22
何があったのだろうか?
プンプン怒って出ていった南君が戻ってくると嬉しそうな表情でルンルンしている。
私は海帆、さっき出勤してきた夜々とその様子を眺めていた。
何度も茶封筒を見つめては抱きついている。そして、たまにクルクルしている。
海帆はバチバチになる覚悟をしていたので拍子抜けしていた。しかも、作戦の参加まで許可してくれたみたい。何を考えているのだろう?多くの心を覗いてきた私でも分からない。
「・・・南君も疲れてるんだな」
「どういう意味よ・・・まぁ、でも許してあげましょう」
一瞬だけ睨まれたけど、すぐに上機嫌に戻る。本当におかしい。
「私はこれから用事を頼まれたからパトロールをお願いね。お昼にパールで待ち合わせしましょう。今日はおごってあげる」
ニヘヘとずっと笑っている。マジで気持ち悪いんだけど・・・。
「え?本当に大丈夫?真剣に聞いてるんだよ」
「ええ、今日は気分がいいの。じゃあ、行ってきます」
そう言って部屋から出ていく。
私達は顔を見合わせた。変な空気が流れている。
「相当、浮かれてたね」と夜々。
「う、うん。えーと・・・パトロール・・・行こっか?」
特にやることもなかった私達は外を歩くことにした。
葉月はまだ宙を漂いながら眠っていた。
それなりに寒いですが、太陽も出ていてとても良い日です。
こんな日が毎日のように続けばいいと思います。
私は魔導師の命令書を持って舞木の家へ向かっていました。
どんな形であれ、また一緒に仕事が出来るのは嬉しいのです。
固有魔法の羽衣でフワフワと舞いながら家の前まで来ました。
きっとこの時間はアトリエにいるでしょう。
そちらの玄関へ行くとドアノブに蝶々?ような何かが止まっていました。
黒い宝石のように綺麗な体をしていて数秒間、見つめていました。きっと吸い込まれる感じとはこのことを言うのでしょう。
少し魔力を感じます。でも、不安定な魔力です。
触ろうとするとそれはヒラヒラとどこかへ飛んでいってしまいました。
また舞木の変な発明でしょうか?
まぁ、そんなことはどうでもいいのですね。
私は扉をドパーンと勢いよく開きました。
「舞木、来たわよ」
返事を待たずに中に入ると、舞木と見たことのない女の子がいました。
どうやらお茶をしているみたいです。
引きつった表情で私を見る舞木。
女の子は「こんにちは」と座ったまま頭を下げてくれました。
「こんにちは」
本当に誰でしょう?舞木の関係者で私が知らない人なんてほとんどいないと思います。
その子は立ち上がってこちらに来ました。
黄檗色の髪に中性的な顔立ち、背は高く舞木と同じか少し小さいくらいです。目立つ水色のとんがり帽子とローブを羽織っていました。
「初めまして。シェリー・ミッチェルと言います」
ミッチェルさんは笑顔で手を差し出してきました。
私はそれを握ります。温かみのある感触でした。
「千疋南君です」
「ああ、あなたが・・・」
私のことを知っているみたいです。
最近、会う人会う人に同じような反応をされています。
まぁ、私は紗倉見の公認魔導師ですし、知っている人は知っているでしょう。
「そうだ。良かったらこれをどうぞ」
渡されたのは一枚の紙。勧誘のチラシでした。
「張り切って作り過ぎてしまいまして・・・一回くらい読んでみてください。みんなで作ったんですよ」
それはウニットの魔導師募集でした。
・・・ウニットですか。
アンノウンに侵略されたママルル大陸。そこで人類が唯一、防衛することが出来た場所です。ちょっと前に自称神様にも侵攻されて何とか耐えきったみたいな話を聞きました。
魔導師の勧誘。私は受けたことはありません。真珠さんに指導を受けていた時も公認魔導師になってからもです。
魔導師の引き抜きはよくあると聞きます。特にどこにも所属していない魔導師にはしつこいくらいに話がくるみたいです。例えば、海帆とか舞木とか・・・。
まさかと思い、舞木を見ます。すぐに顔をそらされてしまいました。
「では、私はこれで失礼しますね。舞木さん。改めてありがとうございました。それと例の件を考えてみてください」
「はい。でも、お礼とかいらないですよ。私がやりたくてやっただけなんで」
「それでも、私達は助かりましたから・・・。また来ますね。さようなら」
「はい。さようなら」
ミッチェルさんは一礼して帰りました。私も何となく礼をしました。
扉が閉まると式紙達が神札を作る作業音だけが聞こえる。
気まずい。てか、何しに来たんだ?まだ、仕事中だろう?・・・まぁ、いいか。
小さく息を吐いて神札シリーズの作業を再会する。
「ねぇ、例の件って何のこと?」
小さい声だった。けど、とても力が込められている。
振り返ると、南君が目の前まで来ていて思わずに2、3歩、後退りしてしまった。
机に当たって逃げ場を失う。
「千疋さんには関係ない」
「・・・勧誘でしょう?」
「そういうのじゃないから」
「じゃあ、何なの?」
面倒なことになったな・・・。
もう何なんだよ。本当に・・・。
「何で隠すの?私のこと、そんなに嫌いなの?」
何で嫌いってことになるんだよ。嫌いだけどさ。
「別に嫌いではないけど・・・」
「噓よ。あれの時から私を南君って呼んでくれなくなったじゃない」
やっぱり気にしてたんだ。
正直、もうそんなに関わりたくないし、前みたいに戻れるとは思えないから距離を置いていた。
別々の道を歩くのがお互いのためだと思う。
「私を避けてばっかで無視までして」
「この前、会いにいったでしょ」
「すぐそうやって誤魔化す」
私もイライラしてきた。
迫ってくる南君を強く押した。
「仕事があるから帰ってよ。出荷を遅らせる訳にはいかない」
それを聞いた南君は恐ろしい形相で「もういい。帰る」と言って出ていった。
扉を開けっぱなしで・・・。
閉めて帰れよ。と思いつつ、魔法で閉める。
ドッと疲れた。大きなため息が出る。
・・・タバコが吸いたい。
もう吸っていないが今でもたまに吸いたくなる。昔はそうでもしないとやっていけなかった。
式紙達にコーヒーを作ってもらう。
それを飲みもう一度、ため息を吐く。
・・・あいつは本当に何しに来たんだ?
町は明らかにいつもと違う空気でした。
数日後には塔莎帝との戦いが始まります。そのための買い溜めや避難の準備などでピリピリしているように感じました。
魔法隊も技術部門の方が全国のカランコエの塔の点検作業をしたり、飛行部隊の方々が演習を繰り返しています。
私と柊はパトロールで町中を歩いています。
夜々は一人で飛び回りたいみたいで、どこかへ行ってしまいました。
柊は寒い寒いと言いながら歩いています。
温かくする魔法はいくつもあって私も何個か使えますが、柊の体質ではすぐに効果はなくなるのです。
ほんの数秒だけ。それでも最初の頃は一切、効き目がなかったので成長?しているということなのでしょうか?
突然、前を歩いていた柊は立ち止まって振り返りました。
「誰?」
私も振り返ります。
そこには空色の三角帽子をかぶり、ローブを羽織った少女がいました。
「こんにちは。初めまして。私はシェリー・ミッチェルと言います」
全く気配がありませんでした。
気配を消す魔法の類いでしょうか?
・・・違和感があります。何かを強引にねじ曲げているような初めて感じる感覚です。
シェリーさんは優しく笑っていました。でも、違和感もあってそれが怖く見えます。
「今日は水浦海帆さんにお話があってきました」
・・・私に?
浮遊魔法で1枚の紙をくれました。
「ウニットへの勧誘です。人手不足で世界中の優秀な魔導師に声をかけているんですよ」
私達の間に柊が割って入ります。
「公認魔導師の隣でよくそんなことが言えるね」
シェリーさんは柊の力の範囲内。その気になればいつでも拘束できます。
「明け暮れでしたっけ?海帆さんは正式に所属している訳ではないですよね。逆井柊さん」
柊のことも知っているようでした。公認魔導師全員の情報を知っているのでしょう。でも、それならなぜ範囲内に入ったのでしょう?
「逆井さんも大歓迎ですよ。八声さんと一緒に来てくれるならもっと嬉しいです」
「舞木にも声をかけたのか?」
「はい。ウニットに神札シリーズを送ってくれたお礼が目的でしたけど、ついでにです」
その時でした。強い殺気が一瞬でシェリーさんの真横に飛んできました。南君さんです。
「見つけた」
「千疋さん。さっき振りですね」
どうやら二人は会っていたみたいです。
「勝手な勧誘は止めてもらえないかしら?」
「怒られるような強引な勧誘はしていませんよ」
公認魔導師の二人に囲まれても態度は変わりません。
シェリー・ミッチェルさん。本当に何者なのでしょうか?
「南君。それは本人じゃない。限りなく本人になるように変身魔法をかけた何かだ。たぶん、固有魔法を変身させたのかな?」
シェリーさんではなく、変身している何かは拍手をします。
「すごいです。まさか、気付かれるとは・・・。どうですか?苦手なんですが、頑張って魔法を使ってみたんですよ」
だから、気配を感じなかったり違和感があったのでしょうか?それだけではないと思います。まだ何か・・・。
その時、強い魔力が解き放たれ、離れた場所から火柱が発生します。
この魔力は夜々?
「では、私はこの辺で失礼しますね」
変身魔法が解けて現れたのは黒い宝石で作られた蝶でした。
柊は終世界でそれを破壊します。
「まずはあれの対応ね。私が先に行って様子を見るから海帆は柊と来なさい」
そう言って南君さんは飛び立ちました。切り替えが早いです。
柊は「海帆。行くぞ」などと言ってますが運ぶのは私です。
・・・今日は本当にどうなっているのでしょう。・・・何だか疲れました。
・・・・・
ー火柱が上がる少し前ー
私は起きました。普段なら寝ている時間帯です。
シェリーに無理矢理に連れてこられたので睡眠不足だったりします。
紗倉見は比較的安全な国ですが、見知らぬ土地で寝てしまうのは良くありませんね。それだけここが過ごしやすい場所でした。
喫茶店パール。
夏海と海樹がオススメしてくれたお店です。
聞いていた通り、料理も美味しくてお店の人も優しい人でした。
大きく背伸びをしてから私は問題が起こったことに気がつきます。
一緒に来たシェリーがいないのです。どこにいったのでしょうか?
・・・まぁ、いいでしょう。
「お会計をお願いします」
レジの前まで行くと「お支払いは済まされています」とお店の人が言います。
「・・・そうですか。ごちそうさまでした」
「ありがとうございました。また、お越しください」
店を出ました。お金を払ったのはシェリーでしょう。お会計はそれぞれと決めているのにいつも勝手に私の分まで払おうとしてきます。・・・全く。
もう一度、確かめます。やはり近くにシェリーの気配はありませんでした。
端末で連絡を取ればいいですが、少し潮風を感じながら町を飛び回ってみたい気分です。まぁ、すぐに合流できるでしょう。
跳んで屋根へ。海から運ばれる冷たい潮風が体を震えさせて気持ちよく感じます。
そのままピョンピョンと屋根の上を跳んでいるとすぐに声をかけられました。
「あなた、何をしているの?」
・・・私はその声を知っています。
空に浮いているその少女は腕を組んで見下ろしていました。
「ヤヤさんですか」
ヤヤさんは驚いたような動きをしています。
「・・・もしかして、ユメ?」
やっぱりそうでしたか。
噂でどこかの国の公認魔導師になったと聞いたことがあります。興味が無かったので忘れていました。
「違法な運び屋が国が変われば公認魔導師ですか。人生とは何があるか分かりませんね」
「そうね。あの時とは真逆ね」
首を傾げます。
「私は違法な運び屋ではありませんが・・・」
「この国では屋根に上に乗ってはいけないの」
・・・そうでした。ずっと癖でやっていましたが、国によってはダメなんでしたっけ?
「そうですか。知りませんでした」
地上に降ります。
ユメさんも降りてきました。
「もうしませんから今回は注意で済ませてください」
違反者側の言えることではありませんが、言ってみました。
「私の時は見逃してくれなかったじゃない」
「違法な薬を運んでいたのに見逃せる訳ないじゃないですか。馬鹿なのですか?」
それを聞いてヤヤさんの顔が引きつっています。言い合いは私の方が得意です。
「公認魔導師としては私の方が歴は長いですし対応も知ってます。この程度のことで騒ぎ立てるのはよくないのでは?」
警備隊ならもしかしたら連行されることもあるかもしれません。まぁ、この程度なら厳重注意くらいでしょう。少なくとも公認魔導師の仕事ではないはずです。
「まぁいいや。パスポート見せて?」
寄越せと手をクイクイしています。
・・・考えられる中で一番嫌な言葉が出てきました。
シェリーにとあるルートから連れてこられたので持っていません。
裏で正式な手順を踏んで入国したことにはしてもらっていますが、なかったら大問題ですよね。
「いや、それは別にいいのでは?」
「何?見せられない理由とかあるの?」
見せられないではなく見せる物がないのです。
「公認魔導師の先輩として・・・」
「何?連れてくけどいいの?」
・・・もう逃げるしかないでしょう。
クレマチス家の協力者には迷惑をかけてしまいますが、ここまで来たら仕方ありませんね。
「炎よ」
一瞬でした。そううまくはいきません。
私達をグルッと炎の壁が囲いました。空高くまで伸びていて外から見たら柱のように見えるでしょう。ここ、町中なんですけど・・・。
「あの時の決着もまだだったし、ここで捕らえて全部吐かせてやる」
本気のようですね。
私も身体に魔力をまといます。
「あなたは公認魔導師失格です。感情に任せて魔法を使うなんて初心者じゃないんですから」
外からは突然の出来事で混乱している色んな音が聞こえます。
この国の警備隊の方が来るのに時間はかからないでしょう。
ヤヤさんが魔法を発動しようと口を開いた瞬間、炎の壁を黒い蝶が無理矢理に突破してきました。
その蝶は私達の真ん中でシェリーに戻ります。
「ちょっと何やってんの?これ、まずいでしょ」
「すみません。すぐに終わらせますから」
シェリーは私が顔を向けている先を見て、ヤヤさんに気が付きました。
「ヤヤさん。・・・久し振りだね」
「あなたはシェリーだったよね。二人そろって何やってるの?そもそも、どうやって炎を・・・」
そう思うのも当たり前です。この壁を普通に通過したら丸焦げになるでしょう。こんなことは言いたくありませんが、とても強力な魔法なのです。
「それは・・・まぁ、色々と・・・」
困ったように笑って誤魔化そうとしています。
「まぁいいわ。そいつを渡して」
「それはちょっと困るなぁ・・・ユメ。問題を起こさないでよ」
それはそうですが、起こってしまったものは仕方がありません。
「問題ありませんよ。1分あれば終わります」
シェリーを下がらせて前に出ます。
「待って・・・え?戦うってこと?」
「私は30秒あれば十分よ」
「子供ですか。そんなことで張り合って」
「ちょっと止めようよ」
シェリーは私の腕にしがみついて止めようとしてますが、ここまで来たらもう無理です。
「嫌です」
シェリーの手を払いのけます。
「もうみんな自分勝手なんだからーーー」
シェリーは黒い蝶を無数に発生させます。
次の瞬間にはヤヤさんはゆっくりと地面に倒れていました。そして、炎が消えていきます。
これはシェリーの固有魔法。
「逃げるよ。早く」
私はシェリーを抱きかかえて屋根へ跳んで逃げます。
シェリーは蝶の力を使って神札シリーズの煙幕を何倍もの威力に変え、視界や魔法による探知を無効化します。
「どこへ逃げますか?」
「東島。最後の用事を終わらせてから協力者に合流しよう」
「分かりました」
シェリーの顔を見られません。
「ごめんなさい。反省します」
「大丈夫。慣れてるから」
笑っていました。
こういうことには慣れているんだと思います。後で何かしら埋め合わせを・・・いえ、無理矢理に連れてこられなければこんなことにはならなかったのでは?お互い様ってことにしましょう。ええ、そうしましょう。
炎の柱がなくなってから数秒後に私達は駆けつけました。
また、あの黒い蝶が飛んでいます。
そして、夜々が倒れています。
柊はすぐに夜々に触れて体に異常がないか確認しています。呪いのような良くない魔法がかけられていないかの確認です。
海帆は空に広がる煙を払っています。
そこに魔法隊の人達も駆けつけました。
「すぐに夜々を明け暮れへ運ぼう。寝ているだけっぽいけど、念のため診てもらうよ」
「ええ、ありがとう」
集まってきた魔法隊のリーダーに声をかけます。
「この混乱を静めて事後処理を頼める?報告は後でするから」
「分かりました」
魔法隊は言った通りに動いてくれました。
「嫌だな本番前に色々と・・・」
柊はため息。
「そうね。海帆。真也さんへの連絡は?」
「もうしました」
「ありがとう。まずは戻りましょう」
お昼どころではなくなってしまいました。
空高くに小禄が飛んでいるのが見えます。きっとあの人達を追っているのでしょう。
舞木のこともあって、さっさと今日が終わってほしい気持ちになりました。
6月で初投稿から2年経ちました。3年目も頑張りたいと思っています。




