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塔莎帝の件で防衛省はずっと騒がしい。
あれから色々な調査が行われて、紗倉見の地中深くにトンネルがいくつもあることが分かった。
その情報は厳重に扱われていたのだが、やっぱりどこからか漏れたみたいで今はどこのメディアもそのことばかり報じている。
まさか、この国がここまでヤバいことになっているとは誰も思っていなかっただろう。
国のお偉いさん達は対応に追われている・・・とは言っても、忙しいのは魔法隊などの職員達だけであって政治家とかは動かない。正確には動けないだけど・・・。
この国は魔法の使えない政治家が多い。魔法による格差などを訴えて当選している人が多く、魔法が使えない人の代表者として活躍していることになっている。
実際は自分より魔法が使える魔法隊を指示して自己顕示欲などを満たしたり、危険な仕事をさせて自分は安全に暮らしたり、または、お金のことしか考えていなかったり・・・。
いつの時代もろくでもない奴がやっている。どんなに無能な奴が政治をやっていてもある程度は国が成り立つんだから人間はすごいと思う。
この東島には強力な結界を張っていて、インドラの矢を落とされても問題ない。
でも、何度も何度も連絡してくる。
「神楽君、東島は大丈夫か?」
みんな口をそろえて聞いてくる。
自分達の楽園が脅かされるのが嫌なのだろう。
世界中で起こっている魔法による残虐な行い。それが紗倉見で起こって自分の身が危険なのではないか?と心配なのだ。
テロなどの一部で発生する事件は対応出来るが、今回のように国全体が脅威にさらされる場合は魔法のことに詳しい魔法研究所に協力を仰ぐ。ってことになっているが、ほとんど魔法研究所が指揮することになる。
今、大きな混乱がなく魔法隊が動けているのもそのお陰だ。
私は机の上に置かれた今回の作戦計画書を見ていた。
いつも通りの作戦。ただ、今回は私も協力することになっている。
塔莎帝は世界中に根を伸ばしていて世界規模の魔法が必要になる。そこで私が活躍するというわけだ。・・・真也は本当に無茶を言う。
真也もアカデミーにいた頃は小っちゃくて可愛かったのに今となっては一人前の公認魔導師。上司である私にもグチグチ言うようになってきた。嫌なものだ。
・・・知らない魔力を感じる。でも、何となく想像はつく。それはゆっくりと近づいてきて待機室の前まで来た。
扉が開いて黒い蝶が入ってくる。
「久し振りだね。シェリー」
ソファーの上に止まると変身魔法を解いて黄檗色の髪をした女の子が現れる。
シェリー・ミッチェル。生意気な女、エルダ・ミッチェルの娘だ。
「どうですか?私も成長しているんです。褒めてください」
いきなり面倒くさいな。久しぶりに会って一言目がそれか・・・。
「あー・・・頑張ってる頑張ってる」
棒読みで褒めるとムッとしていた。
「もー、勘弁して。だんだんエルダに似てきたよ」
「親子ですから仕方ないです。さて、こんにちは。久し振りですね」
さっき連絡が入っていた西島で起こった騒ぎはもしかしてシェリーの仕業なのでは?エルダもやらかし癖のある魔法使いだったから・・・。まぁ、何でもいいか。私には関係ない。
「元気そうで良かった。アンノウンの進行の時は心配してたんだよ」
シェリーはまたムスッとして言った。
「なら、助けに来てくださいよ」
「私は忙しいの・・・」
話題を探す。・・・そうだ。言いたいことがあったんだ。
「話は変わるんだけけどさ。あなたのペア・・・えーと・・・クレマチス家の・・・」
名前を忘れた。
頭をトントン叩いて思い出そうとする。
「メアリーですか?」
「そう。メアリー・クレマチス。あの子、やってることヤバいでしょ。国を乗っ取るなんて・・・」
シェリーと一緒にいたあの子。色々と言われたけど、人見知りで大人しい子に見えたんだけどな。
「楸さんがやったこと、やろうとしていることに比べたら優しいと思いますよ。本当はあんなことをする人じゃ・・・いや、する人か・・・」
ペアとして苦労してるんだろうな。
世間的にもずっと表舞台に出てこなかったクレマチス家がいきなり現れて国を乗っ取ったり、侵略者である自称神様を初撃破するなどの活躍。嫌でも注目される。
彼女には色んなモノが集まってくるだろう。それがいいモノであるとは限らない。悪いモノの方が多いだろう。
「近くで見ていてあげなさいよ。大切な人なんでしょう?」
「・・・まぁ、そうですね」
少し声が小さくなる。恥ずかしかったのかな?
これで動揺したのか、まだ制御がうまく出来てないのか分からない。たぶん、シェリーは紙をキューブから取り出そうとしたんだと思う。紙の束が大量に手元にあふれ出て部屋中に散らばった。
「ああ、ごめんなさい」
あわてて立ち上がってかき集めようとするシェリー。
「仕方ないわね」
魔法で机の上に集めてあげた。最初にかき集めようとする辺り、まだまだ魔法には慣れていなさそうだ。
紙束はかなりの高さがある。その内の1枚を手に取った。勧誘のチラシだ。
「・・・こんなに配るつもりだったの?」
「いいえ。作り過ぎちゃったんです。印刷する時に桁を間違えちゃったみたいで・・・メアリーが・・・」
「・・・そ、そう」
・・・仕方ないな。
5枚くらいもらった。
「これくらいなら私が何とかしてあげよう。感謝しな」
適当な掲示板に貼っておけばいいだろう。
「ありがとうございます」
シェリーを座らせて本題に入ることにした。
「で、何で紗倉見に来たの?」
「色々とありますよ。観光とかウニットを支援してくれた人に挨拶をしたりとか・・・」
指折りしながら教えてくれた。そして、最後は私に会いに来たと言う。・・・まぁ、そうだろうな。
「私もメアリーみたいに場をかき乱してみたくなったんです」
「ふーん。で、私に会ってどうするの?」
「命乞いをするんです」
シェリーは座り直して姿勢を正し、真剣な表情で私を見た。
「楸さん。私を渡し舟に乗せてください」
三年目、最初の更新です。予定では30話くらいには第一章が終わるので頑張りたいです。




