14
凍えるような寒さで目を覚ましました。
魔法で厚手のコートを取り出して羽織ります。
何ごとなのでしょうか?
時間は午前五時。
ケレーディアの夜ってこんなに冷えるのでしょうか?
いいえ、そんなことはないはずです。パンフレットに『この時期は夜も暑いくらいだ』と書いてありました。
何かが起こっているに違いありません。
窓を開けてみます。
外は薄暗く、冷気が部屋に入り込んできました。
「寒い」
空には分厚い雲が広がっており、なぜか雪が降っています。
自称神様の仕業でしょうか?それとも、まだ夢の中なのでしょうか?
・・・もう少し寝ますか。
端末には連絡はありません。
部外者が変に動くのは良くないでしょう。
窓を閉めて、温かい毛布を出しました。
きっと次に目を覚ました時は昨日までのケレーディアに戻っていることでしょう。
これは悪い夢です。寒さは感じましたが夢なのです。
もう一度、ベッドに入りました。
まぁ、夢ではなかったのですが・・・。
冬服を持っていて本当に良かったです。
木々島夫妻に連絡を取りましたが、二人も何が起こっているのか知らされていませんでした。
ニュース番組も報道はしていますが、原因は分かっていないようです。
今日は羽衣で魔法樹まで行くことになりました。
寒いので車が良かったのですが、仕方がないですね。
何枚も着込んで外に出ました。それでも、体は震えます。
温暖で冬も比較的暖かいケレーディアの人々は当然、準備など出来ておらず、寒そうに魔法で雪かきしていました。
私のような羽衣で飛ぶ魔法使いはほとんどいないので、物珍しそうに見られます。
「こんにちは。お姉さん」
若い魔法使いに声をかけられました。
「こんにちは」
次に言われることはだいたい想像がつきます。
「外国の方だね。どうだい?一時間くらい服を温かくするよ」
予想通りでした。
こんな風に魔法を売り込む人も多いです。彼女らにとっては稼ぎ時なのでしょう。
明日には大きな戦いがあるというのに・・・。それに一時間って短すぎませんか?
「すみません。遠慮しておきます」
そう言うと顔をしかめました。
「そうかい?残念。またね」
さっさと次のお客さんへ売り込みに行ってました。
なんか失礼な奴ですね。
昨日の立ち入り禁止区域にある門の前まで来ました。
門番さんは待機室のような小部屋にいてヒーターを付けて温まっています。
私に気付くと小窓を開けて「昨日の子だよね。行っていいよ」とまさかのザル警備でした。
魔法樹による監視があるとはいえ、昨日はちゃんとに身体検査されました。
門番さんは通過する様子をずっと目で追って、門を抜けるとすぐに端末をいじり始めます。後でチクってやりましょう。
草原はすっかり白く染まっていて昨日とは別の世界にいるみたいです。
・・・昨日もそんな感想だった気がします。
汚れのない白い絨毯に足跡を付けているみたいで少しテンションが上がります。
昨日は長いと感じた道のりもあっという間でした。
そこからは魔法樹の塔に入って、エレベーターに乗りました。
今日の景色も綺麗です。一面の銀世界。薄暗い中、遠くに見える町の明かり。
大きなカレンダーにある美しい景色の写真を直接見ているようです。
しかし、昨日みたいにすぐに終わってしまいます。
エレベーターの扉が開きます。
一歩踏み出すと、怒りの声が聞こえました。
聞き覚えがあります。リーレイさんです。
昨日のあの部屋で怒っているんでしょうか?
あそこが待ち合わせの場所なんですが・・・。
近づくにつれて声が大きくなっていきます。・・・やっぱりこの部屋でした。
ため息が出ます。入りたくありません。
それに部屋の前に何かがあります。昨日はありませんでした。
椅子でしょうか?その上に毛布で包まれている何かが・・・いえ、動いているので何者かがいます。
どうやら寝ている様子です。よくこんな所で寝られますね。すごいです。
・・・行きますか。
恐る恐る中に入りました。
何名かの職員が気まずそうに作業をしています。
そして、部屋の端でルミナさんとクレマチスさんが椅子に座らされていて、その前にケレーディア先生とリーレイさんが立っていました。
リーレイさんは怒りに震えていました。
「あなた達は馬鹿なんですか?いいえ、馬鹿です。何をやったか分かっているのですか?」
それにクレマチスさんが反抗的に答えます。
「だから、反省していると言ってます。この問答を何回繰り返すんですか?時間の無駄です」
両者にらみ合っています。
「そんなに怒らなくてもいいじゃないですか」
ルミナさんはヘラヘラした様子でそんなことを言っています。
「あなたのせいでしょう?雪なんて降らせて・・・今日、避難する人もいるんですよ。交通だって麻痺させて・・・ただでさえ忙しいのに仕事を増やして・・・」
巻き込まれたくありません。適当な席に座って終わるのを待っていましょう。
「おかしなことを言いますね。昨日は散々、被害が出るのは当たり前。みたいなことを言ってましたよ。ダモクレスの剣を落とすのと雪を降らすのなら、そっちの方が考えてることヤバいです」
頭を抱えるリーレイさん。
「エイル。この二人の知り合いなんでしょう?一発ずつ殴っていい?」
「いいよ。でも、顔は止めてあげてね」
あー・・・ケレーディア先生も怒ってそうです。あんな怖い声を聞いたことありません。
「ダメに決まってるじゃないですか。問題にしてやりますよ」
ルミナさんはプンプンしてました。
しかし、そんな悪ふざけが通用する訳もなく、リーレイさんににらまれています。
このタイミングでケレーディア先生が私に気付いたみたいです。
取りあえず、軽く会釈します。
先生はこちらに来ました。
「ごめんなさい。ちょっと雪を降らせちゃったみたいでね。もう少し待ってて」
どんな大魔法ですか?ちょっとって規模じゃないですが・・・。
「そもそも私は魔法を使ってません。ルミナがいけないのでは?」
「私のせいにするんですか?」
「協力してとは言ったけど、あの場で雪を降らせてなんて言ってないわ」
それを言われて明らかに狼狽えています。
「それは・・・その・・・雰囲気といいますか・・・」
「雰囲気でこんなことしたのですか?」
ズイッと詰め寄るリーレイさん。
「えーとですね・・・えーと・・・えーと・・・」
キョロキョロと部屋中を見ています。・・・嫌な予感。
私を見つけると、這いずるように素早く移動して私の手を握りました。
「助けてください。私、大チンピなんです」
手はとても冷たくて一瞬、体がビクッとしてしまいます。
「何?千疋さんも関係してるの?」
リーレイさんににらまれます。
「関係ないです」
あわてて否定しました。
「そんなひどいこと言わないでください。昨日、語り合った親友じゃないですか」
・・・昨日、話した舞木のこともきっとこんな感じで大袈裟に言っていたのでしょう。
「違います。私を巻き込まないでください」
「そんな・・・助けてください」
上目づかいでお願いされます。
正直、可愛らしくて並の男なら引っかかってしまいそうです。
「止めなさい」
エイルさんに杖で軽く叩かれていました。
こんな変なやり取りをクレマチスさんとリーレイさんは冷たい目で見ています。
・・・私は何だか疲れました。というか、明日が本番ですよね?何をしているのでしょう?
クレマチスさんはため息を吐いて立ち上がります。
「もういいですか?明日の準備があるので」
リーレイさんに厳しい視線を送られていましたが、気にする様子のなく部屋を後にしました。
「・・・え?私が悪いってことになったんですか?」
「あなたの魔法でしょう?」
「まぁ、そうですが・・・」
ケレーディア先生に服のえりをつかまれて引きずられていました。
ルミナさんは手足をバタつかせて抵抗しています。ほとんど、意味はなさそうですが・・・。
「待ってください。どこへ連れて行くんですか?」
「お父様とお母様の所だけど・・・」
「止めてください。怒るとすごく怖いんですよ。あの二人」
「そうなの?安心して。カンカンに怒っているから」
「何も安心できませんよーーー」
二人が部屋を出ると、扉が閉まりました。
明日、あの人は拉致されるのですよね?
あんな風にマイペースで過ごせたらどれだけ楽になれるでしょうか?うらやましかったりします。
さて、私はどうしましょうか?ケレーディア先生と自称神様が出現する場所の下見やお手伝いをする予定でしたが・・・。
視線を感じたので見てみると、リーレイさんと目が合います。・・・気まずいです。私も部屋を出ましょう。場所はある程度分かっているので、先に行っているとチャットでも送っておけば大丈夫だと思います。
「では、私もこれで失礼します」
ペコペコ頭を下げて部屋を出ようとしました。
「ちょっと待って」
呼び止められてしまいました。嘘ですよね。
「千疋さん。現場の下見でしょう?私もそこに行くから一緒に行きましょう」
「いえ、一人で行けますから」と、お断りしました。
・・・そのはずでした。
私はリーレイさんと一緒に何だか長くて高級そうな車に乗っていました。
運転は大きな体のヨウエイさん。きっとペアを組んでいるのでしょう。
運転席とここは仕切りがあって声は聞こえないと思います。
雪かきもそれなりに終わっているようでスムーズとまではいきませんが、走行は可能なようです。
これから、パーティーでもするのではないか?と勘違いしてしまいそうになるほど煌びやかな車内で向かい合って座っています。
車に乗り込んでからのリーレイさんはまるで別人のようでドサッと座って、キセルでしたっけ?それを吸っていました。
何とも言えない臭いが広がっています。柊は嫌いでしょう。
特に会話のない地獄のような時間です。なぜ、一緒に行こうなどと言ったのでしょう?走り出してから数分しか経ってませんが、数時間も経っているような感じがします。
端末をいじるわけにもいきません。
さっきからチラチラこちらを見てくるのも鬱陶しいです。
・・・ダメ元で何か話してみますか。
「吸われるのですね」
キセルって吸うという表現で合っているのでしょうか?まぁ、何でもいいですけど・・・。
「ええ、この仕事をやっていると嫌なことが多くてね。コレがないとやってけないの。情けない話でしょう」
「いいえ、辛いことの多い仕事ですから仕方ないと思います」
公認魔導師をやっているので大変さはある程度は分かっているつもりです。世界機関と一国の公認魔導師では比べものにはならないと思いますけど・・・。
「ありがとう。あなたもどう?」
「いえ、私は吸わないので」
「そう」
少し残念そうに見えました。
もう一度、吸って煙を吐いてから口を開きます。
「昨日はごめんね。結構、ヒドいこと言っちゃった」
思ってもみない言葉でした。兵器としか見られていないと思っていたので驚きです。
「えーと・・・そうですね。少し辛かったです」
「本当にごめんなさい。今回、召集した件も含めてね」
キセルの手入れをしながらでしたが、申し訳ないという気持ちは何となく伝わりました。
「・・・はい。ところで、なぜ私だったんですか?」
手入れが終わったのかキセルをしまって、私の目を見て話し始めます。
「千疋さんなら神様を倒せると思ったからかな」
・・・そんなに期待されていたのですか?
初対面ですし、兵器としての記録は書類しか残ってないはずですけど・・・。
「難しい顔しないでよ」
と、言われます。そんな顔してたのでしょうか?
「あなたの魔法の一撃で全てを終わらせたいの。これ以上の犠牲者を出さないために」
その時のリーレイさんの顔は勇ましい表情でも憎しみの表情でもありません。
疲れきってさっさと終わらせたい。そんな疲労感のある表情でした。
「私がこの件の担当になってから多くの人を殺してしまったの。世界機関の部下だったり、リスンバルの魔導師だったりね。・・・もう終わらせたいの・・・もう人が死ぬのを見たくないの」
私は何も言えませんでした。
言葉が見つかりません。
彼女はずっと戦い続けてきたのでしょう。まだ若いのに色々と背負ってここまでやってきたのでしょう。色々と見てきたはずです。本当に色々と・・・。
リーレイさんは立ち上がって目の前まで寄ってきます。・・・ち、近い。
「何ですか?」
思わず、顔をそらしてしまいます。
私の頬に手で触れて優しくなでてきました。
どどどどうしましょう。偉い人を押しのけるわけにもいきませんし・・・。
「私はあなたにも犠牲にならないでほしいの」
・・・え?
リーレイさんの方に顔を戻しました。やっぱり近いと思います。もうキスするような距離じゃないですか。
「あなたは今もこうして生きている。ちゃんと熱を持っている」
「あ、あの一度、離れてくれますか?話が入ってきませんから」
それを聞いて「そうね」と言って反対側の席に戻っていきました。
海帆や舞木とか慣れた人なら大丈夫ですが、初対面で触れられるのは抵抗が強いです。
それから少しだけ気まずい沈黙の時間があって、また向こうから話しかけてきました。
「それにしてもクレマチス家が介入してくるなんてね。想定外だったよ」
「そ、そうですね」
咄嗟に答えなので訳の分からない返事になってしまいます。
クレマチス家。私も半年前の事件で初めて知りました。
あの人は何を考えているのでしょう?
お姫様になったのに神様と戦うなんて・・・。
「あなたもあの子には気をつけた方がいいよ。何を企んでいるのか分からないからね」
「はい。気をつけます。明日、死んでしまうかもしれませんけど」
少し嫌味っぽく言いました。
「それを言われるとちょっと・・・。でも、すぐに対応できるに準備はしてあるから・・・」
困っていました。こうして話してみるととても可愛い人ですね。
魔法樹には色んな機能があるみたいです。
例えば、気温に合わせて見た目を変えるとか。
昨日まで綺麗な緑色の葉を付けていましたが、すっかり無くなって枝だけになってしまっています。
女性がいました。魔法樹の枝に座って町を見下ろしています。
猩々緋の色をした長い髪は風で揺れていました。
彼女はこの国の公認魔導師の一人でカプレサスと名乗っていて、みんなからはカプレと呼ばれています。
「帰ってきてたんですね」
私はカプレに話しかけました。
彼女は自由奔放で基本的にケレーディアにはいません。世界中を旅してお金がなくなったら稼ぎに帰ってくるという生活を続けています。
「ルミナか。お説教は終わったの?」
「はい。こってりと絞られました」
それを聞いてニヤニヤしています。性格悪いですね。
「今回の奴はお前一人で倒せないのか?」
「余裕ですね。でも、話が大きくなってしまって」
フーンと興味なさそうに言います。なぜ聞いたのでしょう?
せっかくなので横に座ってあげました。
カプレはチラッとこちらを見てから町に視線を戻します。
「私達の出番は?」
「最後の最後、世界機関の用意した魔導師が全滅してからです」
「・・・そっか」
カプレはゆっくりと腰を上げて背伸びをします。
「じゃあ、出現地点の魔方陣でも眺めてから飲みにいってくる」
行き先は大魔導師様の所ですかね。もう少し一緒にいてくれてもいいのに・・・。
「でも、面会を求めている人がいますよ」
嫌そうな顔をしてからため息を吐きました。
「私を殺そうとしてるんだよ。こんな状況でもね」
「大変なのですね」
「うん。世界中あちこちで狙われてる」
「本当に大変ですね」
この国には私やカプレも含めて訳ありの魔導師が多い気がします。
良くも悪くもそんな魔法使い達が行き着く国なのでしょう。
「じゃあ、行ってくるわ。エイルに伝えといて」
「はい。いってらっしゃい」
カプレは魔法樹から飛び降りて、行ってしまいました。
たまにいるのです。ほうきよりも魔法を自分の体にまとって跳躍して移動する人が。カプレもその内の一人です。ほうきの方が楽だと思うんですけどね。まぁ、私はどちらも苦手なんですけど。
目的地に到着しました。
なぜか分かりませんが、さっきよりも暗い気がします。
雲が分厚いからでしょうか?
ここは森と何もない平地の境界です。
神様が現れる座標から半径1キロを円状の平地に変えたみたいです。多くの魔法使いを使ったのでしょう。
森には雪が積もっていましたが、平地には積もってません。急いで除雪したのか特殊な魔法で積もらないようにしたのかは分かりません。
この雪でも森や農作物には影響はありません。
魔法樹によって魔法がかけられたのです。
詳しくは知りませんが、それは植物などを急激な異変から守ってくれる魔法。かなり古い魔法だと聞いています。研究者向けの魔法なのでしょう。
かつては植物に外からの影響を受けなくさせる呪いとして使われていたようです。
これによって多くの不毛地帯が生まれたと言われています。
すごいですよね。研究によって呪いが自然を守る魔法になるのですから。
森との境界には等間隔に杭が打たれていて、それが点滅しているのが遠くまで見えます。平地を作る時の目印にでもしていたのでしょう。
ここには大きめのテントが1つしかありません。
もう少し離れた次の防衛線の方が設備が良かったです。
リーレイさんの想定では兵器を三連発して一気に終わらせるらしいのでこんなのでもいいのでしょう。
むしろ、私達が失敗して次の防衛線まで侵攻してしまう時の方が大変なのかもしれません。
作戦内容もそこからのことの方が詳しく書いてありました。
テントの中は机と椅子があって、後は封印用の魔方陣が設置されています。ダモクレスの剣をあそこに保管するのでしょう。
そして、世界機関の職員が暇そうにしています。それは見なかったことにしましょう。
「では、神様が現れる座標を見に行きましょうか」
と、リーレイさん。この人も暇なのかもしれません。まぁ、でも、準備自体はほとんど終わっているみたいなので、後は待つだけなのでしょう。
「はい。分かりました」
私とリーレイさんは歩いて座標へ向かいます。
少し歩いてからのことでした。
「ねぇ、今日の夜は時間ある?」
突然、そんなことを言われます。二人きりの時は敬語ではなくなっていました。
「・・・あるにはありますよ。なぜですか?」
少し警戒してしまいます。さっきの距離感も普通ではありませんでしたから・・・。
「なら、私の部屋に来てくれない。あなたのことをもっと知りたいの」
それってどういう・・・?部屋に誘うって・・・え・・・?いえ、私の考えすぎですよね。
「明日、死ぬかもしれないのにですか?知っても仕方がないと思いますよ」
「・・・そうなのかな?」
リーレイさんは立ち止まります。そして、近づいてきました。
「もしかしたら、私はおかしくなっているのかもね。今まで大勢の犠牲者を出してきたのにたった一人の犠牲者で済ませようとしている今が・・・なんか・・・とても辛いんだよ」
またあの疲れた顔で笑っています。
「これはどんな気持ちなんだろう。あなたを深く知って罪の意識を強くしたいのか、少しでも良い思いをさせてあげたいのか」
顔を近づけて耳元でささやきます。
「私とは嫌?」
思わずリーレイさんを押してしまいました。
しかし、腕をつかまれて、引き寄せられてしまいます。
答えるしかないみたいです。
「私は死ぬつもりはありません。それに私はそんな軽い女でもありませんから」
数秒、にらみ合っていたらリーレイさんがため息を吐いてから放してくれました。
「・・・ごめん・・・忘れてね」
また歩き始めました。それに続きます。
空気が重くなりました。当たり前ですけど。
リーレイさんがこんなことをする気持ちが分からない訳ではありません。
きっと誰かに寄りかかりたいだけなのです。
しかし、それは大切な人の役目であって私ではありません。
・・・でも、私にできることもあります。
自称神様を倒すことです。
この残酷な戦いを終わらせることです。
それは空高くにありました。
私は羽衣を羽織って、リーレイさんは足場を魔法で作りながら跳び上がって、それに近づいていきます。
自称神様が座標と呼んでいたのは球状の魔方陣です。
薄い結界の張られていて色は青白、手のひらに乗りそうなくらいの大きさでした。
ここから繋ぎ門のような魔法で現れるのでしょう。
魔方陣の近くに先客がいました。
とんがり帽子とローブ姿の二人。二人ともほうきに乗っています。
一人はすぐに分かりました。
目立つ深紅の色をしていましたから。
もう一人は初めましてのようですが・・・。
ペアの方でしょうか?
小柄な女の子です。黒に近い色のトンガリ帽子とローブですが、サイズが大きいように感じます。
黄赤色の髪で首にはマフラーをしていました。
「ここで何をしているのですか?」
強めの口調でリーレイさんは言いました。
「やっぱり良くなかったじゃないですか」
女の子は可愛らしい声です。
「気にしなくていいわ」
こちらを見ることもせず、端末を使いながら魔方陣を観察しています。
「クレマチスさん。ここは世界機関の職員以外は立ち入りを禁止しているんです。入るにしたとしても許可が必要なんですよ?」
ようやく、同じ高さまで上れました。
「取りましたよ。エイルに」
リーレイさんは顔をしかめます。
「いつですか?」
「この後にです」
「何を言って・・・勝手すぎませんか?」
とても怒っています。
チラッとこちらを見るクレマチスさん。私達の様子を見てこちらを向きました。
「私達は明日の戦いの一番手です。大目に見てください。それに、今ここであなたが許可してくれたらそれで済む話です」
この人は何か・・・すごいですね。明け暮れにはいないタイプの方です。
それを聞いたリーレイさんが口を開こうとした瞬間、リーレイさんの端末が鳴ります。
軽くクレマチスさんをにらんでから離れて通話を始めました。
「忙しそうね」
また、観察に戻りました。
一方、黄赤色の髪をした少女は「こんにちは」と挨拶をしながら私に近づいてきます。
私も同じように返します。
「初めまして。ペル・ガーネットと申します。メアリーさんの弟子の魔法使いです。よろしくお願いします」
丁寧に頭を下げてくれました。
「千疋南君です。こちらこそよろしくお願いします」
頭を下げ返しました。
何だか海帆に雰囲気が似ています。しっかり者のオーラを感じました。
私の名前に反応したのはまさかのクレマチスさんでした。
「そう言えば、千疋南君ってどこかで聞いたような・・・」
クレマチスさんがまたこちらを向きます。
私って有名人だったりするのでしょうか?それはまぁ、紗倉見の公認魔導師ですが・・・。
と言うか昨日、兵器紹介の時に名前言われてたような・・・聞いてなかったのでしょうか?
「たしかに・・・どこで聞いたんでしたっけ?」
二人は何か私に関することを思い出そうとしていました。
しかし、クレマチスさんはすぐに飽きて、自己紹介をしてくれます。
「まぁ、どうでもいいわね。私はメアリー・クレマチス。よろしくお願いします」
「はい。こちらこそよろしくお願いします」
その時、ガーネットさんが声をあげました。
「思い出しました。水樹さんの妹の師匠ですよ」
クレマチスさんもハッとします。
「水樹が愚痴を言っていたあの人ね」
なるほど。そこと繋がってましたか。
私が舞木とペアを組んでいた時の同期です。ライバルと言ってもいいかもしれません。
私と舞木が公認魔導師に選ばれてから、現在はアンノウンに占領されてしまったアウルと呼ばれる国に修行しに行ったと聞いています。今は何をしているのでしょうか?
結局、私と舞木のペアは解散して公認魔導師には私しかなりませんでした。
「水樹の知り合いなんですか。元気にやってますか?」
「ええ、私の研究仲間よ」
今はそんなことをしているんですね。世の中は意外と狭いのかもしれません。
「ちょっとごめんなさい」
リーレイさんが電話から戻ってきました。
「急用が入りました。今回は特別に千疋さん監視の元でならここにいることを許可します」
え?変な仕事を任されました。私、関わりたくないんですけど・・・。
「嫌ですよ」
リーレイさんは私の肩をポンッと叩きます。
「じゃあ、よろしくね」
そう言って急いでさっきのテントの方へ行ってしまいます。あー、どうしましょう。
「色々と大変なのですね」
クレマチスさんに同情されました。
「はい」
空を見上げます。本当にどうしましょう。
明日は戦争だというのに見守りとは・・・とても嫌です。
「千疋さん。暇ですか?」
クレマチスさんには私が暇そうに見えるのでしょうか?
「すみません。私も仕事があるので失礼します。何かあったら責任はリーレイさんに押しつけてください」
リーレイさんも散々、私を振り回したのです。これくらい許してくれるでしょう。
「待ってくださいよ」
「嫌です」
「手伝って欲しいことが・・・」
「嫌です」
絶対に碌でもないことです。
この様子を見ていたガーネットさんは「何かしたんじゃないですか?」とクレマチスさんに聞いています。
「私は何もしてないわ」
「昨日、杖を向けられました」
覚えてますよね?いきなり杖を向けるのはかなり失礼な行為です。
ガーネットさんは引いた顔でクレマチスさんを見ます。
「そんなことしてたんですか?」
ギクッとしてから外方を向いて「そうだったかしら?」と、とぼけています。
「本当にごめんなさい。メアリーさんは良い人なんですよ。非常識なこともしますけど・・・良い人なんです」
非常識なことする人は良い人なのでしょうか?でも、ガーネットさんとの関係を見ると慣れれば印象が変わるのかもしれません。そこまで関わりたくはありませんが・・・。
パンッと手を叩いたのはクレマチスさん。
「そんなことは忘れましょう。手伝ってください」
・・・こいつ。
いえ、私は大人です。イラッとした気持ちを抑えます。
「話だけは聞いてあげます」
諦めました。
ここで会ったのも何かの縁です。ちょっとくらいなら付き合ってあげましょう。そう自分に言い聞かせます。
「ありがとう。では、この魔方陣を攻撃してみてください。私達は離れて見ているので」
「・・・え?」
クレマチスさんは可愛らしく笑っています。
この人は本当に何を言っているのでしょうか?
この魔方陣を壊したら何が起こるか分かりません。もしかしたら、侵攻が始まるかもしれません。大爆発を起こすかもしれません。そういう危険性を理解してないのでしょうか?
「いやいや、そんなお願い止めてください」
ガーネットさんはあわてて止めます。
「また怒られますよ。それに何か起こったらどうするんですか?」
良かったです。同じことを思っていました。
なんだかここに来てから変わった人達ばかり。私の方がおかしいのか?と、思うことが多かったのでガーネットさんのような存在は安心できます。
しかし、クレマチスさんは「問題ないわ」と言います。
「一番手は私達。次は千疋さん。明日に起こる大変なことが今日になるだけよ」
本気で言ってそうです。いえ、本気で言ってます。
こんな軽いノリで一国を乗っ取り、女王になってそうです。
私はテントへ向かって飛びました。
「ちょっと、待ってください」
もう付き合いきれません。
さっさと逃げることにしました。
ネット小説大賞さんから感想をもらえました。とても嬉しいです。ありがとうございます。
色々と忙しくて遅くなってしまいました。
ケレーディア編は三回で終わる予定でしたが五回になりました。次回はそんなにでもないと思うので今年中にはもう一回は更新したいです。
あと、各お話にサブタイトルをつけようと思います。これはそのうちにやります。




