24
・・・疲れた。
私は今、ベンチに座って休んでいる。
魔力を使い過ぎた。
固有魔法はとても便利ではあるんだけど、調子に乗って使っているとすぐに眠くなる。それを続けてると魔力切れで意識を失ってしまう。
メアリーを含めて色んな人に注意するように言われている。一度、それで死にかけたんだからしつこく言われるのも当然か。
それにしても、紗倉見は寒い。
こっちに来てから比較的温かい場所にいて、冬もここまで寒くなかったから何だか変な感じだ。
ベンチの背もたれに寄りかかって空を見る。
空は赤らんでいて、徐々に黒が広がってきていた。
それと高層ビルが空高くまで伸びている。・・・懐かしいな。向こうではこんな光景は何度も見てきた。
あの後、楸さんともう少しだけお話をして別れた。
渡し舟。
楸さんはそれを見つけることが出来たなら乗せてくれると言ってくれた。
大きさもどこにあるのかも分からない物を見つけるって無茶なことを言う。
魔法の世界に来て色んな魔法を見てきたつもりだ。
厄介な魔法がいくつもある。例えば、私もよく使う変身魔法はどんなモノでも、何にでも姿を変えられる。それを使えば、渡し舟はこの世界にある全ての物に変えることが出来る。もちろん、魔力が続く間だけだけど・・・。
終わりまでの時間が迫ってきているのにそれはかなり辛い。
でも、乗せてくれないよりかはマシなのか。見つけたら乗せてくれるみたいだし、噓を吐く人でもない。私の考えも伝えられた。これで計画が少しは進んだと思うことにしよう。
さて、後はユメと協力者と合流するだけ。もうかなり暗くなってきた。
ほうきを出して立ち上がるとうめき声が聞こえる。
声の方を見ると、女の子が倒れていた。・・・なぜ?
急いで駆け寄る。
「大丈夫ですか?」
顔色が悪くてとても辛そうだ。
「す、すまぬ。助けてくれぬか」
変わったしゃべり方だな。
さっきまで座っていたベンチに座らせ、手元に水のボトルを出して飲ませてあげた。
一気に飲み干すと大きく息を吐いた。
「少し良くなった気がする。やはり、体を持つと言うのは不便じゃな」
変なことを言う子だ。・・・あまり深く関わってはいけない人だと思う。こっちに来てから色んなことに巻き込まれたから分かる。でも、放置する訳にもいかないし・・・。
「えーと、病院に行きますか?それとも、警備隊の交番まで連れて行きましょうか?」
あれ?この国では警備隊でいいんだっけ?
「いや、すまぬがお主の連れと合流する場所まで連れて行ってくれ。そこにわしのぺあもいるはずじゃ」
・・・ん?協力者のことかな?あの二人のどっちかのペアか。でも、ならなぜここに?後を付けてきたってこと?・・・まぁ、いいや。みんなを待たせるのも良くない。
「分かりました。一緒に行きましょう」
ほうきの後ろに彼女をうまく乗せ、固有魔法の蝶をほうきの先端に乗せ、魔力を安定させる。
小さく深呼吸をしてから浮遊させた。
「行きますよ」
そうして、合流場所へ向けてほうきを走らせた。
・・・・・
東島の東側。
そこは塔のように高いビルが建ち並ぶ中央から西側にかけての地域とは異なり、多くの自然が残っています。
私達がいるのは自然公園で少し高い崖の上から地球が丸く見えるらしい場所にいました。私は見えないのでどう見えようが関係ありません。
夜の冷たい海風が気持ちいい場所です。
私はベンチに座っています。いえ、正確にはベンチに座っているとある女性の膝の上です。
その女性は風車さん。紗倉見のクレマチス家の協力者です。
とてもスキンシップが激しくて、ずっと後ろから抱きつかれて頭をなでられています。
もう一人の協力者、鉄線さんという男性は離れた位置から辺りを警戒していました。私達の密入国がバレて追っ手が来ていないかの警戒です。
「そんなに心配しなくてもいいのに」と風車さんは言いました。
ムッとしてこちらを振り向きます。
「明け暮れだって動き出してるんですよ。警戒するでしょう。それになでるのを止めてください。そうやっているから我々の正体がバレたんです。少しは気をつけてください」
でも、風車さんは止めてくれません。
「嫌。心を読める人なんて滅多にいないんだから大丈夫だよ。ねぇ、ユメちゃん」
何のことを言っているのか分かりませんが、今回は風車さんの味方をすることにしました。彼女の使っているであろう香水の香りが好きだったので・・・。
「そうですね。問題ないと思います」
「そうだよねそうだよね。分かってるなー、ユメちゃんは。可愛いなぁ。結婚するならユメちゃんみたいな可愛い子がいいなぁ。子供もきっと可愛いんだろうなぁ」
・・・え?この人は何を言っているのでしょうか?
鉄線さんも「何を言ってんだ?こいつ」みたいな表情をしているのが分かります。
二人は警備隊・・・ここでは魔法隊でしたか?それに所属していて、さらにクレマチス家のお仕事もしています。忙しくて大変そうですね。
さて、それはそうとさっきから気配を感じます。
私は小さな声で「監視されてますね」と二人に伝えました。
「そ、そんなはずは・・・」
鉄線さんは分かりやすく動揺して辺りを見回しています。
警戒していたみたいですが、ほとんどの人は見つけられないでしょう。それくらい完璧な潜伏です。
「うーん。私が気づけないなら、小禄ちゃんかもね。あの子も可愛いんだ。結婚したい」
そう言って、なぜか私をギュッと強く抱きしめられます。
「あのー、鉄線さん。助けてくれませんか?」
「もう少し我慢してください。そうしている間は大人しいので」
私のことなど気にもせず、鉄線さんは探知系の魔法を使って探しているみたいです。かなり悔しかったのでしょう。いることが分かっても見つけるのは無理だと思いますが・・・。
「小禄って公認魔導師の喜屋武小禄さんですよね。大丈夫なんですか?」
公認魔導師は命令1つで容赦なく殺しにきます。
この状況は危険です。特に私は抱きかかえられて動作が遅れてしまうでしょう。それが命取りになるかもしれません。
「ん?大丈夫だよ。今の指揮権は魔法研究所。私の師匠がやってるから警告なしに殺しはしないと思うよ」
・・・本当ですかね?こんなので死ぬのは嫌ですよ。
「明け暮れや魔法研究所は私達がクレマチス家の協力者って知ってる。まぁ、バレたって言った方がいいんだけど・・・それも含めて対応してくれるよ。クレマチス家としてお仕事をする時は申請をすることを条件に見て見ぬ振りをしてくれているんだ」
国の重要な機関がクレマチス家の活動を認めているということでしょうか?紗倉見。本当に変な国です。きっと何かしら見返りがあるのだと思います。
「でも、今日は急に2人が来たから申請できてないんだよね。記録は改ざんしておいたけど・・・どこの誰かさんが問題を起こらなければ何ごともなかったんだけどね」
そう言って頬を引っ張られました。
「ごべんなざい」
謝りましたが、あれは事を大きくしたヤヤさんがいけないと思います。私は悪くないと思います。たしかに正式な手続きをしなかったのは良くなかったですが・・・。
「小禄ちゃん。出ておいでー」
風車さんは大きめの声で呼びます。しかし、向こうに動きはありません。風車さんは続けました。
「早く出てこないと婚姻届を書いて提出しちゃうぞー」
・・・何ですか?それは。
しかし、次は反応がありました。
「こんばんは」
ほとんど音もなく私達の前に現れました。
顔は笑っているような形をしていますが、冷たい殺気を感じます。少しでも不審な動きをすれば殺しにくるでしょう。
「それで出てくるのはお姉さんちょっとショックだなー」
この状況でまだふざけたことを言う風車さん。
「後々、面倒なことになりそうなので」
小禄さんは数メートル離れた所で止まります。得意な間合いなのでしょう。
この場に公認魔導師の経験者は3人。
私と小禄さん、そして風車さん。風車さんは元公認魔導師なのは驚きました。
鉄線さんはどのくらい付いてこれるでしょうか?
戦闘が始まったら、どう転んでも周囲は大惨事になることでしょう。公認魔導師の魔法戦闘はそのくらい激しいものです。
「・・・怒ってる?」と風車さん。
「当たり前です。クレマチス家のことは聞いていましたが、先輩方が問題を起こすとは思ってませんでした」
「いやー、ごめんね。こんな大騒ぎになるとは思わなかったから・・・それで明け暮れはどうするつもり?」
「今の指揮権は魔法研究所です。どうするかはあなたの師匠が判断するでしょう。もうすぐ連絡が来ると思いますよ」
それを聞いた風車さんは小さく息を吐きました。私の髪に当たります。
「それは怖いな。どうにかしてくれない?」
「簡単な方法がありますよ。不法入国者を殺せばいいのです。今回の命令は不法入国者、二人の監視と状況に応じて処分すること。私が殺せばこの一件はおしまいです」
・・・何だか嫌な言い方でした。不法入国者ではありますが、処分と言わなくてもいいと思います。
私は腕を振りほどき、立ち上がりました。座っていてもいいことはないでしょう。
「ヤヤさんもそうですが、紗倉見の公認魔導師は血の気の多い方が多くて嫌になりますね」
魔力をまとい、威嚇しようとしました。・・・が、風車さんに抱き寄せられてまた座らされます。
「それはユメちゃんもでしょ。でも、そんなところも好き」
顔を私の背中に押し付けてグリグリしてきます。
いい加減、止めてほしいです。
「私達は大人しくしてるよ。安心して」
「今のところは何もしませんよ」
その時、小禄さんの端末が鳴ります。
小さくため息を吐いてから電話に出ました。
「はい。喜屋武小禄です」
偉い人からの電話でしょう。少し話して「分かりました」と電話を切りました。
「今回の件、この後に何もなければ、あなた達を見逃すことに決まりました」
「そう。やっぱりね。師匠は可愛い弟子には甘いんだよ」
嬉しそうな風車さん。
「代わりに、塔莎帝の件でクレマチス家の協力者を魔法研究所の指揮下に置くみたいです」
「ふーん、私達をこき使うつもりだね?」
今回の塔莎帝の後片付けとかさせられるのでしょう。
「そのようですね。それと風車先輩はアンノウンの殲滅にも協力してもらうみたいです」
「・・・え?」
風車さんがピクッとしました。動揺しています。
「ちょっと待って。私、対人戦はともかく、化け物とか無理だよ」
「あなたの師匠に言ったらいいんじゃないですか。私は知りません」
「うぅ・・・そんなぁ」
ガクッと頭が私の背中に乗ります。・・・私の匂いが嗅がれている感覚。いえ、気のせいってことにしましょう。
・・・シェリーの気配が近づいてきます。やっと来ましたか。
でも、どうやらほうきの後ろに誰かを乗せているようです。
「お待たせしました」
シェリーは地上に降りて着地します。かなりうまくなりました。まだ浮いているほうきから誰かを下ろします。
「すまない。助かった」
「いいえ。大丈夫ですよ」
何者かはお酒の香りがします。でも、酔っている様子ではありません。夜風に当たって酔いが覚めたのでしょうか?
その誰かに最初に反応したのは小禄さんでした。
「何をしているんですか?葉月さん?」
さっきの脅しの時とは比べようがないくらいの殺気です。ぶち切れています。
「酒で頭が痛くてな。ほうきに乗せてもらったんじゃ」
「仕事中ですよ?なぜ監視対象と一緒に来てるんですか?」
状況がよく分かっていないシェリーはここにいるみんなの顔を順番に見て、どういうことか知りたそうにしています。
「え?どういうこと?」
「私達は西島から監視されていたんです。この二人に」
私は優しいので教えてあげました。
「嘘でしょ?全然気がつかなかった」
私達の会話は小禄さんには聞こえてないみたいでした。ものすごい至近距離で睨んでいます。誰かさんは困ったように苦笑いをしていました。
パンパンと手を叩く音がします。風車さんです。
「そんなことはどうでもいいじゃない。みんなそろったし、始めましょうか」
そう言って私と一緒に腰を上げて一冊の本を出しました。
クレマチス家の守護獣、リーラーです。本のような見た目ですが、魔獣です。
子供が描いたような大きな丸とその中の小さな丸で構成されているらしい目が現れて、線と丸だけの手足がニョキッと生えます。
奇妙な笑い方をしてから私達を飲み込めるくらいの大きさに巨大化しました。・・・そう。これから私達はこれに呑み込まれるのです。
小禄さんはこれを見ても驚きもせず、警戒を続けています。流石です。
「みなさん。ご迷惑をおかけしました」
ペコペコしながら大きく開いた口に入っていくシェリー。私も続きます。
「次に会う時は結婚前提でお願いね」
「無理ですかね。でも、また遊びに来ます」と、苦笑いのシェリー。
「その時は違法行為をせずにちゃんとに手続きをお願いしますよ」
嫌味を言うようなトゲのある言い方でした。
「はい。次は気をつけます。では、さようなら」
そして、私達は丸呑みにされたのでした。
「はい。では、これで上がります。失礼します」
通信を切ります。そして、小さくため息。
ようやく、訳の分からない一件が終わりました。
問題の二人の方を見ます。
クレマチス家の人達がいなくなってから二人と神様を怒りました。なぜ、いい年をした大人を怒らなければならないのでしょう。
鉄線さんは反省した様子ですが、風車さんはいつもの調子です。ニコッと笑っています。
この人が一番反省しないといけないのに・・・。まぁ、後で師匠に怒られるでしょう。
「終わった?」と近づいてくる風車さん。
「はい。この時期に勝手な行動は止めてください。私達も忙しいんです」
「ごめんなさい。急だったから」
抱きつこうとしてきたのをかわしました。
「もういいです。私は帰ります。さようなら」
「じゃあね。今度会った時は結婚しましょう」
「嫌です」
ちゃんとに否定しておかないと面倒なことになります。このやり取りがあまり好きではなく、風車さんは苦手です。
「小禄。すまなかった。でも、あやつは悪い奴ではなくてな・・・」
「・・・帰りますよ」
うなづいて私とほうきに乗りました。
だいぶ、お酒が抜けたみたいです。さっきまで二日酔いしていたのを見ると、朝方までずっと飲んでいたのでしょう。実体にまだまだ慣れていないのか分かりませんが体調不良はかなり長引きます。今回は早い方かもしれません。
嫌な空気感の中、ほうきを走らせます。
神様は私に後ろから離れようとしません。いつもなら横向きで乗って足をバタバタさせているのに。
怒ったのが良くなかったのでしょうか?いいえ、この仕事は命に関わるのです。今回みたい監視任務で対象の前に出ていくなんてありえません。・・・でも、この続きはまた後でいいでしょう。
「葉月さん」
「・・・なんじゃ?」
怒られた後に頑張ってしゃべる子供のような感じの声でした。
「明日はお休みになりました。夜はヒミオヤ倶楽部があるのでそれまで時間があります。後は分かりますよね」
落ちないように腰に回された手の力が少しだけ強くなったような気がしました。
「・・・少し飛ばしますね」
速度を上げました。
明明後日が本番です。明け暮れに入って半年くらい。この立場で大きな作戦を体験するのは初めてでした。
今回は補助的な立ち位置ですが、事態によっては戦うこともあります。ある程度の覚悟はしておかなければいけません。
冷たい風を感じます。魔法で体を温めているので涼しいくらいです。
背中には神様を感じます。本来ならこの世に存在しない私だけの温もり。この幸せのために後もう少し頑張りましょう。
神様とずっと一緒にいるために・・・。
しばらくはこっちを中心に進めていくつもりです。まずは一章を終わらせたいと思ったからです。でも、よくくじけるのでもう1つの方も進めてはいきます。結局、いつもと変わらないかもしれません。




