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クムパプユアネ_World:M  作者: 浮巣つぬ
明け暮れ
27/49

21

 千疋南君、帰国しました。

 久し振りに感じる紗倉見の空気はとても冷たくて着込んでいても身震いしてしまいます。

 ケレーディアは暑かったので変な感じです。・・・まぁ、数日間は寒かったですけどね。

 塔莎帝の件もあるので体調を崩さないように気を付けないといけません。

 空港の玄関口へと向かいます。

 今日の夜勤は海帆と柊が担当していたはずです。会うのは明日になるでしょう。

 ・・・海帆とはどう接すればいいでしょうか?

 ため息が漏れます。

 泣かせてしまったり、無理矢理に眠らせたり、ヒドいことをして置いてきぼりにしてしまいました。明日は覚悟しなければなりません。

 こんなことなら経験を積ませるために連れて行った方が良かったです。

 ・・・全てが終わった後にそんなことを考えても仕方ありませんね。帰ってゆっくり休みましょう。

 そんなことを考えながら歩いていると私を呼ぶ声がしました。

「南君さん」と、ハッキリと聞こえます。間違いありません。私の大切な弟子、海帆の声です。

 声のする方を向きます。

 それと同時くらいに抱きつかれました。海帆の感触が伝わってきます。

 もう一度、私の名前を呼んで「お帰りなさい」と嬉しさと悲しさの混ざったような笑顔をしていました。

「た、ただいま」

 突然で驚いたこともあって思ったように声は出ませんでした。

「怒ってるんですよ。でも、それ以上に嬉しくて・・・」

 色々とあって無事に帰ってきていますが、もし私の中にある魔法を使っていたら戻れていたのか分かりません。ここまで私のことを思ってくれている子です。辛かったでしょう。

「ごめんなさい。心配させて・・・」

 頭をなでてあげます。

 一番心配していた問題は何とかなりそうです。良かった良かった。一安心です。

「今日は夜勤じゃなかったの?」

「真也さんが変わってくれました」

「そう・・・」

 海帆からしてみれば、真也さんが気を使ってくれたと思うでしょう。

 でも、それなりに明け暮れで一緒に働いている私には分かります。面倒なことを持ち込ませないようにしたのです。真也さんはそういう人ですから・・・。

「帰りましょう」

「はい」

 しかし、この時の私は全く気付いていませんでした。

 私がいない間、海帆がしていたことに・・・。




「南君がいない。海帆もいない。怒る人が誰もいない。こうなったら騒ぐしかないよなぁ」

 馬鹿がそんなことを言っています。僕が怒らないと思っているみたいです。

 昨日みたいにゲームをしていると柊が待機室へやって来ました。その後に舞木も「お疲れ様です」と言いながら入ってきます。

「うわー・・・」と、声が漏れてしまいました。

「まぁまぁ、夜勤なんだからいいだろ?」

 何がいいのか分かりません。

 僕は慣れているからこんなことをしているのです。柊とは違うのです。まったくまったく・・・。

 冷たい視線を送ってやりましたが気にしていません。

「何のゲームをする?」

 それは別としてゲームをすることにしました。

「あの複数人で戦うやつ」

 柊は弱いのに対戦系のゲームが好きです。僕とも何度もやっていますが勝てたことがありません。本人がそれでいいならいいんですけどね。

「ワシもいるぞ」と、天井からニョキッと顔が出てきました。神様です。このまま下に降りてきました。

 こいつら遊ぶことしか考えてないみたいです。

「あれ?小禄は?」

「家に着いたらすぐに寝てしもうた。最近、頑張っておるからな」

 小禄さんは特に忙しいでしょう。速達もそうですが、もう1つの仕事がいくつか前倒しになりました。明け暮れにはほとんど顔を出せていません。

「柊と違って忙しいんだよ」

 嫌味っぽく言ってやりました。

「ちゃんと仕事しなよ。首になったらどうするのさ?」

 舞木は昨日みたいに魔法で勝手に冷蔵庫を開けて冷えている飲み物を引き寄せています。

「真也さんと葉月さんは何を飲みます?」

 まるで明け暮れの一員かのように馴染んでいます。

「おさけー」と神様。

 ここに置いてある訳ないでしょう。

「僕はもうコーヒーがあるからいいや」

「分かりました。葉月さんはお茶でいいですか?」

 残念そうに「仕方ないのぅ」とため息を吐いていました。

 この様子だと出動要請がなければ朝方までやることになるでしょう。

 みんなの飲み物がそろって座ると、それまでずっと端末を見ていた柊が口を開いた。

「真也。調整はシフト係の私がするから十代組に休みちょうだい。南君も帰ってくるから大丈夫でしょう?」

「ん?任せた」

 もうすぐ本番ですし、それがいいかもしれません。戦いに備えて休みも必要です。柊も休みになっているのは大目に見ることにします。

 まぁ、南君が帰ってくるから大丈夫でしょう。

「すごい。柊が仕事っぽいことしてる」

 舞木は褒めているのか馬鹿にしているのか分からないことを言います。

「すごいでしょう」

 得意げな顔の柊。仲が良さそうでなりよりです。

「いいから始めるぞ」

 神様は早くやりたいみたいです。

「へいへい」

 それから、僕達はダラダラとゲームを始めました。



・・・・・



 ここは明け暮れの待機室の前。

 そこに私、千疋南君はいました。

 いつもなら何も考えずに入れるのになぜか少し緊張します。

 ペアの海帆は朝からどこかへ行ってしまいました。仕事があるとかなんとか・・・。私がいない間もこんな風にしっかりとやっていたのでしょう。海帆は優秀ですから色んな仕事を任されるのです。だから、魔導師にはなって欲しくないのですが・・・。

 ・・・こんなことで悩んでいる暇はありませんね。何かあっても柊に少しからかわれるくらいでしょう。

 扉を開けます。

「おはようございます」

 出来る限りいつも通りに扉を開けます。

 中に入るといつもと違う感じでした。

 神様がフワフワと浮遊しながら寝ていて、柊は机に突っ伏しています。

 ・・・それに少し舞木の匂いがするような。いえ、そんなはずはありません。気のせいでしょう。

「あぁ・・・おはよう」

 ゆっくりと顔を上げた柊は隈があって疲れ果てていました。まるで徹夜明けのような・・・。

「どうしたの?大丈夫?」

「・・・何とか」

 全然ダメそうですけどね。

 机を挟んで反対側に座りました。

「ちゃんとにやってたの?」

「・・・うん。海帆も頑張ってたよ」

 夜更かししていたようにしかみえませんけど・・・。

 疑いの目を向けますが、すぐに伏せてしまいました。

 コーヒーを用意してから、また話しかけます。

「で、帝の件はどうなっているの?」

 辛そうな声で「後じゃダメ?」と聞いてきたので「ダメ」とキッパリと返しました。

 ある程度のことは連絡されていましたが、作戦の内容など詳細な部分は分かっていません。

「やることはいつもと変わらないよ」

 大きな戦闘のある時はだいたい同じ作戦が行われます。

 私はそれがあまり好きではありません。最後の方が面倒くさいんですよね。

「それもそうね」

「後は誰が行くかって感じ」

 その言葉を聞いて何だか嫌な予感がしました。

「ねぇ、そう言えば海帆はどうなっている?」

「・・・え?もちろん、参加することになってるよ。内側でね」

 それを聞いて椅子の背もたれに寄りかかります。

 海帆と会うことばかり心配していて、そのことをすっかり忘れていました。今の海帆なら絶対にやると言います。

「おはようございます」

 そこに海帆が入ってきます。

 私は名前を強めに呼んで立ち上がって詰め寄ります。

「海帆。作戦に参加するの?」

「はい。そうですよ」

 当たり前のように言っています。

「私が立候補したんです。真也さんや桂一郎さん。防衛省や魔法研究所まで色んな所に行ってお願いしました」

 そんなことを私が許すはずがありません。海帆は明け暮れとは関係のない魔法使いなのですから。

「私は反対です。今すぐ作戦から降りなさい」

 強めに言いました。でも、海帆は余裕そうにしています。海帆のことです。私がこんなことを言うのまで予想済みなのでしょう。

「作戦はもう審査を通過しています。それには私が参加することになっています。つまり国は許可をしたってことです。南君さんではもう引っ繰り返せませんよ」

 歯ぎしりしてしまいます。私がケレーディアに行ってからこのために動いていたのでしょう。上の人達は海帆が早く公認魔導師になることを望んでいます。海帆の立候補なら簡単に許可が下りるでしょう。

 ここまで進んでしまっているなら海帆の言う通り私にはどうしようも出来ません。

「真也さんと話してきます」

 ほぼ八つ当たりです。

「無駄だと思いますけどね」

 海帆の煽るような言葉を無視して部屋を出ました。


 結局、僕達は朝までゲームで盛り上がってしまいました。寝不足です。

 夢中になると、まだ寝なくて大丈夫かな?が無限に繰り返されます。本当に良くない流れが続きました。少し仮眠を取りましたが、やはり眠いです。

 南君が帰ってきますし、今日と明日くらいは彼女に任せましょう。

 今は事務所でやらねばならぬ最低限の仕事やっています。これが終わったら待機室で寝る予定です。徹夜なんて馬鹿なことは止めようといつも思います。・・・止めないんですけどね。

 突然、バンッと扉が勢いよく開きます。そして、南君が入ってきました。

「おは・・・」

 挨拶をしようとしましたが、異様なまでの殺気で止まってしまいます。

 僕を見つけるとすごい剣幕で足早に近づいてきました。

「おはようございます。真也さん」

 顔は笑っていますが、明らかに怒っています。声色にも怒りが込められているようです。

「お、おはようございます。どうなされましたか?」

 ドンッと机を叩かれます。怖い・・・。

「海帆の件です。取りあえず、塔莎帝の書類をください」

「・・・はい」

 南君用に用意してあった物を渡します。それをペラペラ数ページめくってから「これ?何ですか?」と静かに言った。

「・・・はい?」

「どうして海帆が参加することになってるんですか?」

 ・・・やっぱりそうなりますよね。

「それは本人の希望で・・・」

「師匠であり、ペアである私に通すべきでは?」

 机をドンドン叩いたいます。今日はいつにも増して凶暴です。

「言ったら反対したでしょ?」

「当たり前でしょう」

 徹夜明けなのもあっていつもより辛いです。

 でも、こうなることは分かっていました。ちゃんとにとっておきの秘策を用意してあります。

 机の引き出しを開けて茶封筒を渡しました。

「この作戦はとても時間がかかる。それに中では何が起こるか分からない。だから、海帆さんの協力も必要だと思う。それに彼女の協力もね」

 この言葉に驚いた顔をして中身を確認する南君。

 中には魔導師への命令書が入っています。紗倉見の魔導師ならその命令を基本的に拒否できません。魔法のような書状です。

「これ・・・どうやって・・・」

 南君が驚くのも当然です。

 これの発行はかなりの手間と時間、厳しい審査が必要です。上も自分の命がかかっている訳ですから簡単に発行してくれました。

「上の人達もそれだけ焦ってるんだよ」

 南君はもう一度、その文章を確認しています。

「分かりました。海帆を連れて行きます」

「そう。良かった」

 かなり機嫌が良くなったみたいで茶封筒を抱えてクルクル回っています。幸せそうで何よりです。

「では、早速これを渡してきますね」

「うん。よろしく」

 さっさと部屋を出ていってしまいました。

 背もたれに寄りかかって天井を見ます。

「舞木、怒るだろうなぁ」

 今のうちに何を言うか色々と考えておきましょう。

 ・・・でも、これで予定通り作戦が実行できそうです。



・・・・・



 紗倉見西島の東地区。そこの北には高台にある公園があります。

 冷たい潮風に当てられながら、海を眺める二人の少女がいました。

 一人は背が高く、黄檗色(きはだいろ)の髪をしています。

 もう一人は背が低く、薄桜色(うすざくらいろ)の髪をしています。

 黄檗色の髪をした少女は空色のとんがり帽子をかぶり、ローブを羽織っていました。

 薄桜色の髪をした少女はサングラスをかけて目を隠しています。その下には包帯をして目を隠しているみたいです。

「良いところですね。潮風が気持ちいいです」

 薄桜色の少女、ユメが大きく深呼吸してから言います。

「そうだね。夏海のオススメのスポットだって」

 黄檗色の髪の少女、シェリーはその横で背伸びをしてから景色を眺めました。

 彼女達は早朝に紗倉見にやって来て、今日の夜には帰ることになっています。忙しいプチ旅行の最中でした。

「そう言えば、シェリー。どうして急に紗倉見に?」

 何となく付いてきてしまったユメは今さらそんなことを聞きます。

 シェリーに手を引かれ、付いていくと魔獣に食べられて気付いたら紗倉見にいました。あまりいい体験ではなかったと思っています。

「会いたい人がいてね。安静にしてるのって暇でしょ?ユメも暇そうだったから連れてきちゃった」

「私、暇だと思われてたんですか?・・・ショックです」

 落ち込むユメに「冗談だって」と言って誤魔化そうとするシェリー。

 二人は休養中でした。

 とある戦いで負傷したのです。

 ユメは軽い擦り傷程度でしたが、シェリーは色んな所を痛めていて歩きにくそうでした。

「メアリーに似てきましたね」と、呆れたようにため息を吐くユメ。

「今回くらいは私が振り回す側になってみたかったんだよ」と、シェリーは楽しそうに返しました。

「別に何でもいいですけど、私は関係ないですからね。怒られるのは嫌です」

「大丈夫。私はこう見えてやらかしたことはそんなにないんだよ」

 シェリーは自信満々に胸を叩きました。不安しかありません。

 ユメは仲間のやらかしを思い返しました。

 世界中の混乱に乗じて国を乗っ取ったり、緊急事態だとはいえ周囲のことを考えずに敵と巨大魔獣バトルをしたり、緊張状態の地域に吹雪を起こしたり・・・。思い出すだけで頭が痛くなりそうなことばかりです。

 ユメはやらかしの規模が大きくて感覚がおかしくなっている気がしました。そして、改めてろくでもないやつしかいないとも思いました。

「まぁまぁ、せっかくだから楽しもうよ」

「そうですね。でも、何かあったら全てシェリーの責任ですからね」

 そして、二人は東地区の市街地へと歩き出しました。

 ポンポン書いていけるなぁ。と思っていたらそんなことはありませんでした。

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