

「・・・分かりました。一度きりです。これが終わったらもう関わりませんからね」

「良かった。ありが・・・」

 扉が大きな音を立てて開きます。

「決まったみたいね」

 すぐに南君が入ってきます。

 すごく嫌そうな顔に戻る舞木。対して、とても嬉しそうな顔をする南君。

 新品の運動着と明け暮れの制服が抱えられています。

 また舞木の舌打ちが聞こえた気がしました。

「まずは服を合わせましょう。私の部屋に来なさい」

「嫌だ。柊とやるからいいよ」

「えー、私が?・・・仕方ないか」

 かなり重そうに腰を上げました。

「まぁ、いいわ。試着が終わったらトレーニングルームに来てね。早速、体を動かしましょう。プログラムも既に考えてあるから」

 ここに南君が所属してから度々、もし舞木が明け暮れに入ったらの妄想話を聞かされていました。ドン引きするくらいしっかり練られていて、ちょっと心配でした。それが現実になったので良かった?のかもしれません。いえ、良かったってことにしておきましょう。

「だってさ、試着だけ付き合ってあげる。私は自室でヒミオヤ倶楽部の時間までゆっくりしてるから・・・」

 そう言いながら部屋から出ようとする柊。

「ダメ。柊も来なさい」

 驚いたようにギョッと振り向きます。

「何で?今日は休みだよ」

「運動不足でしょ。軽い運動とストレッチだからやりなさい」

 えーーーっと、肩を落としていました。

「後は南君に任せようかな」

「はい。任せてください。さぁ、テキパキ動く」

 手を叩きながら催促しています。

 二人は不服そうに執務室から出ていきました。

「では、失礼しますね」

 上機嫌で南君も出ていきました。

「良かったですね。説得成功です」

 執務室の端に逃げていた桂一郎さんが戻ってきます。

「次からは待機室でやってくれ。私の部屋をグチャグチャにされたらかなわない」

 苦笑いしか出来ませんでした。



・・・・・



 それから、私達はずっと軽いらしい運動やストレッチをさせられた。

 もうクタクタだ。

 明け暮れの個室にあるベッドに倒れ込む。

 疲労やシャワーを浴びたのもあって気を抜いたら寝てしまいそうだ。

 時計を見るとヒミヤオ倶楽部の始まる30分前。

 ちょっと早いけど、パールで待つか。寒さで目も覚めるだろう。・・・と思っていたが、まぶたがゆっくりと落ちていく。ヤバい・・・寝ちゃ・・・う・・・。

 その時、体に何かが乗っかる。舞木だ。

「寝てた?」

「ん?・・・寝かけてた」

 なぜか指を絡めて、体を密着させてきた。

「ちょっと、この後は食事会だから」

「分かってるよ。ただのスキンシップ」

 バレバレの噓。舞木が何を考えているのか分かる。

「そっちはこの後は麻雀だろ?」

「食事会が終わるまでね」

 舞木達はこの後、麻雀を打つことになったのだ。

 真也に誘われて南君も賛成していた。断るつもりだったみたいだけど、南君に挑発されて乗ってしまったみたい。

「・・・家に帰るまで我慢して。大人でしょ」

 それを聞いて、残念そうに息を吐いてから横にゴロンと転がる。

「分かったよ」

「分かればよろしい」

 服装を整えてから起き上がる。眠気はどこかへいってしまった。

「もう行く。終わったら連絡するね」

「オッケー」

 部屋を出ようとしたが、舞木に一言かけることにした。

「負けるなよ」

「当たり前でしょ」

 手を振ってから部屋を出た。


 ・・・まさか、こんなことになるとは思わなかった。

 明後日に行われる作戦の命令書の撤回なんて出来るはずはない。

 それを狙って真也さんは送ってきたのだろう。本当にズルい人だ。

 それを知っていたので強引に撤回させようと明け暮れに乗り込んだのだけれど・・・結局、参加することになってしまった。

 一度体験してみたかった真央の世界に入れる。それでほんの少しだけやりたいって気持ちが湧いてしまった。でも、冷静になってみると断るべきだったと思う。

 人生、振り返ってみると後悔することの方が多い。

 部屋の扉をノックする音がした。

 この部屋は防音で外には音が漏れないし、基本的には外から音も聞こえないみたい。ノックした時に少しの間、扉越しに会話できる。魔法隊の宿舎も基本的にこの魔法が使われている。

「舞木、まだ?逃げる気じゃないでしょうね」

 千疋さんの声だった。

「カモを目の前にして逃げるわけないでしょ」

「どっちがカモかしらね。早く来なさい」

 ・・・行くか。のっそりと起き上がる。

 よくよく考えたら小禄さん達にどんな顔で会えばいいんだろう。明日のことなのに気が重い。

 トボトボと待機室へ向かった。




 喫茶店パールには裏口から入る特別な部屋がある。

 余っていた部屋を改装して作られたいつものお店とは違う、少し装飾が違って明るい雰囲気の部屋だ。

 小さめの食事会やパーティーに使われている部屋らしい。今日はそこでヒミヤオ倶楽部の食事会だ。


 ヒミヤオ倶楽部。

 小禄と夜々が明け暮れに所属することになった半年くらい前に結成した十代で食事をする集まりだ。月一くらいで活動していると思う。


 寒さで震えながら部屋に入るとエプロン姿の夜々がいた。

 昨日、倒れてから検査とかしたけど、何も問題がなくて本当に良かった。

「珍しい。一番乗りね」

 魔法で料理を運んでいた。

「楽しみにしてたからね」

「へぇ」

 ニヤニヤされた。

「お肉が楽しみだったんだからね」

「そうよね。分かってる分かってる」

 まだニヤニヤしている。・・・こいつ。

「お邪魔します」

 次に来たのは小禄だった。

「お疲れ」と挨拶をしてから席に着く。

「小禄、久々のお休みじゃない?私に感謝しないとね」

「ええ、本当にです。魔法省も真也さんも魔法隊も困ったら私に連絡するんですから・・・少しくらい柊さんに代わってもらいたいくらいです」

 私も攻撃されてる?返答に困るな。

「それは・・・うん。頑張れ」

 適当に返しておいた。

 そして、この後すぐに海帆が入ってくる。

「みんな早かったね。私が最後になるなんて」

「特に柊が早かったよ。ウキウキだった」

「変な言い方止めろ」

 とても厳しく注意した。私は明け暮れの先輩。古参なのだから。

 夜々は気にもせず、みんなに何を飲むか聞いていた。

 飲み物が到着すると、夜々が「ごめんなさい」と突然、頭を下げる。反省している時の声だった。

 昨日、迷惑をかけたのを謝りたいのだろう。そういう奴だ。

 みんなも分かっているみたい。

 昨日は目が覚めてからずっと泣いていて、そっちの方が大変だった。

「昨日は・・・」

「そういうのいいから、肉が冷めるから」

「・・・は?」

 ちょっとだけイラッとした声になった。

「この食事会で悪いことは忘れて、明日から頑張りましょ」と小禄。

「う、うん。頑張る」

 夜々は恥ずかしいのか机を見ていた。

「それじゃあ、みんなグラス持って」

 海帆の声でグラスを持ち上げる。

「今回の件、みんなで頑張って乗り越えよう。乾杯」

「「「乾杯」」」

 次のお話が終わればこの章の最後の戦いです。この約2年間、ずっと考えていた第一章の終わりが見えてきました。

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