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私達が第二防衛線に到着する頃には吹雪で数メートル先も見えない状況でした。
大きな鐘の音が聞こえたのでそれが開戦の合図なのかもしれませんが、何も分かりません。
立派なテントの中は大混乱でした。もちろん、この吹雪のせいです。
私達、兵器組は体をほくすことにしました。
リーレイさんは一つ一つに指示を出して、ヨウエイさんや他のリスンバルからの魔導師も協力して対応しています。
「魔術機巧は維持しておいてください。ダモクレスの剣の使用時には連絡が入ることになっています」
端末をいくつも用いて第二防衛線の魔導師達と連絡を取っていました。
ケレーディア先生は端で邪魔にならないようにしています。
戦闘はほとんど出来ないみたいで、今回は私の蘇生役です。
少し目を離すと、ミオさんが見当たりません。
一瞬、焦りましたが、すぐに見つかります。外で戦いが起こっているであろう方を見ていました。
「ミオさん。外は危ないから中へ」
どっちにしても危ないとは思いますが、そんな言葉が出ました。
「何かが来ます」
「はい?」
その時でした。世界が紅くなったのです。
正確には、あらゆる物に何かの花のような刻印が現れて、それが紅く光を放っているのです。
テントも杖も服も、そして、魔術機巧も・・・。
「大変です」
誰かの声がします。
「魔術機巧が何者かに乗っ取られました」
「ど、どういうこと?」
状況を確認しようと端末を見るリーレイさん。しかし、端末にも刻印があり、全く動きません。杖もほうきも魔法に関わる物が使えなくなってしまいました。
「・・・嘘」
リーレイさんは青ざめています。
神様の仕業でしょうか。だとしたら、クレマチスさん達は・・・。
「ヨウエイ。第三防衛線の方へ走って。ありったけの魔導師を集めるの」
「しかし・・・」
「早く。魔法が使えるようになったら端末を使ってこのことを公認魔導師に伝えるの。いいね」
「はい」
ヨウエイさんは体格に似合わないほどの速さで吹雪の中に消えていきました。
「他のみんなは第二防衛線を走って魔術機巧の制御を取り返すように伝えて」
返事と共にリスンバルの魔導師は行ってしまいました。
リーレイさんはこちらに来ます。
「このままでは私達でやるしかありません。千疋さん。あの魔法は使わないでください。現状、あなたの魔法を防ぐ手段はなくなりました」
何も上手くいかず、苦い顔をしています。
「分かりました」と、返しましたが、もう無茶苦茶です。一体、どうなってしまうのでしょう?
舟が墜ちていきます。
ペルはうまくやってくれたみたいです。
墜ちた舟からは激しい衝撃音と砂埃が起こりますが、荒れ狂う吹雪がそれを抑えてくれました。
無数の群醜帝が私を囲んで片方の腕にある砲口を向けてきます。しかし、それ以上のことはせずに何かを待っているようでした。
「やってくれたな」
大きな声と共に墜ちた舟から邪魔な物を吹き飛ばして、一人の男が現れました。
ルミナと似ている髪の色で無駄にキラキラした黄金の色をした甲冑を着ています。神様とは思えない姿です。
ノシノシと声が届くところまで歩いてきます。
「あなたがカマーランですか?」
男はニヤリと笑う。
「いかにも。神に選ばれた存在、カマーラン・カリストレだ」
顎の髭を触りながら、私を嫌らしい目で見ています。
「美しいな。どうだ?私の愛人にならないか?」
・・・この状況でよくそんなことが言えますね。馬鹿なのでしょうか?
「嫌です」
この男のどこに惹かれる要素があるのか全く分かりませんでした。
「そうか。だが、俺ならお前の欲望を叶えることが出来るぞ」
手を前に出します。そこから、世界機関が発行している共通硬貨が水のように湧いて出てきました。
「金ならいくらでも出せる。それとも、この上ない快楽がほしいか?俺の物になれば、いくらでも与えてやる」
・・・最低な奴です。でも、お金を出す魔法は欲しいと思いました。研究費とかタダで何でも出来ますから。
「魔法は魅力的ですが、あなたには興味はありません」
「そうか。それは残念だな」
この男はまだまだ余裕そうな表情です。なぜでしょうか?
「それよりも、自慢の舟を落とされて、このままで勝てると思っているのですか?」
また、ニヤリと気味悪く笑いました。
「ああ、私には力があるからな」
手のひらに魔力が集まり始めます。
「禁術を知っているか?」
・・・魔法使いなら、いえ、誰でも知っていると思います。
これといった返事や動作はしませんでした。
少し眉をひそめて、カマーランは話を続けます。
「禁術、テンペスト。風の魔法で放った先には何も残らないらしい」
群醜帝が魔法に巻き込まれないように離れていきます。
「それにこのアンノウンも私の駒だ。一体だけで魔導師を何人も殺せる。私に負ける要素などない」
準備が終わったみたいです。
膨大な魔力の込められた風魔法が手のひらで球状にまとまっています。
私もこの状態のテンペストを見るのは初めてでした。
「あなたは魔法の勉強や鍛錬をしたことはありますか?」
「そんなものは必要ない。これを見ても分からないのか?」
ため息が出ました。
「まずは一発。首都までの道を開くとしよう。お前諸共な」
「あなたでは無理でしょう」
「・・・なぜだ?」
「あなたに世界を超えられない」
杖を向けます。
カマーランはまたニヤリと笑いました。
「消えろ」
全てを貫くと言われる魔法。顔の前で手を重ねて、高笑いしながら放たれます。
何度か彼がその魔法を放ったことは知っていました。もらった力とはいえ、その破壊力は彼にとってとても気持ちの良いものだったことでしょう。
しかし、魔法を放ち続けて数秒後、彼は異変に気付きました。
魔法が私の前で止まっているからです。
跳ね返り、色んな方向へ散らばっていく魔法は吹雪に呑み込まれて消えていきました。
「な、なぜだ?」
魔法が止まりました。
「何が来るか分かれば、ある程度は対応できますよ」
お返しに杖を軽く振ります。
「テンペスト」
周囲にいた群醜帝は切り刻まれ、光となって消えていきます。
「この魔法は使い勝手の良さが特徴です。このように一振りで切り裂いたり貫通させたり・・・だから、禁術なのです。あなたのように魔力を溜めて放つものではありません」
私は手のひらサイズで正六面体の魔術機巧を手元に出します。
魔力を込めると、フワッと浮かんで封印が解かれ始めます。
「これは私が仲間と一緒に作った魔術機巧です。あなたのような人には決して手に入らない宝物です」
封印が解けて魔力の波動が発生しました。そして、空が青く光り始めます。
「十々陣」
空が青く輝き始めました。
それが原因なのかは分かりませんが、吹雪は弱まって少し遠くまでなら見えるようになりました。
そして、姿を現したのは巨大な球状の魔方陣。青白く輝くそれは中心にある魔方陣の周囲をいくつもの魔方陣がまるで惑星と衛星のように回っています。それが空高く縦と横に十列ずつ綺麗に並んで広がっていました。
1つ1つがかなり複雑な魔方陣です。もしかしたら、魔法樹に匹敵する性能があるかもしれません。それだけのものが空に突然、現れたのです。
「あれはメアンミの魔法球」
リーレイさんはそう言いました。
「知っているのですか?」
「ええ、1年前くらいに新しい魔法としての申請がありました。でも、とても再現性のある魔法ではなくてアンノウンの件とかもあって見送られていた魔法です」
リーレイさんは目を細めます。
「それが100も展開されるなんて・・・」
私達はただそれを眺めていることしか出来ませんでした。
カマーランは地面に倒れています。魔力を吸い取られて気を失ってしまいました。
この魔法は自律式で一度発動してしまえば、あらゆる所から魔力を集めて存在し続けるのです。
魔法は自身の心とよく言われます。
魔法を使えば使うほど、体も心も疲労して最後には気を失ってしまいます。魔力切れってやつです。
それが今、カマーランに起こりました。
群醜帝も次々と破壊されていきます。そして、その光でさえも魔力へ変えられてしまいました。
これで終わりです。やってみたら呆気ないものでした。
1つ息を吐いてから通信魔法でアンナに話しかけようとした・・・その時です。
何かが弾けるような魔力の異変を感じました。
すぐにカマーランから距離を置きます。
カマーランの体が膨れ上がり、肉や骨が湧き出てきました。そして、ドンドン大きくなっていきます。一体、何が起こったのでしょう?
それを見てすぐに動いたのは離れた場所にいるアンナでした。
空間が歪んでアンナの守護獣であるリーラーという名前の魔導書が何体か現れます。そして、その肉や骨に食らいつきます。
『メアリー。聞こえてる?』
向こうから通信魔法が来ました。
「・・・ええ、これはどういうことかしら?」
『戦いはもう終わってる。カマーランは死んだ。恐らく、心が与えられた力に耐えられなくなったんだと思う』
きっと魔力の暴走に近いものなのでしょう。
『不老不死の力ってところかな。心は死んじゃったみたいだけど・・・もう少し待ってて。神の力のサンプルが取り終わるから』
リーラーの様子はとてもそんな風には見えません。捕食の間違いではないでしょうか?
しばらくして、サンプルを取り終えたリーラー達が歪んだ空間に帰っていきます。
まだ増殖は続いていました。
神の力はカマーランの欲望を叶えるために動いているのでしょう。私がもし斬り刻んでいたとしてもこんな風に復活をしていたと思います。それにしても、十々陣の魔力吸収の中で発動を続けているのでやはりただの魔法ではないみたいです。
不老不死。
アンナの言ったみたいにきっと彼はそれを望んだのでしょう。結果的に肉や骨を意味不明に増やすだけの存在になってしまいました。もし、魔法の扱いを学んでいたり、強い心を持っていればもう少し違う結果になっていたでしょう。
『終わりにしましょう。長引かせるのは良くないから』
「ええ、分かっているわ」
『覚えてる?世界への影響は最小限にね』
返事をせずに通信魔法を切りました。しつこかったので・・・。
深呼吸をしてから暴走する魔法に杖を向けます。
「血染めの花と愛しき世界」
固有魔法を使いました。
私の大切な・・・とても大切な魔法を・・・。
ここまで長かったです。ケレーディアのお話を入れたのは元々、そういう構成だったからです。自己満足で書いていた物語でここまで書ける日が来るとは思っていませんでした。今後も事あるごとにそんなことを書きそうですが・・・。次の目標は第一章の完結です。もう少しだけ続きます。ゆるゆると読んでくれたら嬉しいです。




